DeNAが取り組むヘルスケア事業の苦難の道のりと今後の光

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DeNAが取り組むヘルスケア事業の苦難の道のりと今後の光

DeNAが取り組むヘルスケア事業の苦難の道のりと今後の光

2022年5月25日、DeNAがアルムを300億円で買収したことは、ヘルスケア業界に衝撃を与えた。DeNAは2014年からヘルスケア事業を立ち上げ、数々の苦難を通り越して今に至る。本稿ではDeNAのヘルスケアのこれまでの取り組みについて扱い、今後のヘルスケア事業の可能性についても検討する。

DeNAのこれまでのヘルスケア事業の取り組み

DeNAは基本的にはゲームとメディア, エンタメで成長してきた企業

DeNAの創業者は南場智子で、ゲーム、スポーツ、ライブストリーミング、ヘルスケア、新規事業の主に5つの事業を展開している。その中でも、ゲーム、スポーツを主軸において成長してきた企業であり、最近では若年層(Z世代)のテレビ離れの影響を受けライブストリーミング事業も好調である。ゲームでは、DeNAゲームやMobage(モバゲー)、スポーツでは横浜DeNAベイスターズが有名である。

(DeNA、IR資料、2022年3月期p32021年3月期p4より)

その中でもDeNAは継続的にヘルスケア事業に挑戦してきた

DeNAのヘルスケア事業がスタートしたのは2014年で、遺伝子検査サービス「MYCODE」(マイコード)を皮切りに、2015年に健康保険組合・健診機関向けのヘルスケアエンターテインメントアプリ「KenCoM」(ケンコム)、2016年に歩数計測アプリ「歩いておトク」といった新たなサービスを生み出し、次々と提供してきた。直近ではDeNAがアルムを買収したことで、ヘルスケア業界に衝撃を与え、果敢にヘルスケア事業に取り組んでいる動きが見られる。

しかしWELQを中心に様々な失敗もある

DeNAはこれまでヘルスケア事業に挑戦してきたが、数々の失敗も経験している。その中でも代表的な失敗が医療キュレーションサイトを提供していたWELQで、医療従事者以外の人々による病気・健康関連の情報について多く提供されていたことが問題視された。他にも、ヘルスケアニュースサイトの「Medエッジ(メドエッジ)」、歩くだけでポイントがたまるスマートフォンアプリの「歩いておトク」、脳に良い習慣を身に着けるためのブレインパフォーマンスアプリ「Easiit(イージット)」などが、一度は立ち上げたもののサービス終了に追い込まれた。

DeNAのヘルスケア事業の構成

子会社

DeSCヘルスケア株式会社
DeSCヘルスケアはディー・エヌ・エーと住友商事により2015年に設立された会社である。健康保険組合・自治体や保険業界向けに、個人の健康改善サービス、「kencom(ケンコム)」を提供している。

株式会社DeNAライフサイエンス
DeNAライフサイエンスは2014年に設立したDeNAヘルスケアの子会社であり、主なサービスとして遺伝子検査サービスの「MYCODE(マイコード)」と「生活改善プログラム」の2つを提供している。

連携会社

株式会社PFDeNA
PFDeNAは2016年に設立された株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)と株式会社Preferred Networks(PFN)の合弁企業である。深層学習技術を活用して、少量の血液から14種のがんの有無を判定できる高精度なシステムの開発を目指し、共同研究を実施している。

直近5年の事業提携リスト

以下は直近5年で研究契約、業務提携契約、協業等を結んだ企業のリストである。

時期

企業名

2018年3月

DSM株式会社

2019年2月

メットライフ生命保険株式会社

2019年3月

朝日生命保険相互会社

2020年4月

株式会社データホライゾン(業務提携)

2020年7月

エーザイ株式会社

2020年8月

株式会社Buzzreach

2020年8月

株式会社データホライゾン(資本業務提携)

2020年10月

ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社

2020年12月

IQVIAジャパングループ

2021年5月

協和キリン株式会社

2021年6月

第一生命ホールディングス株式会社

2021年9月

株式会社法研

2022年2月

リゾートトラスト株式会社

2022年5月

メディカル・データ・ビジョン株式会社

直近5年の買収企業リスト

以下が直近5年で子会社化、グループ会社化した企業リストである。

時期

企業名

2021年7月

日本テクトシステムズ株式会社

2022年5月

株式会社アルム

直近の決算とヘルスケアセグメントの売上・利益推移

事業立ち上げ段階とコロナの影響があり赤字であるが、利益は順調に増加している。IR資料によると、3年で損益反転を目指して進めている。

(DeNA、IR資料、2022年3月期p16より)

