DTx(デジタルセラピューティクス)は、数年前に使用され始めた言葉であるが、近年様々な疾患領域に拡大している。この記事では、DTxの一般的な定義を確認した上で、疾患別にどのように活用されているのかについてみていきたい。
DTx(デジタルセラピューティクス)とは広義で治療プログラム・ソフトウェアを指す
DTxとはデジタルセラピューティクスの略語であり、直訳するとデジタル療法である。しかし、明確な定義は決まっておらず、一般的には治療プログラムやソフトウェアを指す。一部狭義的に治療用アプリという捉え方もあるが、この記事では治療用アプリを含む治療プログラム・ソフトウェア全体で外観する。
DTxは様々な疾患において患者に即した医療の提供、医療従事者の負担を軽減する
DTxは医療現場において、患者と医師のそれぞれにソリューションを提供する。従来患者は、医師との接点がない診療から再診までの時間や必ずしも個人に合った治療方法を受けることができなかった。しかし、DTxの利用によって医師との連絡がこまめに可能になったことや、個人に合った治療を受けるこが可能となった。特に治療用アプリは毎日個人の健康データを記録するので、データをもとに自分に最適化された治療を受けることができる。
医師はDTxの利用によって、データの蓄積が多くなった。これによって、診断内容や治療方法の意思決定がしやすくなった。また、診断補助機器の利用によって、既存の業務フローを短縮することも一部の疾患では見られる。これによって、医師をはじめとする医療従事者の負担を軽減することができる。
ここでは疾患別でDTxが具体的にどのようなことができるのか?について見ていく。
循環器系疾患領域(心臓血管)では、個人に適したリハビリが可能となる
この領域では、健康な体を維持し、循環器系の疾患の再発防止することが重要となっている。アプリなどを通じて、医療施設ではなく自宅などで運動やリハビリをするための機能を開発している。他にも、日々のバイタルデータ共有、生活食事管理、AIによる通知・チャット機能などによってあらゆる方面から行動変容を促す。
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がん領域では、薬物治療の副作用をタイムリーに管理することができる
がん治療において重要なのは早期発見と発見した際の薬物療法である。DTxはこれを解決するために、CTやMRI画像をAIなどの先端技術を利用することで、診断補助を可能とする。また、薬物療法においては全身状態や副作用をコントロールしながら治療を継続することが重要である。そのため、タイムリーな副作用の発見や刻々と変わる症状へのケアを行うためにアプリの開発なども進んでいる。
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感染症(呼吸器)領域では、症状の診断支援をAIを用いて行うことができる
今年度はコロナだけでなく、インフルエンザウイルスも流行すると言われている。東京都内でも3年ぶりに流行している。この領域では、これらの診断を医師がスムーズに行い、感染リスクを下げるため診断補助AIが開発されている。
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認知症領域では、脳波を使った認知症スクリーニングサービスやAI疾患リスク評価ができる
今後日本においては、高齢社会が進むにつれて認知症患者は増加すると考えられる。この社会的コスト抑制のために早期の発見・予防が進んでいる。DTxの利用によって、目視では気づくことが難しい脳の状態や、認知症に関連する萎縮をAIなどを用いて脳の状態を簡便に評価でき、疾患リスクを知ることができる。
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脳の領域(脳卒中)では、手術後に麻痺が残る患者向けのリハビリ支援ができる
AIによる早期発見と発症後に麻痺が残る患者向けのリハビリ手法がこの領域において注目されている。機械が人の生体信号を読み取り、その信号どおりにロボットが体を動かすのをサポートしてくれる。
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整形外科疾患領域では、アプリを活用して、運動療法、認知行動療法などを組み合わせた治療ができる
この領域ではDTxでアプリを活用することで、従来別々に行われてきた運動療法、認知行動療法などを総合的に組み合わせた治療が実現できる。加えて医療従事者の負担軽減、医療機会の損失軽減にも繋がると期待されている。
精神・行動障害領域では、VRを活用して認知機能を活性化することができる
精神科領域におけるVR活用は注目を浴びている。2022年2月ににジョリーグッドが大塚製薬との最大50億円の大型契約を発表したことが発表された。
今後認知行動療法アプリ、認知行動療法VRコンテンツ、ゲーム形式の治療アプリケーションなどデジタルの強みを活かしたDTx製品が開発されると思われる。ウェアラブルの観点では詳しくはこちらの記事を見ていただきたい。
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内分泌・代謝系疾患(糖尿病)領域では、食事療法や血糖管理方法を指導するアプリが開発されている
糖尿病患者と糖尿病予備軍の人々にとって重要なのは健康的な食習慣や運動習慣を身につけることである。日常の中でのアプリを取り入れることで規則的に運動や健康的な食習慣を送ることができる。最近では保険会社の付帯サービスとしてついてくることが多い。
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まとめ:DTx(デジタルセラピューティクス)において今後どのようなことが期待できるか
これまでDTx(デジタルセラピューティクス)がどのように疾患領域別に活用されているか見てきた。最後に今後どのようなことがDTxにおいて期待されるかについて考察する。
1.がんの早期発見と治療方法
現在アプリなどがDTxにおいて中心となっているが、今後はAI技術を積極的に用いてこれまで解決されなかった難病の早期発見や治療方法が開発されることが期待される。また、日々のデータをもとに特定のがんのリスクなどの検出ができるのではないかと考える。
2.認知症領域など高齢者に対するソリューション
高齢化が進むことでこれからこの領域でのニーズが高まり、人的負担も大きくなる。認知症の防止や効果的な治療を解決策として出すことで、医療従事者や介護関係者の負担を減らすことが必要だと考える。