黒船が来る!〜Amazonは医薬品業界にパラダイムシフトを起こせるか?〜

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黒船が来る!〜Amazonは医薬品業界にパラダイムシフトを起こせるか?〜

Amazonが日本の調剤市場への参入を検討している、という話題が薬局業界の注目を集めている。同社は既存のバリューチェーンを破壊するような調剤システムを生み出す可能性を秘めており、大きな市場変革が起こる可能性がある。

こうした市場変革に備え、想定される変化の流れを整理し、薬局関係者、薬剤師、オンライン診療関係者、ヘルスケアビジネスに関わるすべての方々にお届けしたい。

Amazonの国内調剤市場参入:将来直接的な調剤を開始する可能性

2022年9月5日、Amazon社が日本で処方薬販売への参入を検討しているというニュースが報じられた[1]。概要は以下の通りだ。

  • 米アマゾン・ドット・コム社が日本で処方薬販売への参入を検討していることが明らかになった。
  • 中小薬局向けに、オンライン服薬指導の薬局選択から配送までの全過程を一元的に管理するシステムを展開する方向。
  • 当面は、Amazon社は在庫を持たず、調剤薬局の運営を自社では行わない予定。

現段階では「あくまでも中小薬局へのシステム提供」という立場であり、この形にとどまる場合、大きな市場変革が起こるとは言えないだろう。

しかし、Amazonが最終的に自社で在庫を抱え、他社の薬局を介さない直接的な調剤に乗り出す可能性は十分に考えられる。

2013年9月、Amazon.co.jp上で審査を通過した出品者による一般用医薬品の販売が開始された。当時、同社は直接医薬品を取り扱う可能性については「現在のところ全く検討しておらず、その可能性も考えていない」としていたが、2015年からアマゾン ファーマシーからの直接販売が展開されている[2]。

このときと同様に、アマゾンが直接的な調剤を開始するようなことが起きれば、調剤薬局の役割、薬剤師の働き方、医療データ市場の勢力図の3点において、パラダイムシフトがもたらされる可能性が十分にある。それぞれについて見ていこう。

1. Amazon参入を機に、調剤薬局の役割はどのように変化するか

現在の調剤薬局が担っている役割を列挙し、Amazon参入がそれらに与える影響を考察する。

役割1. 医薬品のローカル流通拠点 → ラストワンマイル配送の担い手へ

現在の調剤薬局が果たす最大の役割は医薬品のローカル流通拠点と言えるだろう。

製薬企業から医薬品卸業者を経て各地に配送された医薬品は、コンビニエンスストア以上の店舗数を誇る全国の薬局で保管され、処方箋に基づいて来局患者に提供される。調剤薬局は医療機関や住宅地の近くに多く出店され、医薬品が患者に届くまでの過程のうち最後のステップを担当してきた。

しかし、オンライン服薬指導が定着すれば、患者は家にいながら処方薬を受け取れるようになる。そこにアマゾンが参入することによって、アマゾンの持つ物流システムが医療用医薬品の流通に活用される可能性がある。その中で医療用医薬品のラストワンマイル配送の需要が生じると、この役割を調剤薬局が担う可能性が考えられる。

Amazonの配送システムを簡単に示し、それぞれが医薬品流通にどのように応用されるかを説明する。

図. Amazonの配送システム
(https://www.amazon.co.jp/b?ie=UTF8&node=7960164051 より)

ECサイトでの注文:電子処方箋でのオンライン「注文」

まず、注文過程を考える。Amazonでは自社のECサイトを通じて顧客から注文を受ける。医薬品流通では、患者が処方箋を薬局に提出することが「注文」にあたる。近年解禁予定の電子処方箋を活用すれば、他商品と同様に処方薬をオンラインで「注文」できるようになる可能性が高い

セントラル倉庫から地方拠点に出荷する:中央倉庫から調剤薬局に出荷する

注文を受けると、Amazonではフルフィルメントセンター(FC)が事前に企業への発注を行い保管していた商品を出荷し、デリバリーステーション(DS)という地方拠点に届ける。医薬品流通に置き換えれば、患者からの「注文」を直接Amazonが受け取り、製薬企業に事前に発注して中央倉庫に保管していた薬のうち、必要な分を即座に地方拠点(調剤薬局)に届ける、という形が可能となる。