DeNAの現在のヘルスケアセグメントの中心事業について

MYCODE: 遺伝子検査サービス

遺伝子検査マイコード(MYCODE)は、「遺伝子の持つ情報を解析」することで、検査をうけた人の病気のかかりやすさ、体質などの遺伝的傾向を知る検査である。「がん」や「生活習慣病」などに関する遺伝子を唾液で簡単に検査でき、最大280項目について検査することができる。

マイコードを購入後、自分の唾液を専用のキットで採取して、解析センター宛にポストへ投函する。結果は3〜4週間後にインターネット、スマートフォンアプリで見ることができる。

価格は一番安価のもので10,780円で、21項目検査することが可能で、最大46,750円で280項目検査することができる。他にも別途のサービスで、検査結果を元にライフスタイルを提案する「MY健康サポート」で管理栄養士からアドバイスを得ることも出来る。

消費者直販型(DTC)遺伝子検査サービス市場について
グローバルインフォメーション社の調査によると、消費者直販型(DTC)遺伝子検査市場は成長市場の1つであり、2021年から2031年の予測期間中にグローバルで17.30%のCAGRで成長すると予測されている。

日本においても「MYCODE」以外に、「DHCの遺伝子検査 はつらつ人生応援キット」、「ユーグレナ・マイヘルス 遺伝子解析サービス」、「GeneLife」等が市場プレイヤーの商品である。

kencom: 健康保険組合向けサービス

サービス内容
kencomとは健康に向けて楽しく取り組めるように工夫したアプリである。健診結果などの健康データをパソコンやスマートフォンアプリで確認することが出来る。このデータをもとにリスクの高い疾患や健康状態の過去の変化を確認することができ、健康改善のために食や運動等の情報を提供する。これに加え、「ひさやま元気予報」で将来の糖尿病や心血管病等の発症リスクを確認し、シミュレーションすることが出来る。

また、他にも歩数や体重の基礎情報を記録することが可能で、アプリを使うごとにポイントがたまる仕組みとなっている。貯まったポイントでルーレットを回し、amazonギフト券やnanacoギフト券をもらうチャンスもある。

導入数
2022年5月のプレスリリースによると「kencom」は健保・自治体等の合計約100団体・480万人にサービスを提供している。

過去のヘルスケア事業の取り組み

WELQ

サービスとしては2016年11月に非公開となり、終了した。
WELQはココロとカラダの悩みをスッキリ解消できるヘルスケア情報のキュレーションメディアである。健康情報、美容情報等、ヘルスケアに関する情報を提供していた。しかし、上記でも記載した通り、医学の専門家による監修がない記事が多数公開されていたことで、信憑性がないキュレーションサイトとされサービス停止となった。

歩いてお得

サービスとしては2021年4月30日をもって終了した。
「歩いておトク」は、スマートフォンで日常の歩数を計測し、歩いた分だけポイントが貯まるアプリである。歩くことでバーチャル上の観光スポットを巡り、 dポイントが入ったプレゼントを獲得することで貯めることができる。

easiit

サービスとしては2022年5月31日をもって終了した。
Easiitとは、2020年7月より、DeNAとエーザイが共同で開始した認知症に備えるためのブレインパフォーマンスアプリである。歩数・食事・睡眠・体重の記録(ライフログ)をもとに、週替りで食事内容や運動などに関する個別推奨メニューを提示し、さらにメニュー実施記録からブレインパフォーマンスに良い行動や習慣について独自のスコアリングを提示する。スコアの変化や内訳などを確認し、ブレインパフォーマンスに良い習慣作りをサポートする。

Roche(ロシュ)との取り組み

ロシュとDeNAの子会社であるDeSCヘルスケアは2019年から子宮頸がん検診の受診率向上を目指して、「Blue Star Project」を手がけてきた。国内では、毎年約1万人の女性が子宮頸がんにかかり、約3000人が死亡しており、また2000年以後、患者数も死亡率も増加している。

