日本人の5人に1人が苦しむ不眠症治療市場、DTxの最近の動向とは?
3月21日にPear Therapeutics社がソフトバンク株式会社と睡眠・覚醒障害向けデジタル治療薬の日本市場向け開発契約を締結することを発表した。すでに日本でも不眠症治療市場は注目されており、サスメド社などがDTx(治療用アプリなど)の取り組みを発表しているが、Pear Therapeutics社の参入でより盛り上がりを見せていくのではと考えられる。本稿では不眠症の概要と市場について説明した上で、アメリカや日本のアプリ化動向について扱うことで、不眠症治療市場の動向についてまとめていく。
不眠症はストレスや薬の副作用によって引き起こされ、日本でも深刻な問題となっている
不眠症とは、入眠障害(寝つきが悪い)・中途覚醒(眠りが浅く途中で何度も目が覚める)・早朝覚醒(早朝に目が覚める)・熟眠障害(眠れた満足感が得られない)等の睡眠問題が1ヶ月以上続き、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現する病気である。不眠の原因はストレス・こころやからだの病気・クスリの副作用などさまざまであり、症状が続くと不眠恐怖が生じ、緊張や睡眠状態へのこだわりのために、不眠が悪化するという悪循環に陥る。
日本生活習慣病予防協会によると日本人の20%が不眠障害に陥っているとされており、年齢が上がるにつれて悪化すると考えられている。
不眠症治療関連市場は日本では2030年に1140億円市場になると予測されており、グローバルでも拡大傾向にある
不眠症治は睡眠障害治療剤と睡眠導入アプリに分類される。日本においては富士経済の調べによると2021年時点で睡眠障害治療剤が838億円、睡眠導入アプリは臨床試験段階で市場としてはないが、2030年までに睡眠障害治療剤940億円、睡眠導入アプリが200億円になると予測されている。
グローバルではMordor Intelligenceの調べによると、2020年には2,898百万米ドル、2026年には5.93%の年平均成長率で4,065百万米ドルに達すると予想されている。市場としては現状不眠症のアプリ等が利用されている北米が独占しているが、アジア圏での拡大が見込まれる。
Mordor Intelligenceの調査より
不眠症治療の課題とアプリ(DTx)導入の動き
薬物療法(睡眠薬)は一過性の不眠症には有効であるが、慢性的な不眠症には副作用や薬物耐性の問題、薬物依存のリスクが高いことが課題となっており、他の治療方法が望ましいとされている。そこで慢性的な不眠症を克服するために、正常な睡眠パターンが回復するまで、心を落ち着かせるように脳を訓練する不眠症の認知行動療法(CBT-I)が対面で実施されていた。しかし、患者とセラピスト(またはこの手法に精通した他の臨床家)との密接な相互作用によって行われるが、多くの患者にとって長期間継続的に通院することは困難であった。このような背景の中で不眠症の認知行動療法(CBT-I)をオンラインアプリ(デジタルセラピューティクス)で提供する動きが生まれた。
不眠治療アプリの事例(1): Somryst
Pear Therapeutics社のSomrystはFDA(510k ClassⅡ)の承認済みのアプリで、不眠症の認知行動療法(CBT-I)を提供する。6つあるレッスンのエクササイズを自分のペースで(最大9週間)進めることができ、より早く眠りにつき、より長く眠れるようになるために支援する。
利用者は最初に自分の睡眠状態に関連したアンケートを答えたのちに、医師との相談のもとでアプリを使うことができる。そのため、医師から処方されないと利用することはできない。値段は$999(約12万円)で、大抵の場合保険の適用を受けることはできないため高額である。
不眠治療アプリ事例(2):Sleepio
Big Health社のSleepioは段階的に指導するセッションを特徴とする個人向けプログラムを提供するアプリである。週20分程度のセッションを6週間ほど行い(特に制限なし)、高ぶる心を静め、行動を見直し、睡眠状態を改善する。ただし、上記のSomrystとは違ってFDAから承認を受けていない。
このアプリは雇い主から提供されるため、主にBtoBtoEのビジネスモデルである。価格は不確かであるが、$275~$400(約3万3000円~4万8000円)程度だとされ、上記のSomrystと比べて安価である。
日本における不眠症治療アプリ(DTx)の動向
日本では今年の2月にサスメドが厚生労働省に不眠障害治療用アプリケーションの製造販売承認申請をしたことを発表し、塩野義製薬とも販売提携契約を結んでおり、承認後の動きに注目である。
また3月21日にPear Therapeutics社がソフトバンク株式会社と睡眠・覚醒障害向けデジタル治療薬の日本市場向け開発契約を締結することを発表した。特にPear Therapeutics社とソフトバンク社は以前から資本提携を結んでおり、ソフトバンクは過去に2020年と2021年に2回にわたって投資している。ネットワークに強みを持つソフトバンクと不眠治療アプリを提供するPear Therapeutics社との今後の動きにも注目である。
国内の企業の動き以外に、不眠症アプリ単体での保険適用が実際に何点付けられるのか、といった国の規制周りでの動向も大きな論点となると考えられる。