生活習慣領域に新たな突破口、CureAppが取り組む治療用アプリ

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生活習慣領域に新たな突破口、CureAppが取り組む治療用アプリ

慢性疾患領域に新たな突破口、CureAppが取り組む治療用アプリ

2022年4月26日、厚生労働省より製造販売承認(薬事承認)を取得したことを発表した。この出来事はヘルスケア業界に止まらず、日本医療分野の歴史的な転換点で、医師と患者を支援するアプリのソフトウェア単体での薬事承認取得は国内初、高血圧症対象では世界初となった。本項では、CureApp(キュアアップ)が取り組む治療用アプリを中心に取り扱い、今後の展開と可能性についても考察する。

CureAppは日本の治療用アプリ提供企業として先駆者的存在

株式会社CureApp(キュアアップ)は(CureApp, Inc.)は2014年7月、佐竹晃太と鈴木晋が創業した、スマートフォンアプリを通して個人に最適化された治療を提供する企業である。CEOの佐竹晃太は米国留学時に読んだ論文をきっかけにデジタル療法の可能性に惹かれて、治療用アプリの開発に取り組み、現在では遠隔のデジタル療法市場において先駆的な存在となっている。

CureAppは新たなアプローチから患者の禁煙アプリや高血圧アプリなどを展開

これまでの禁煙・高血圧対策/治療の課題は、医師との接点がない診療から再診までの空白の期間で継続的に禁煙することや健康的な生活を送ることが困難である点にあった。そのため、個人の心理的な面に頼ることが多く、継続を断念する人が少なくなかった。

そこで、CureApp(キュアアップ)は課題に対して、医薬品や医療機器といった既存の治療とは異なる「治療アプリ」という新たな治療アプローチによって解決を図った。アプリを通して患者との介入機会を増やすことで、継続の心理的ハードルという課題を解決した。また、その結果として患者の重症化を予防し、医療費の高騰も防ぐことを可能とした。

治療用アプリとは何か?

「治療アプリ」はCureAppの登録商標

「治療アプリ」はCureApp(キュアアップ)の登録商標であり、他にも「処方アプリ」等もCureApp(キュアアップ)が持つ登録商標である。

治療用アプリはDTx, SaMD市場に含まれる

治療用アプリが属する市場としては、DTx、SaMDなどが挙げられる。DTxとはDigital Therapeutics(デジタルセラピューティクス)の略で、デジタル技術を用いた疾病の予防、診断・治療等の医療行為を支援または実施するソフトウェア等を指す。また、SaMDとは、Software as a Medical Deviceの略でデジタル技術を利活用して診断や治療を支援するソフトウエアとその記録媒体を含むものを指す。

DTxのグローバル市場は急成長が予想され、世界にはPear Therapeutics社などいくつか先端事例の企業がある

Market and Marketの調べによると、世界のDTx(デジタルセラピューティクス)市場規模は、2021年の3.4億ドルからCAGR31.4%で成長し、2026年には13.1億ドルまで達すると推定されている。

Pear Therapeutics社は代表例であり、薬物乱用や不眠症治療などに取り組んでいる。他にも高血圧・糖尿病をはじめとする生活習慣病に取り組むOmada社Livongo社等が挙げられる。

日本ではサスメド、アステラス、塩野義等も治療用アプリに取り組んでいる

日本でCureApp(キュアアップ)以外にも治療用アプリに取り組んでいる。サスメド、アステラス製薬、塩野義製薬等が代表例で、以下が企業名と取り組む対象疾患である。

企業名

対象疾患

サスメド

不眠症(承認申請中)

塩野義製薬

ADHD(臨床試験中)

アステラス製薬

糖尿病(治験中)

※ADHDについて
ADHD(注意欠如・多動症)は、「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害の概念。

禁煙アプリ「CureApp SC」が日本で初承認

医薬品では解決できない「心理的依存」を解決するアプリと有用性

CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカーは、ニコチン依存症の心理的依存にアプリを通じてアプローチし、患者の行動変容を促すことで正しい生活習慣に導き治療するデジタル療法である。アプリを利用することで来院と来院の間も医師がデータを通して患者と接点を持つことができ、研究からもその有用性は示されており、主要評価項目の9-24週における継続禁煙率が、対照群の50.5%に比べ、アプリを利用した群は63.9%となった。

臨床研究からアプリ提供までの道のり

以下はCureApp SC提供までの主な経緯を追ったリストである。日本初の「治療アプリ」を提供するまでに、臨床研究、治験を経て合計5年半もの長い道のりを辿ってきたことがわかる。

時期

内容

2015年2月

慶應義塾大学病院でニコチン依存症治療用アプリの臨床研究を開始

2017年10月

ニコチン依存症治療用アプリの治験を開始

2019年5月

国内第Ⅲ相臨床試験で禁煙外来におけるニコチン依存症治療用アプリの有効性を確認したことを発表

2020年6月

「ニコチン依存症治療アプリ」が厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 医療機器・体外診断薬部会で承認了承

2020年8月

「ニコチン依存症治療アプリ」が製造販売承認(薬事承認)を取得

2020年12月

「ニコチン依存症治療アプリ」が保険適用、販売開始

CureApp SCの製品構成

CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカーは患者アプリ、COチェッカー、医師アプリの3つによって構成されている。