受診率向上のための具体的な取り組みとして、横浜市や神奈川県の子宮頸がん検診実施医療機関の掲載、子宮頸がんの理解を促進させるための「kencom」アプリ上でのコンテンツの配信等を実施している。

医療保険事業の取り組み

DeNAの子会社のDeSCヘルスケアは保険会社向けの「kencom」を提供している。保険会社はサービスの一環としてkencomを提供することで、他の保険会社との差別化を図っており、利用者は保険料を払うだけでなくアプリを利用することができる。アプリを利用することで、利用者の行動変容へと繋がり、健康に対する意識を改善することができる。

今後の光となり得るか?医療ビッグデータ事業

DeNAが抱える医療DBの内訳

DeNAの子会社であるDeSCヘルスケア株式会社は2020年のデータホライゾン、2022年のメディカルデータビジョン(MDV)との連携で、保険者データ約1500万人と病院データ約4000万人を有する。

(2022年3月期p18より)

考えられる活用方法・マネタイズ先

DeNAのIR資料より以下のようなマネタイズ先や活用方法が考えられる。

マネタイズ先

考えられる具体的な活用方法

生活者・保険者

過去の生活データから、個人が抱えるリスクや疾患を予測する。低コストで個人に即した医療を得ることができる。

アカデミア

研究や学会に全体に対してデータを提供することができ、研究費コストの削減・治験期間の短縮が可能となる。

製薬企業

エビデンス収集の困難な希少疾病、難病、小児等の領域での研究開発を促進し、アンメットニーズに答えることができる。また、医療機器ベンダーにおけるAI開発に伴う診断支援システム・ツール開発への活用が期待できる。

保険会社

保険加入者の重症化を過去のデータやアプリを通じて行うことで、医療費の抑制を図ることができる。

テクトシステムズ社の買収による認知症ソリューション開発

2021年7月2日、DeNAは日本テクトシステムズ株式会社をグループ会社としたことを発表した。日本テクトシステムズ社は高齢者の認知症領域を手がけており、​​声による認知機能みまもりツールの「ONSEI」や、高齢者運転免許更新時の認知機能検査のデジタルトランスフォーメーションを実現する「MENKYO」など、社会課題解決に向けて、プログラム医療機器やヘルスケアアプリを提供している。

グループ会社化によってDeNAは「超高齢社会の健康寿命延伸に向けた取り組みを加速」したいという考えである。具体的に考えられる方向性として、高齢者運転免許更新時の認知機能検査のデジタルトランスフォーメーションを実現する「MENKYO」のサービス拡充、認知症患者のデータを蓄積することで、認知症患者の早期発見とkencomで行動変容による重症化予防を図るコンテンツ等が想起される。

アルム買収による、医療DX領域への参入の可能性

2022年5月25日、DeNAは株式会社アルムを子会社化したことを発表した。医療ICTベンチャーのアルムは、医療・介護の現場等の様々な場面でDXを促進するソリューション・ヘルスケアサービスを複数展開している。主要ソリューションの「Join」は、医療関係者間でのコミュニケーションツールで、PACS(画像用画像管理システム)と連携可能で、ツール内で診療も可能である。

DeNAはこれまでヘルスビッグデータ戦略を進めており、豊富なデータをもとに利活用することを目指している。アルムの買収で医療機関DXに参入し、PHR・データという切り口から自社の戦略も発展させていくと考えられる。他にも2022年2月にDeNAはリゾートトラストと業務提携契約を結んでおり、ヘルスケア領域及びメディカル領域のデジタル・トランスフォーメーション化を目指したいと考えている。今後は、これまでDeNAが取り組んでいなかった、画像データの利活用によるサービス拡充にも期待だ。

ヘルスケア事業はDeNAの事業の大きな柱に成長するか?

DeNAはヘルスビッグデータ戦略を進めており、その一環で近年業務提携・企業の買収が相次いでいる。赤字事業からスタートしたヘルスケア事業であるが、この流れに連動して順調に利益・売上ともに増加傾向にある。また、ゲーム市場の競争の激化で、ゲーム事業は伸び悩んでいる。このような状況から、DeNAは今後データ利活用に軸足を置き、医療機関DX、健康アプリ等に取り組んで、事業を拡大していくと考えられる。

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