“よくわからないベンチャー企業“から入退院支援のパイオニアへ ~「CARE BOOK」が500病院への導入に至るまで~

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“よくわからないベンチャー企業“から入退院支援のパイオニアへ ~「CARE BOOK」が500病院への導入に至るまで~

これまで医療ヘルスケアの共創プラットフォームとして、様々な情報を発信してきた「Healthtech DB」。この度、より有益な情報発信出来るメディアをめざし、第一線で活躍する方々のインタビュー企画をスタート。今回インタビューにお答えいただけるのは、入退院支援クラウド「CARE BOOK」を500以上の病院へ導入してきた株式会社3Sunnyの共同創業者COOである榎本順彦さんです。

“アップセルに限界がある”病院という世界での挑戦

―まずはCARE BOOK、500病院への導入おめでとうございます!

※2022年3月2日のプレスリリースにて、3Sunnyが運営する入退院支援クラウド「CAREBOOK」の導入病院数が500を突破したことを発表。

ありがとうございます。振り返れば本当の最初、一病院に導入してもらうまでが本当にしんどかったですが、いいチームにも恵まれて2年でここまで来られたのは感慨深いです。

―最初から「こういったことをしたい」というビジョンは持たれていたのでしょうか

正直これは真似してほしくないのですが…「ヘルスケア領域で何かやります」しか決まっていない状態でした(笑) その時点でメンバーは3人、私が後からjoinした立場で、一足先にリクルートの同僚二人がいました。

―そうだったのですね(笑) でも、今となっては業界に大きな影響を与えていますし、立派なミッションも拝見します。

ありがとうございます。現在は「医療介護のあらゆるシーンを技術と仕組みで支え続ける」というミッションを掲げて、「CARE BOOK」を中心とした事業展開を行っています。めざすところは「社会インフラになりうること」ですし、今後は社名の由来にもなっている「三方良し」の状態に向けて、マーケット拡大にも取り組んでいきたいですね。 

―それにしても、CARE BOOK導入で「最初が大変だった」というのはどうしてだったのでしょうか?

私たちのような、言ってしまえば“よくわからないベンチャー企業”に任せることへの不安ですよね。ましてや病院という場所が扱う情報は氏名や住所にとどまらず、家族関係や既往など、センシティブなものばかりです。さらに加えると、病院という組織体の風土として「アップセルに限界がある中で、どうしてもコスト削減への思考が先行しがち」というものがあります。一般企業などでは「サービスを導入していかに生産性を上げるか」という思考が比較的受け入れられやすいと思うのですが、病院の場合「コストを削りたいのに、なんでシステム導入にお金をかけるんだ」と言われかねないのが正直なところです。

―確かにそれは感じますね。ではそのハードルをどのように越えていったのでしょうか?

まず扱う情報については、個人情報を使わなくても入退院管理ができる仕組みを構築しました。入院・退院のやり取りをする上で、名前だったり厳密な住所だったりっていうのは必ずしも必要ありません。ビジネスモデルとして、1つこの点はユニークだと捉えています。あとは実績作りですね、駆け出しのサービスとは言え、数値的な変化は頑張って取れるように序盤から注力しました。導入してくださった病院に、実際の残業時間を出してもらったりとか、それをインタビューさせてもらったりとか。現に目に見える変化が生まれていましたからね。 

3Sunnyの提供する入退院支援クラウドのCAREBOOK

「病院は変わりたくなくて変わらないのではない」という気づき 

―そもそもCARE BOOKが担う「入退院管理」というところには、どのように行き着いたのでしょうか?

創業期はとにかく、プロダクトを作っては試して、潰して…ということの連続でした。その中で、入院先を探すのに困っている方々の声を聞くようになって、「医療介護領域の食べログ的なものがあったらいいよね」と着想したのが2018年頃でしょうか。そこから少しずつ形にしていって、「もっとこういう機能があったらいいよね」っていうのを加えて…。ちょうどそのタイミングで、付き合いのあった大学病院でソーシャルワーカーの方が産休に入られたことがあって。その病院に常駐させてもらえるようになったことが、サービスの具現化をさらに後押ししました。

―「入退院管理」というところに市場があることは、きちんと見込めていたのですか?

いえ、正直なところ「市場ってそもそもあったんだろうか」という感じです。ただ、現場で働く人たちのPainが強いということはわかっていましたから、「自分たちがやり抜いたらいけるんじゃないか」と思ったと言いますか…。あとは、最初に共感してくれた方々が周囲にも広げてくれたところが大きいですね。 

―入退院管理のシステム化には、具体的にどのような狙いがあるのでしょうか?

