本記事では、ChatGPTの機能を用いた国内の医療系サービスを25個紹介する。
ChatGPT APIの登場
2022年11月末にリリースされたチャットボットツールのChatGPT。その言語処理能力はすさまじく、企業・個人を問わず多くの人がさまざまな分野で活用を始めている。
2023年3月にはChatGPT APIが公開。既存のサービスにGPT-3.5やGPT-4の機能を連携することが可能となった。社内サービスに導入し業務効率化を試みる企業も見られる中、顧客に向けた既存のサービスにChatGPTを組み込む企業や、ChatGPTを活用した新規サービスを開発する企業も登場している。
ChatGPT APIを活用したヘルステックサービスの傾向
ChatGPT APIはヘルスケア領域でも活用され始めており、国内でも複数の事例が認められる。本記事では、2023年5月11日までに発表されたプレスリリースをもとに、25件の事例を紹介する。
傾向としては、次のようにメンタルヘルスを中心とした健康相談サービス、臨床業務支援・効率化に役立つサービスが多く見られた。他にも、個人向け・企業向けともに、いくつかの事例が認められた。
なお、上のカオスマップのpdf版を下記URLに掲載した。pdf版では、ロゴから各サービスのURLに飛ぶことができる。併せてご覧いただきたい。
【本記事中、サービス紹介箇所の表記について】
注1. 各カテゴリー内での順番は、プレスリリース発表日が早い順とした。
注2. ▶︎の後には「サービス名:ChatGPTを活用した機能の名称」を続ける。
注3. 「国内」の定義は、本社が日本国内にある企業によるサービスを指す。
1. メンタルヘルス・健康相談
本領域におけるChatGPTの用途は、主に「入力された悩みや疑問に応じて、適切なメッセージを返信する」であった。他には「会話を通じて、メンタル不調の原因・予兆を早期発見する」「過去の類似事例と照合することで、相談者の悩みに適したカウンセラーを見つける」などの用途も見られた。
▶︎ mimo AI
運営:株式会社かいじゅうカンパニー (2020.04創業 メンタルヘルス; カウンセリング, コミュニティ運営)
新サービス:2023.03~ セルフカウンセリングのチャットボット。認知バイアスに対して、ChatGPTがより中立的な考え方を提案する。
▶︎ flora app:Flora AI
運営:Flora株式会社 (2020.12創業 フェムテック; カウンセリング, マーケティング支援, 健康経営支援)
サービス:2022.03~ 月経妊活アプリ。月経管理, 体温記録などを行えるほか、多様な形式のコンテンツから症状, 気分, 周期などに合わせて個別化されたものが提供される。
新機能:2023.05~予定。機能単体ではβ版公開済み。女性の健康課題に特化したチャットアシスタント機能。
▶︎ Awarefy:Awarefy AIチャット
運営:株式会社Awarefy (2018.03創業 メンタルヘルス; CBTアプリ, メディア運営)
サービス:2020.05~ デジタル認知行動療法・アプリ。日々のコンディションや感情を記録したり、マインドフルネス瞑想に取り組んだりすることで、自分で心をケアするスキルを身につける。
新機能:2023.04~ ユーザーによる悩みなどの投稿に応答するAIチャットボット機能。傾聴と気づきの促しができるようチューニングされている。
▶︎ メンタルヘルスさくらさん:自動診断
運営:株式会社ティファナ・ドットコム (2000.05創業 Web制作, AIサービス)
サービス:2018.07~ 企業向けメンタルヘルスケアツール。従業員の精神状態を把握し、不調者にオンライン診療などを提供できる。社内問合せ・稟議決済など課題に応じた12のDXサービスから成る「AIさくらさん」シリーズの一つ。
新機能:2023.04~ 従業員との会話からメンタル不調の原因・予兆を早期発見する機能。精神科医と共同開発されている。
▶︎ KIRIHARE:AIカウンセラー
運営:キリハレ株式会社 (2022.11創業 メンタルヘルス; カウンセリング, 健康経営支援)
