Apple Watchを通して利用できるヘルスケアデータとその応用を考える

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Apple Watchを通して利用できるヘルスケアデータとその応用を考える

時計型のウェアラブルデバイスであるスマートウォッチは、2020年に196億米ドルの市場規模に達し、2026年まで18% のCAGRで成長すると予測されている。(PR Times)
普及の進むスマートウォッチは各社技術開発にしのぎを削っており、現在のスマートウォッチには様々な機能が搭載されつつある。中でも歩数や脈拍などに代表されるヘルスケアデータの取得とそのライフログやヘルスログデータの活用によるサービスには多くのビジネスマンが興味を持っていると考えられる。

本記事では、スマートウォッチ中でも世界一のシェアを誇る「Apple Watch」をとりあげ、現在利用可能なヘルスケアデータには何があり、またそのデータや機能を応用しどんな疾患・患者管理に利用可能なのか、まとめていく。

Apple Watchで利用可能な測定項目(ヘルスケアデータ)は?

Apple Watchで取得できるデータは多岐にわたる。現在利用可能なヘルスケアデータにはどんなものがあるのだろうか。以下でまとめた。

Apple Watchで測定可能なアクティビティ情報

アクティビティ情報では、日々の行動や運動が記録され、簡単にグラフで可視化できる。
具体的な項目としては、心肺機能やウォーキング+ランニングの距離、アクティブエネルギー、上った階数、歩数、安静時消費エネルギー、スタンド時間、エクササイズ時間などがある。

Apple Watchで測定可能なバイタル情報

「バイタル(バイタルサイン)」とは、生きている状態を示す指標である。医療現場で容体のチェックに欠かせず、主に「呼吸」「体温」「血圧」「脈拍」の4項目で構成されている。現在のApple Watchでは、このうち呼吸数と心拍数の2つを計測することができる。
その他、Apple Watchでは「取り込まれた酸素レベル」と女性を対象にした「月経周期」もアプリではこの項目に入っている。

Apple Watchで測定可能な心臓に関する情報

2021年1月27日、Apple Watchによる心電図計測機能が日本でも利用可能になり大変話題になったのは記憶に新しい。この項目では、心拍数、心電図、心拍変動の項目を計測できる。Apple watchの世代によっても利用可能なサービスは違う。

Apple Watchで測定可能な聴覚情報

「聴覚」では、ヘッドホン音量や周囲の騒音への曝露状況の確認が可能である。
ヘッドホン音量の機能では、1週間の測定で世界保健機関(WHO)の安全聴取ガイドラインが定める騒音暴露限度を超えると通知され、音量を下げる処理が行われる。コントロールセンターに「聴覚」を追加し、ヘッドフォンやイヤフォンで音楽などを聴くと、現在の音量をデシベル単位で表示され確認できる。
また、騒音への曝露状況の機能では、Apple Watchの「ノイズ」アプリを使うことで聴力に影響するような騒音のなかに長時間いるときに通知され、環境音レベルを「ヘルスケア」アプリに自動で記録される。

Apple Watchで測定可能な肺機能情報

肺機能の中では、心肺機能, 呼吸数、血中酸素濃度が計測可能だ。

Apple Watchで測定可能な睡眠情報

「睡眠」アプリで就寝時間と起床時間を設定することで睡眠時間、眠りの深さ、睡眠中断回数、いびき、心拍数、呼吸の乱れなどのデータを自動的に測定・記録できる。アラームのON / OFFや就寝30分前のApple Watchが睡眠を促す機能、睡眠時間中の睡眠モードなど睡眠における記録以外のその他機能も充実している。

逆に、Apple Watchで血圧、体温及び血糖値は測定できない

バイタルの「血圧」と「体温」、糖尿病患者に欠かせない「血糖値」は測定できない

医療現場で容体のチェックに欠かせないバイタルの中では、「呼吸」と「脈拍」の2項目は計測できるが、重要な2項目は計測できないため完結できない。
また、日本人の5~6人に1人が罹患している(厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」)とされる糖尿病患者には日々の血糖値測定は欠かせないが、Apple watchを用いて計測することは現状ではできない。

血糖値は今後スマートウォッチで測定できるようになる可能性は高い

これまで血糖値測定には、実際に痛みを我慢し、針を刺し血を採取する必要があった。インスリンによる治療を行う糖尿病患者は血糖コントロールが安定するまでは1日4〜5回かそれ以上の血糖値測定が必要であり、かなりの負担となっていた。
そのため、2017年1月に発売開始されたアボット社の「FreeStyleリブレ」は痛みを伴わず装着するだけで血糖値を測定できる画期的な商品であったが、微小な針を使用するため完全非侵襲ではない上に、14日間ずっと装着する必要があった。
近年、装着もいらない完全非侵襲の血糖値測定技術の開発が進んでおり、2022年2月のNature誌には非侵襲型血糖値測定機能を持ったスマートウォッチのプロトタイプで血糖値測定を行い、精度を研究した論文が掲載された。

本研究の測定精度は84%であり、今後この分野の研究開発が進めば数年以内のApple Watchへの血糖値測定機能の搭載も夢ではないだろう。そうなれば、長年の糖尿病患者にとっては悲願となる。

Apple watchに搭載された機能はそれぞれどんな疾患管理に有効か?