地方拠点から注文者宅に配送する:調剤薬局から患者宅に配送する

Amazonでは最終的に、デリバリーステーションから注文者の家までラストマイル配送を行なう。この配送は、全国9社の地域宅配事業者との連携(Amazon・デリバリー・プロバイダ)や、軽貨物車を保有している個人事業主との契約(Amazon・フレックス)などで実現されている。医薬品流通で各地の調剤薬局からのラストワンマイル配送を実現する場合、そこに在籍する薬剤師に依頼するのが合理的と考えられる。配送時の注意点も理解しており服薬指導も可能であることから、適任だろう。

ただし、今年10月には東京・大阪のアマゾン物流センターでの薬剤師の求人募集が掲載されたことも話題となっている[4][5]。薬剤師が利用者への薬の受け渡しを担当する可能性は残っていながらも、医薬品物流の下流を支える “場” としての薬局の意義は、デリバリーステーションなど別の地方拠点に取って代わられる可能性も否定できない。

役割2. 医薬分業の担い手 → オンライン服薬指導、ロボット調剤の選択肢も

また、調剤薬局が果たす役割として、医薬分業の一端を担うことがある。

医薬分業とは、「薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師、薬剤師という専門家が分担して行うこと」である[6]。もちろん病気や治療について詳しいのは医師であるが、副作用や多剤併用の影響など、薬剤師の方が詳しい内容もある。処方ミス・調剤ミスを防ぐために、調剤薬局でのダブルチェックを経て患者に薬が提供される。

しかし、医薬分業はオフラインの調剤薬局に頼らずとも実現できる。オンライン服薬指導の質は各社の開発したプラットフォームにより向上している最中だ。ことオンライン診療に対する医薬分業については、同じプラットフォーム内で完結するオンライン服薬指導の方が便利とも考えられる。

また、ロボット調剤という選択肢もある。医薬分業の目的「処方ミス・調剤ミスの防止」の達成を目指すにあたっては非常に頼もしい存在であり、一包化調剤などにも力を発揮する。今後調剤ロボットが普及すれば、医薬分業のうち “薬” を担当する主戦力として現在の薬剤師の立場に立つ可能性もある。

いずれにせよ、医薬分業を支える場としての調剤薬局の意義は、オンライン服薬指導やロボット調剤といった他の選択肢の出現により薄れていくことが考えられる。

役割3. 各地域の在宅・介護現場での訪問薬剤管理指導 → 需要は継続

調剤薬局の業務は、上述のような店舗での業務には限られない。在宅医療・介護現場に薬剤師が自ら赴き服薬指導・支援を行う「在宅患者訪問薬剤管理指導」「居宅療養管理指導」も調剤薬局の果たすべき重要な役割である。 

特に介護保険における「居宅療養管理指導費」の算定回数は平成20年ごろから8年近くにわたり毎年約20%ずつ伸びを見せており、需要はますます高まっている[7]。

薬の服用状況の確認だけではなく、薬の効果や副作用の観点から食事・排泄・睡眠・運動状況・認知機能などを評価する「薬学的管理」が重要である[8]。厚生労働省もかねてより各地で住民の健康を支える「かかりつけ薬剤師・薬局」を推進する方針を示している。まさにチーム医療の一員として、かかりつけ医など多職種と連携した訪問医療の実践が求められている[7][9]。

このような在宅・介護現場での訪問薬剤管理指導は、オンライン服薬指導では代替しづらいものであり、引き続き各地域の調剤薬局に求められる業務となるだろう。

特に役割変化が進むのはどのような薬局か?

今までの観点を総合すると、Amazonの参入による役割変化が特に進むのは、在宅・介護向けの訪問での服薬指導を実施していなかった門前薬局と考えられる(下表参照)。

表. Amazon参入による役割変化の大小(薬局のカテゴリー別)

門前薬局

面薬局

調剤のみ

訪問薬剤管理指導・
居宅療養管理指導も実施

医薬品のローカル流通拠点としての役割が配送の担い手としてのものに移るとすれば、医療機関の近くよりも患者宅の近くに位置する薬局の方が有利である。「医療機関の近くで医薬分業を支える」という役割も、オンライン服薬指導やロボット調剤の選択肢に代替されうる。

訪問薬剤管理指導をはじめとした、他の役割への移行が重視されることになるだろう。

なお、面薬局にも同様の影響はあると考えられるものの、面薬局のうち一定数を占める調剤併設型ドラッグストアでは、一般医薬品や生活用品の購入の場という役割も有している。OTC医薬品や生活用品は既にアマゾンでも購入可能だが、ドラッグストアの利用客は変わらず多い。調剤市場にアマゾンが参入してもあまり変化はないと考えられ、門前薬局と比べればまだ軽い影響で収まることが期待される。