サービス:2020.05~ 個人向けオンラインカウンセリングサービス。公認心理師・臨床心理士がビデオ, チャット, 電話などでカウンセリングを実施する(有料)。
新機能:2023.04~ 新たな選択肢として、専門家の代わりにAIによるカウンセリングを受けられる機能。LINEから無予約, 無料で気軽に相談できる。
▶︎ Unlace:searchlight
運営:株式会社Unlace (2020.01創業 メンタルヘルス; カウンセリング, 健康経営支援)
サービス:2020.12~ 個人向けオンラインカウンセリングサービス。資格保持カウンセラーと相談者のマッチング形式で、即時性と手軽さを実現。セルフケアに関する心理診断等の無料機能も実装している。
新機能:2023.04~ GPT-4などのAIで相談者の悩みを過去の事例と照合し、似た悩みを解決したカウンセラーをマッチング候補として提案する。
▶︎ 脳にいいアプリ:なんでも相談
運営:株式会社ベスプラ (2012.04創業 認知症予防など; 健康アプリなどITサービス)
サービス:2017.02~ 脳の健康維持アプリ。脳科学に基づいた形で、ウォーキング・食事管理・脳トレなどを実践可能。さらに、活動内容を学習して最適な活動を提案する人工知能も搭載されている。
新機能:2023.04~ 高齢者の疑問や困りごとをいつでもAIに相談できる機能。ユーザーの「地域・属性・興味・体調・活動」データをもとに、ChatGPTが適切な回答を返す。
運営:株式会社つなぐ (2014.09創業 サイト制作・運営, 新規事業開発など)
新サービス①:2023.04~ 教会の懺悔室を模したカウンセリングツール。LINEトークルーム上でユーザーが悩みや後悔を打ち明けると、AI (ChatGPT) がシスターとしてアドバイスや励ましの言葉を提供する。
新サービス②:2023.04~ 性病に関する悩みを相談できるツール。LINEトークルーム上でユーザーが症状・状況を投稿すると、AI (ChatGPT) が潜在的な性病のリスクや適切な治療法など、参考となる情報を提供する。
▶︎ きいて:AIコメント機能
運営:M Media Apps (2021.04設立 任意団体)
サービス:2021.02~ 匿名で悩み相談や愚痴を投稿できるSNSカウンセリングサービス。投稿を見た誰かが共感してくれたり、心理資格を持った「きいてカウンセラー」からコメントが届いたりする。
新機能:2023.05~ 投稿された内容をAI (ChatGPT) が読み取り、自動でコメントをつける機能。AIには心理カウンセラーのキャラクター設定が与えられている。誰からもコメントがつかないという寂しい状況を解消する。
▶︎ Dr.TASU:AIメディカル秘書byドクタス
運営:ディーズ・ライフ・イノベーション株式会社 (2019.11創業 )
サービス:2021.06~ 医師・歯科医師が医業以外の悩みを専門家に相談できるWebサービス。領域は税金, ライフプラン, キャリア, 経営など多岐にわたる。月10,000円 (記事執筆時)。
新機能:2023.05~ 無料の医師向け悩み事相談サービス。LINEベースで、チャットでのコンシェルジュからの直接的なサポートとともに提供される。Dr.TASU 本体に加入すれば、自己の課題, 悩みの分析も可能となる。
▶︎ ナースビー:AIねこぴー
運営:株式会社Plusbase (2022.01創業 ナース支援アプリ), 株式会社ispec (2017.12創業 ヘルスケア; ソフトウェア開発)
サービス:2022.10~ 看護師特化型メンタルケアサービス。公式LINEから気軽に "ぴえん" を送ることができるほか、"ぴえんカレンダー" による感情パターンの把握、認知行動モデル等を用いたセルフワークなども可能。
新機能:2023.05~ 自由度の高い返答の自動化。会話データの蓄積により、高度な返答や解決策の提案などが可能となるほか、今後の研究開発に活かせる環境の構築にもつながる。
2. 臨床業務支援・効率化
本領域におけるChatGPTの用途は様々で、文書検索・文書作成・診断補助などが見られた。
▶︎ HOKUTO:①患者への説明文生成AI, ②おすすめ論文検索AI
運営:株式会社HOKUTO (2016.03創業 医師向け臨床支援アプリ, 医学生向けメディア)