現状のApple watchのヘルスケアデータや機能を用いることにより、様々なサービスが存在する、今回は以下の機能を例に挙げる。

  • 心肺機能の低下の通知機能
  • バイタルのモニタリング機能
  • 不規則な心拍の通知機能
  • 転倒検出機能
  • 睡眠トラッキング機能

心肺機能の低下の通知は心血管・肺疾患だけでなく慢性疾患の検知も可能である

アクティビティ機能の中には、心肺機能の低下を通知してくれる機能がある。大動脈弁狭窄症などの心疾患、軽度の心筋梗塞や肺動脈塞栓症などの循環器疾患、間質性肺炎やCOPDなどの肺疾患などのみならず、慢性的な運動不足による体力低下なども検知でき、予防医療にも一役買っている。

バイタル情報のモニタリング機能で離れて暮らす家族の安否確認が可能になった

バイタルは上記の通り、「生きている状態を示す指標」である。意識障害や心肺停止状態となるなどバイタルが大きく崩れる時は、1つの指標だけではなく、4項目全ての項目で変動が見られることが多い。そのため、現在のApple watchではバイタルは呼吸数と心拍数の2項目のみ計測可能ではあるが、バイタルのモニタリング機能は、離れて住む家族や大切な人の安否確認に有用であり、計り知れない価値を生んでいる。将来的には、日常生活の安否確認だけではなく、全世代をターゲットとした災害時の安否確認への応用なども考えられる。

スマートウォッチで4項目のバイタル測定ができるようになると、入院患者識別で使用されるバンドがスマートウォッチに変わり普及するのではないか

逆に、現状の2項目の測定のままでは、入院患者の管理にスマートウォッチが用いられる可能性は高くないと感じる。
バイタルの計測でも、マンシェットや体温計の準備や装着など血圧と体温の測定には比較的に手間がかかる一方で、心拍数や呼吸数はその場で15秒あれば計測することが可能である。瞬時に測定簡単な2つのバイタルサインをスマートウォッチで管理し、その結果を確認しつつ、残りの手間のかかる項目を患者さんのベッドサイドに行き自ら測定することは看護師の手間を大幅に省いているとは言い難い。
臨床現場では入院患者のバイタルを1日3回計測しカルテに記載する病院が多いが、4項目すべてバイタルサインをスマートウォッチで管理できるようになれば、オペレーション上では、バイタルサインの取得のために患者のもとに出向く必要がなくなり、受け持ち患者がたくさんいる看護師の手間を画期的に減らすことができるだろう。
そうなると、現在入院患者が識別目的でつけているリストバンドがバイタル測定が可能なスマートウォッチに変わる可能性も十分考えられる。

不規則な心拍の通知機能は主に脳梗塞の予防につながる

Apple watchでは、心電図を計測することで洞調律(サイナスリズム)、心房細動、高心拍数または低心拍数などを判定することができる。心房細動の早期発見は脳梗塞予防につながる。2017年の統計によると、脳梗塞による死亡者数は1年間で6万人をこえており、これらの予防には大きな価値があると考えられる。

転倒検出機能は救急疾患で非常に有用である

本機能は、強く転倒した際に着用者が1 分間なんの動作も認められない場合に自動的に通報する機能である。外傷/脳・心血管疾患や熱中症、起立性低血圧による意識消失など救急対応を要する場合に自動的に通知されることで、救護への対応が早くなり生存率の向上が見込まれる。

睡眠トラッキング機能により、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検出が可能である

睡眠データとしては、睡眠中断回数、いびき、心拍数、呼吸の乱れが取得可能であり、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検出が可能である。SASは国内に500万人の患者が言われている一方で、治療を受けている患者はおよそ50万人であると言われている。SASにより、心不全、不整脈、虚血性心疾患や脳卒中の発症リスクが上昇すると言われており、Apple watchの睡眠トラッキング機能は未治療患者の治療への誘導につながると考えていて大きな価値がある。

Apple watchを用いた睡眠管理により睡眠の規則性が向上すると、メタボリックシンドロームなど生活習慣病の予防にもつながるかもしれない

2022年のPreventive medicine reports誌に掲載されている論文によると、睡眠の不規則性は睡眠時間や就寝時刻よりもメタボリックシンドロームに関係があったという結論が出ており、睡眠の不規則さによる生活リズムの乱れは、代謝異常につながり、最終的にメタボリックシンドロームのような生活習慣病につながる可能性があると言われている。Apple watchを用いた睡眠管理や就寝時間リマインド機能は睡眠の規則性を向上させ、ひいては生活習慣病の予防にもつながるかもしれない。

京都府立医大6年生。アイリス株式会社のインターン業務、USCPA受験、研究室で論文執筆など医ンタープレナーとして楽しい日常を送ってます。趣味は、F1観戦とサイクリング。グルテンフリー6年目です。(Twitter:@Ogu_Yasuhiro6、Researchmap:https://researchmap.jp/OGURA-Yasuhiro)