私たちはの会社としてバリューのひとつに「圧倒的現場主義」という言葉があります。と言うのも、医療介護における一番の価値ってサービス提供者なんですよね。ですから、その方々をいかにリスペクトできるか、というところがまず根幹にあります。

そのうえで自分たちができることを考えた時に、電話だったりファックスだったりといったやり取りに対する業務負担を軽減することで、患者さん一人ひとりにフォーカスする時間を長く取ってもらえたら、というのが狙いです。リスペクトと口にするだけでなく、実際にそれを形にするまでが私たちの仕事だと捉えています。

―導入はスムーズだったのでしょうか? 

いいえ。今も少し触れたように、病院という世界って、他の領域以上にシステム導入が進まないというか、未だに電話とファックスが主流です。ただ、様々な病院を回ったり声を聞いたりして確信したのは、「彼らは変わりたくなくて変わらないのではない」ということ。もちろん変わることはおろか、上の人たちに正しい説得をして正しい承認を得る、というのはハードルが高いですが、だからこそ「CARE BOOK」という実体が“きっかけ”になったのかなと。本当は変わりたかった彼ら・彼女らに寄り添うことができたのかな、と感じているんです。

―そこにコロナ禍の影響はありましたか…?

はい、コロナ禍を機に入院を受け付ける電話がパンク状態になったことは、一つ導入を進めるきっかけになりました。もちろんこれまでも受電業務というのは負担になっていたと思うのですが、物理的に追いつかない状況がやってきたわけですから。「電話だけに頼っていてはいけないのではないか」「うちでもCARE BOOKを使ってみようか」というデジタルシフトの契機になりましたよね。現に、2020年1月にリリースをしたわけですが、コロナ禍が本格化してから一気に導入が進んだ印象です。仮に5年前にリリースしていたら現場の危機感というのは今より希薄だったかもしれないと思うと、僕たちがすごかったと言うより、タイミングだったのかなとも感じています。 

医療介護におけるセールスフォースをめざしたい

―500という数値もですが、しっかりとした手応えを得ている印象ですね。

そうですね、でも“手応え”というよりも「もっとサービスを成長させていかなければ」という危機感というか使命感という方が現実に近いかもしれません。言い方を変えれば、こうして多くの病院に導入していただく中で、ゆくゆく「営業ならセールスフォースだよね」というのと同じ勢いで「医療介護の領域で仕事するならCARE BOOKだよね」っていうところをめざそうと、目線が上がってきたのもあります。 

―やはり現場の方からも期待の声は大きいのでしょうか?

ありがたいことに「3Sunnyって業務改革をしてくれるんだ」という認識は少しずつ広まってきたと実感しています。「こういうこともできない?」といったお声もいただくからこそ、体制づくりも含めて、責任感を持ってやっていかなければと感じているところです。

―今後に向けてはどのようなビジョンを描いているのでしょうか?

この度500病院への導入というところを突破したわけですが、これからもっと、1,000、2,000とその数を増やしていきたいです。これはただ数を増やしたい、という話ではなく、私たちのプラットフォームは、ユーザーが増えれば増えるほど体験価値が上がっていく仕組みです。ですから、今すぐに47都道府県全部とはいかずとも、まずは都市部を中心に導入を進めていきたいですね。

―他の領域への展開などは考えられているのでしょうか?

今の話を縦軸の伸展とすると、横軸の動きも少しずつ進めています。具体的には介護領域への橋渡しですね。退院をした後、介護のフェーズに入る人は多くいらっしゃるわけですが、両者でシステムが違うと情報は断絶されてしまいます。ここに私たちがどういう介入をして、どういう価値を提供できるのか。まだ仕込んでいる最中ではありますがポテンシャルは大きいだけに、着実に形へしていきたいです。

3Sunny社より提供。今後の事業展開イメージ

―一緒に形にしていく新しい仲間も募集中、でしょうか?

仰る通り優先順位は高いです。医療やヘルスケア領域に対するリテラシー、あるいはビジネスへの鋭い視点を持った人へいち早く来ていただきたいです。

今いるメンバーも“動物園”と言いますか(笑)、リクルートだったりベネッセスタイルケアのような大企業出身だったり、病院の経営企画や看護師、あるいはITベンチャー出身の人もいます。バックグラウンドは違うけど同じ目標に対してやっていくことのできるメンバーが揃っていますので、是非joinをお待ちしています。

Healthtech DB編集部です。Healthtech DBは国内のヘルステック領域に特化したビジネスDBです。日々のヘルステック業界の動向に関する記事作成やウェビナー運営、企業・サービスに関するビジネスDBの構築を行っています。