サービス:医師向け臨床支援アプリ。ガイドライン、薬剤情報、UpToDateなどの情報を収集できる。自分で学んだ医学情報を保存できるノート機能や、医療計算ツールなども実装されている。
新機能①:2023.04~ 患者に治療や効果などを説明する文章を生成する機能。患者情報 と説明したいこと, 説明相手とその特徴, 説明のポイントなどを入力すると、AI (ChatGPT) がわかりやすい文章にまとめ上げる。
新機能②:2023.04~ キーワードと期間から論文を抽出する機能。AI (ChatGPT) が医学論文の要約と批判的吟味を含むコメントを生成する。研究デザインの評価, 統計学的手法の検証, 結果の臨床的意義と信頼性の評価などに活用できる。
▶︎ E-コンサル:診療ガイドラインAI検索
運営:株式会社Medii (2020.02創業 医師向け臨床支援サービス)
サービス:2020~ 医師・医学生専用のオンライン専門医相談サービス。臨床疑問や不安を記入すると、最適な専門医と自動でマッチングされ、無料・匿名で相談できる。
新機能:調べたい疾患・症例を質問すると、ChatGPTにより最適な診療ガイドラインとその要約が提案される機能。2023年4月から開発プロジェクトが始動、5月現在 "応援者" を募集中。
▶︎ 診断AI
運営:株式会社Archaic (2017.11創業 AI, ソフト, ハード, サーバ; 開発, コンサルティング)
新サービス:2023.04~ 医療現場での診断支援を行う技術。ChatGPTと組み合わせることで、患者が気軽に自分の健康状態に関する質問をできる医療チャットシステムを提供する。
▶︎ CalqKarte
運営:株式会社KandaQuantum (2020.06創業 IT開発, コンサルティング)
新サービス:AI電子カルテ。診療中の医師の発言を認識し、GPT-4がリアルタイムに診療記録・サマリーを自動作成する。過去に保存していた患者情報も自動で追加される。最新の医療情報も活用でき、診断支援に有用。
3. 企業向けプラットフォーム
ChatGPTの有用性は知られるところだが、セキュリティ・コンプライアンス面での懸念や利用状況の管理の難しさから、使用を禁止したり導入を見送ったりしている企業も少なくない。
この状況を受け、企業向けにChatGPTの活用を支援するプラットフォームを展開する動きが見られている。医療事務の現場で実証実験が開始されたサービスもあり、ヘルスケア領域の新たな事業形態としても要注目だ。
運営:株式会社グラファー (2017.07創業 行政DX, AIプラットフォーム)
新サービス:2023.03~ 企業向け生成AI活用プラットフォーム。セキュリティ、コンプライアンス、データガバナンスを担保し、企業のAI変革を支援する。利用状況管理、プロンプトの蓄積・共有なども可能。プロンプトのテンプレートも提供している。
▶︎ exaBase 生成AI powered by GPT-4
運営:株式会社エクサウィザーズ (2016.02創業 AIプラットフォーム, 介護アプリ, メンタルケア)
新サービス:2023.05~予定。企業向けChatGPT活用プラットフォーム。セキュリティの確保やコンプライアンス遵守の機能を標準で搭載し、ChatGPTの導入を支援する。ユーザーの利用状況管理や、プロンプトの蓄積・活用なども可能となっている。サービス開始以降、産業・業務ごとにプロンプトの雛形も提供予定。
4. 薬機法チェック
薬機法チェックとは、医薬品, 医薬部外品, 医療機器, 健康食品, 化粧品などの広告表現が、薬機法 (医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律) に抵触していないかを確認する作業である。
ユーザーからの口コミなども薬機法の対象となりうるため、厳密なチェックには多分な労力が必要となる。以前からこの作業をAIで効率化するサービスは存在したが、ChatGPTを用いたものも早速登場している。
▶︎ ZETA VOICE:コンテンツチェック機能
運営:ZETA株式会社 (2006.06創業 CXツール)