2. Amazon参入を機に、薬剤師の働き方はどのように変化するか

近年の薬剤師の調剤薬局での業務:対物業務から対人業務へ移行中

調剤薬局で勤務する薬剤師に求められる代表的な業務は薬を中心とした業務である。具体的には「処方箋受取・保管」「調製」「報酬算定」「調剤薬監査・交付」「在庫管理」などが含まれ、これらを総称して「対物業務」と呼ぶ場合もある。

しかし、5〜10年ほど前から、厚生労働省の提言により「対物業務から対人業務へ」という動きが始まっている[9]。「かかりつけ薬剤師」「かかりつけ薬局」の浸透による、患者の薬物療法の安全性・有効性の向上と医療費の適正化を目指した取り組みだ。

「対人業務」は患者中心の業務のことを指しており、「処方内容の確認」「医師への疑義照会」「丁寧な服薬指導」「在宅訪問での薬学管理」「副作用・服薬状況のフィードバック」「処方提案」「残薬解消」などが挙げられる。同省が電子薬歴やAI調剤支援などのICT活用による薬局DXを推進していることもあり、薬中心の対物業務から患者中心の対人業務への移行は進んでいくものと考えられる。

この状況にAmazonが参入した場合、薬剤師に求められる業務はどのように変化するだろうか。今まで通りオフラインの薬局で勤務する場合と、それ以外の働き方を選択した場合に分けて説明する。

店舗勤務の場合、処方箋枚数確保のために新規顧客開拓と電子処方箋対応が重要になる

オンライン薬局が本格的に浸透し始めれば、特に何の対策もせずとも売上を確保できていた時代は終焉を迎える。調剤薬局で勤務する薬剤師は、売上確保に向けて独自の取り組みを始めることになるだろう。

薬局の売上は 処方箋枚数 × 処方箋単価 と考えることができるため、売上確保のためには処方箋枚数を増やすか、対応する処方箋の単価を高めれば良い。

しかし、処方箋単価を高めるには限界がある。まず、国に定められており薬局の努力次第で変更できない部分が存在する。また、社会保障費の増大が問題視される状況のもとで、調剤報酬に充てられる国家予算の上限は徐々に減少していくと考えられる[10]。このような理由から、処方箋単価の底上げに取り組んでも得られる効果が小さい可能性がある。

したがって、調剤薬局の薬剤師は処方箋枚数の増加に向けて取り組むこととなるだろう。

ではオフラインの薬局が処方箋枚数を確保するためにはどうすれば良いのか。重要となるのは、新規顧客の開拓と電子処方箋受付件数の確保だ。

前者については、リアルな患者との繋がりを強めるような、患者との密なコミュニケーションの場の設定が有効と考えられる。例えば「在宅医療・介護現場での服薬指導を開始する」「定期的な血圧測定などの健康推進イベントを開く」などが挙げられる。

後者については、医療機関と綿密な関係を築くことが重要と考えられる。例えば「重要電子処方箋のシステムを早期に導入すること」「的確な疑義照会や患者の服薬状況の共有などを継続すること」などが挙げられる。

まとめると、調剤薬局の店舗で薬剤師として勤務する場合、処方箋枚数の増加を目指して、新規顧客の開拓と医療機関からの電子処方箋受付件数の確保に向けた業務が重要となるだろう。

店舗勤務以外にも多様な働き方の出現が予想される

また、オンライン薬局の出現は、店舗勤務以外のさまざまな働き方を薬剤師に提供することとなるだろう。

例えば、オンライン服薬指導に特化することで、リモート薬剤師として働くこともできる。さらに踏み込んで、オンラインでの販売促進・接客に特化した薬剤師になることができれば、薬剤師としての新たな強みを保有した貴重な人材になれるだろう。

前述の医薬品物流でも話題に上がったように、処方薬のラストワンマイル配送や倉庫での在庫管理などに従事するのも、一つの新たな働き方である。「在宅患者訪問薬剤管理指導」「居宅療養管理指導」を行う在宅薬剤師の道に進むことも一案だ。

3. Amazon参入を機に、医療データ市場はどのように変化するか

医療データ市場の現状:データを大量に保持する数社の寡占状態

現在の医療データベース市場は、種類の異なるデータをそれぞれ大量に保持している数社が圧倒的な力を有している状態である。レセプトデータで知られるIQVIAソリューションズジャパン, JMDC、医療機関データで知られるMDV, DeNA、リアルワールドデータで知られるJMDCなどが強みを有している。(詳細は下記記事を参照)

