治験の次の形: 分散型治験やバーチャル治験について解説

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治験の次の形: 分散型治験やバーチャル治験について解説

次世代の治験として分散型治験やバーチャル治験が注目され始めている。

・分散型治験・バーチャル治験とは何か
・なぜ分散型治験・バーチャル治験が注目されているのか
・分散型治験・バーチャル治験の課題
について解説していく。

分散型治験・バーチャル治験とは何か

分散型治験(Decetrealized Crinical Trial,DCT)とはIoT機器やオンライン診療設備を活用し、被験者が医療機関に来院、滞在しなくても臨床試験に参加できる治験方式である。バーチャル治験とも呼ばれることもある。最大の特徴は被験者のリクルートから説明、同意、治療介入、観察まで一連の流れを全てオンライン上で行うことができる点である。リクルートから観察まで全てをオンラインで行うフルバーチャルのものから、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド型のものまで幅広いタイプの分散型治験が存在する。分散型治験は2010年ごろからアメリカで行われるようになり、現在では欧米を中心に広く取り入れられるようになった。
 日本でも新型コロナのパンデミックを機にオンライン診療が解禁されたことから、オンラインで行われる分散型治験への注目が集まっている。従来の施設集約型の治験とは異なり、被験者の負担や地理的・物理制約が少なくなり、手続きや処理が効率化されるため、治験の低コスト化、スピードアップが期待されている。
 また治験への参加や継続のハードルが下がるため、より多様な被験者を集めることが可能となる。在宅での治験となれば上市後の使用形態と近づくためより実態を反映した治験結果が得られる。これらのことから患者の治療効果の実態をより反映した治験結果が得られることが期待されている。

なぜ分散型治験・バーチャル治験が注目されているのか

日本国内の治験効率向上の必要性

近年、国際共同治験の件数が増加している。国際共同治験とは複数の国や地域で同時に行われる治験方式である。国際共同治験よって全世界で同時に上市することが可能となりドラッグ・ラグの解消や売り上げ向上させることができる。諸外国が分散型治験を積極的に導入している一方で、日本は治験施設中心型の従来の治験方式を踏襲してきた。そのことにより国内の治験の効率が相対的に悪化し、治験パフォーマンスが低下している。特に、1施設あたりの症例集積スピードが遅く、被験者のモニタリング回数が多い。

製薬会社が治験対象地域を選択する際に重視している指標のうちの1つが治験パフォーマンスである。もし日本が国際共同治験の対象地域として選ばれなくなった場合、大きく2つの問題が生じる。① ドラッグ・ラグの深刻化, ②創薬研究の衰退である。

国際的な治験の足並みから遅れることにより、国内での新薬承認に時間がかかりドラッグ・ラグが生じる可能性がある。また、創薬分野の研究が衰退することで日本発の治療薬の減少など、世界における日本の創薬のプレゼンスが低下する恐れがある。医薬品における日本の世界的な競争力を維持・向上するためにも効率性の高い分散型治験の導入が求められている。

希少疾患治療薬の治験の増加

国内外において、希少疾患の新規治療薬の承認が増加している。希少疾患患者は治験、施設の所在にかかわらず全国に拡散して存在する。効率的に希少疾患の治験を実施していくためには、施設中心型の治験よりも、患者を中心とした分散型治験の方が好ましい。また、疾患によっては十分な被験者を集めるためには国境をこえてリクルートする必要がある。施設に通う負担が減少することによって、より幅広い年齢、国籍、背景の被験者を集めることが可能となる。これらの疾患の新規治療薬は開発コストに対して適応患者が少ないことから薬価が高額になる傾向にある。分散型治験を活用することによって治験コストを下げることにより、薬価を抑えることにもつながる。

新型コロナウイルスのパンデミックの影響

新型コロナ感染症の影響により、医薬品、医療機器の治験実施においてオンライン診療を活用することが認められた。新型コロナパンデミック以前は診療や治験をオンライン上で行うことは厳しく制限されていたが、規制が緩和されたことにより国内の製薬会社の分散型治験への関心が高まっている。国内での分散型治験の実施例はまだ少ないが、導入による効率化、低コスト化が期待される。

分散型治験・バーチャル治験の課題

オンライン診療のハードル

国内の分散型治験において、訪問診療型や近隣医療機関連携型のものは存在するものの完全なオンラインによる治験は非常に少ない。通信機器の整備、治験実施者と被験者のトレーニングと教育が必要となる。

日常診療においても未だ一般的な存在になっているとは言い難いためスムーズな活用が難しいのが現状である。今後の普及のためには、オンラインによる治験と親和性の高い分野を見定め、導入事例を積み重ねていくことが必要そうだ。

試験の品質と完全性の維持

専門家の監督の目が行き届いている治験施設中心型の治験とは異なり、分散型治験は在宅で行われる場合が多い。監督が手薄になる中で治験介入が指定された人に提供されていることを保証できる本人認証システムを構築する必要がある。さらに、試験で得られたデータの信頼性を担保する方法も課題である。また、得られたデータのプライバシー保護も問題となる。ガイドラインや法律の整備が重要となる。

まとめ

治験業務を効率化し、参画へのハードルを下げたり国際競争力を高めることは日本の創薬業界の維持・発展のためには不可欠である
。その具体的な方法の1つとして分散型治験の導入が期待されている。その一方で環境整備や法整備など不十分な点が多く存在し、官民一体となった改善が必要であると考えられる。

参考文献

http://platinum.mri.co.jp/sites/default/files/page/vct-teigen.pdf
「患者中心の治験」の実現 -日常生活からの医薬品・医療機器・再生医療当製品開発-
バーチャル治験普及に向けた提言書(2021年1月 ヘルスケア・イノベーション協議会 バーチャル治験意見交換会)

http://www.phrma-jp.org/wordpress/wp-content/uploads/2018/10/2018_CRC_slide.pdf
PhRMA/EFPIA Japan共催セミナー「日本がグローバル試験から排除される日 ~最悪のシナリオを回避するための意識・行動改革~」
(第18回 CRCと臨床試験のあり方を考える会議2018 in 富山)

http://bioanalysisforum.jp/images/2021_12thJBFS/310-2-01_matsushima.pdf
「医療機関への来院に依存しない 臨床試験手法の実現に向けて -製薬企業の立場から考える現状と課題-」
(日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会 松島 総一郎)

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