サービス:2017.05~ サイト内に消費者からのレビュー, 口コミ, Q&Aなどを実装できるソリューション。CX向上によるマーケティング支援を行う「ZETA CXシリーズ」の一つ。
新機能:2023.03~ ユーザーからの口コミ・Q&Aが「景表法・薬機法により制限されている表現」「誹謗中傷」などに該当するか、AI (ChatGPTなど) により自動で判定する機能。
▶︎ Transcope:薬機法チェック
運営:シェアモル株式会社 (2019.09創業 ソーシャルコマースサービス)
サービス:2023.03~ SEOに強い文章をAI (ChatGPT) が自動作成するソフトウェア。画像などマルチモーダルな入力から文章を生成できるほか、画像加工・自動翻訳・自動校正などの機能も有する。
新機能:2023.04~ 文章が薬機法に対応しているかどうか、AI (ChatGPT) がチェックする機能。
5. ロボット
会話AIを搭載し、人とコミュニケーションをとることができるロボットは今までにも作られてきた。それらのAIをしのぐ精度で自然な会話を実現できるChatGPTと連携することで、会話ロボットの利用場面の拡大、さらなる普及を目指す動きが見られる。
▶︎ cinnamon:ChatGPT連携
運営:株式会社メタリアル (2004.02創業 AI自動翻訳, メタバース, ウェアラブルなど), ドーナッツ ロボティクス株式会社 (2016.01創業 ロボット, スマートマスク)
商品:家庭用見守りロボット。防犯カメラ機能, ビデオ伝言機能などがあり、外出先からもスマホで操作できる。医療面でも、高齢者の見守り, 遠隔診療, お薬タイマー, 日々の健康データ管理などが可能となっている。
新機能:ChatGPTを高齢者向けにチューニングし、高齢者への思いやりを持ったAI会話を実現する。独居の高齢者が持つ孤独感をテクノロジーで解消し、幸福感と生活の質の向上を目指す。
▶︎ unibo:ChatGPT連携
運営:ユニロボット株式会社 (2014.08創業 コミュニケーションプラットフォーム, ロボット, AI電話サービス)
商品:コミュニケーションロボット。情報量の多い静止画, 動画を顔に表示しながら、表情豊かに会話できる。ソフトウェア開発キット Skillcreator を使えば、外部システムとも連携可能。医療・介護現場や認知症予防などでも活用されている。
新機能:SkillcreatorからChatGPTを連携可能になった。例えばユーザーの趣味嗜好を学習し、おすすめ動画を再生するなどの機能をつけられる。
6. 教育・研修
ChatGPTに役割を与えると、その役をうまく演じながらコミュニケーションを取ってくれることが知られている。この特徴を、教育や社員研修などで活用しようとする動きが見られる。代表的な用途としては英会話トレーニングなどが知られているところだが、医療領域でもいくつかのサービスが登場している。
▶︎ mimik:バーチャル顧客機能
運営:株式会社Qualiagram (2020.11創業 AI, IoTの企画・開発)
サービス:2021.08~ ロールプレイングトレーニングAI。表現力の高い人の映像を真似て、AIからフィードバックを受ける。この際、表現力を表情・文脈をもとに数値化・可視化することで、効率的な学習を実現する。
新機能:2023.03~ 親会社が保有する接客ビッグデータとchatGPTを組み合わせ、より精度の高い対話モデルを生成する。また、当該教師データを3Dのバーチャル顧客に話させ、リアルな接客シーンを体験できるようにする。
7. 福祉用具
▶︎ Tendoc:ChatGPT API導入
運営:TAKAO AI 株式会社 (2021.02創業 AI文書変換サービス)
サービス:2021.10~ ドキュメントを視覚障害者向けの形に変換するサービス。AIにより文書を点字・音声読み上げ対応テキストなどの形に変換することで、情報アクセシビリティを向上する。
新機能:2023.03~ 従来使用していた独自開発の文書解析エンジンにChatGPTを組み合わせることで、読みやすさを向上。文書内に散らばった情報をトピックごとに整理しながら、より音声/点字読み上げに適した文章を生成できる。