医薬品に関する分析の現状:主にレセプトデータが活用されている

現在医薬品に関する情報は、基本的にはレセプトデータ (診療/調剤報酬明細書) を使って分析されている。「レセプトデータ」とは、医療機関等が患者負担でない費用を保険組合などに請求する請求書の通称である。医薬品投与を含めた診療行為の回数・費用などが記載されているため、製薬企業に対して「貴社のこの薬はこの疾患に対する処方薬として○○%のシェアを占めています」といった情報を提供できる。

例えば前述のIQVIAは、多様な形態の調剤薬局3,600店舗から院外処方調剤レセプトデータを収集・構築されたレセプトデータベース「NPA family」を保有する。2019年には院外処方箋枚数換算で年間約1億5,763万枚ものデータを処理しており、この値は全院外処方箋枚数に対するカバー率としては19.2%に相当する。

Amazonがレセプト以上に有益なデータの蓄積に成功し、医療データ市場の勢力図を変える可能性

ここでアマゾンが展開する可能性のある処方プラットフォームについて考えると、医療データを収集する場としても極めて有用であることがわかる。

利用者から電子処方箋を受け取る、製薬企業から薬を受け取る、利用者のもとに薬を届ける、といった全ての過程に関わるため、レセプトデータとほぼ同等の価値があるデータを蓄積できるだろう。

さらに、医薬品の処方シェアなどに限らず、消費者インサイトなどのマーケティング戦略に極めて有用な情報が得られることも考えられる。ユーザーとの間でオンラインでの接点を持ち続けられることから、ユーザーへの継続的な働きかけと評価を繰り返すこともできる。

このように、集積したデータのビジネスへの活用可能性という軸で評価した場合に、Amazonは他社よりも抜き出た位置まで一気に上り詰める可能性がある。様々な業界で新たな時代を創ってきた同社が、医療データ市場でも勢力図を大きく描き換えることになるのか。注目は高まるばかりだ。

まとめ

Amazonが日本の調剤市場に参入することにより、以下3点の大きな市場変革(パラダイムシフト)が起こる可能性がある。

  • 日本の調剤バリューチェーンにおいて、オフラインの調剤薬局に求められる役割が希薄化し、生き残るために訪問薬剤管理指導など別の役割の獲得が進む可能性がある。
  • 調剤薬局で勤務する以外にも多様な働き方が出現し、調剤薬局で働く薬剤師に関しても要求される業務が一新される可能性がある。
  • アマゾンが処方プラットフォームとして成立した場合、レセプト以上に利用価値の高いデータの蓄積に成功し、国内の医療データビジネスの勢力図を大きく描き換える可能性がある。

参考文献

1) Amazon eyes Japan's online prescription drug market | Nikkei Asia | https://asia.nikkei.com/Business/Health-Care/Amazon-eyes-Japan-s-online-prescription-drug-market
2) アマゾンが医薬品の販売を国内で開始 第2類医薬品を約2000品目、出品者が展開 | Web担当者フォーラム | https://webtan.impress.co.jp/e/2013/10/10/16214
3) FCとDSについて | Amazon中途採用 | プロセスアシスタント・シフトアシスタント特設サイト | https://www.amazon.co.jp/b?ie=UTF8&node=7960164051
4) 薬剤師/Pharmacist - Job ID: 2271001 | Amazon.jobs | https://www.amazon.jobs/en/jobs/2271001/pharmacist
5) 薬剤師/Pharmacist - Job ID: 2271001 | Amazon.jobs | https://www.amazon.jobs/en/jobs/2271001/pharmacist
6) 医薬分業とは | 日本薬剤師会 | https://www.nichiyaku.or.jp/activities/division/about.html
7) 在宅医療における薬剤師の役割 | 日本薬剤師会 | https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/discussion/180327/180327discussion07-1.pdf
8) 薬剤師による在宅訪問 | 大阪府薬剤師会 | http://www.kitakawachi.org/homecare/img/zaitakusyousassi.pdf
9) 患者のための薬局ビジョン | 厚生労働省 | https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/gaiyou_8.pdf
10) 薬局の売上構成要素の基本的な考え方と患者数増(売上向上)について | Musubi|https://musubi.kakehashi.life/blog/sales_up_1

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