アイテム

機能

患者アプリ

患者の行動変容を促すために、チャット機能、治療プログラム機能、実践管理機能、禁煙日記機能がある。

COチェッカー

患者が日々の呼気一酸化炭素濃度(CO濃度)を測定する。測定した数値はBluetoothによってアプリと連動している。

医師アプリ

患者様が患者アプリを通じて行っている治療の状況をWeb上で表示する。

同分野では法人向けの卒煙指導アプリも提供

喫煙分野では法人向けの「ascure(アスキュア)卒煙」も提供している。サービスは2017年4月から提供しており、CureApp(キュアアップ)が提供するモバイルヘルスの第一弾となった。アプリを通してascure卒煙の指導員が、専用アプリの利用者の状態をもとに卒煙のためのフィードバックを提供し、より個々人の状態や悩みに応じた的確な支援を実行できる。

高血圧アプリ「CureApp HT」も世界で初薬事承認

高血圧のコントロール目標を達成できているのは有病者の1/4

高血圧治療ガイドライン2019(p7,10)によると、高血圧の推計者数4200万人のうち、治療を受けており、目標値に対してコントロールできている患者は1250万人程度とされている。これは、継続的に生活習慣を改善して値をコントロールすることの難しさを示しており、長年の課題でアンメットニーズとなっていた。

アンメットニーズに対して、生活習慣の修正をサポートするアプリ「CureApp HT」

CureApp HTは患者ごとに個別化された治療ガイダンス(患者が入力した情報に応じた食事、運動、睡眠等に関する知識や行動改善を働きかける情報)をスマートフォンを介して直接提供するとされている。行動変容を促し患者の正しい生活習慣の獲得をサポートすることで、継続的な生活習慣の修正が可能となり、減塩や減量を通じた血圧の低下という治療効果をもたらすことを期待している。

今後の流れとアプリが持つ可能性

2022年4月に薬事承認を受け、CureApp(キュアアップ)によると現在2022年中の上市と保険適用を目指して準備を進めている。アプリの上司は医師と患者とのデータ共有を可能とし、患者もより身近に医療に触れることとなる。これにより、健康意識の改善と医師とのさらなる信頼関係構築が期待される。

高血圧・禁煙以外に取り組んでいる治療用アプリ

NASH

NASHとは何か?

脂肪肝の要因とNASHが示す範囲(オレンジ)

脂肪肝とは、肝臓の中に中性脂肪が蓄積して肝障害をおこす疾患である。脂肪肝の原因はアルコール性脂肪肝と、ほとんどアルコールを飲まない人に起こる非アルコール性脂肪性肝疾患 (nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)に分かれる。その内訳に非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)が含まれており、肝硬変や肝癌に進行する可能性があるものをさす。日本では約100-200万人いると推定される。

東京大学医学部附属病院との共同研究
NASHは現状確立された治療法がなく、減量のための栄養指導や医師からの運動の励行など個々の施設の取り組みにとどまっており、 外来受診時の限られた時間で患者に適切な行動療法を行うことは現実的に困難であり、患者自身の治療の継続も難しいことが課題となっている。
そこで、東京大学医学部附属病院との共同研究を進めており、2016年10月より臨床研究、2018年4月より多施設での臨床試験を開始した。個々の患者に最適化された診療ガイダンスを外来受診時以外もアプリが継続的に行うことを目指している。患者と医療従事者双方の負担を著しく増やすことなく効果を得ることができれば、NASH に対する有望な治療法になると期待される。

アルコール依存症治療用アプリ

アルコール依存症とは?
アルコール依存症とは、アルコールを繰り返し多量に摂取した結果、アルコールに対する依存を形成し、生体の精神的および身体的機能が持続的あるいは慢性的に障害されている状態である。日本では依存症に陥っている人口が100万人以上と推定されている。

国立病院機構 久里浜医療センターと2020年6月より臨床研究を開始
CureApp(キュアアップ)は、危険・問題がある飲酒者に対するスマートフォンアプリを併用したオンラインカウンセリングプログラムを開発し、日本を代表するアルコール依存症の治療・研究機関である独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターと共同で効果検証研究を実施することを発表した。

このスマートフォンアプリを併用したオンライン減酒カウンセリングプログラムは、1日平均純アルコール摂取量が60gを超える多量飲酒者(男性60g+/日、女性40g+/日の純アルコール摂取)へ心理的な支援をするため、認知行動療法の考え方をベースとしている。CureApp(キュアアップ)は、ユーザーがアプリを通し、自身の飲酒を振り返り、多量飲酒に結びつく状況や感情、考えに気づき、飲酒欲求への対処スキルを獲得することで、不適切な飲酒習慣の修正を図りたいとの考えだ。

がん患者支援アプリ

第一三共株式会社と2020年11月より共同開発を開始
CureApp(キュアアップ)は、第一三共と2020年11月にがん患者を支援する「治療アプリ」を共同研究することを発表した。両社は、「治療アプリ」の医療機器承認を目指し、2021年度を目標に乳がんのがん患者様を対象とした臨床試験に入ることを予定しているが、現段階では新たな動きはない。

治療用アプリのサービス拡充と、海外展開にも期待

これまでCureAppが取り組んでいる事業について記載してきたが、最後に今後の展開について考察する。日本においては、素直に現在進めているサービスを発展させながら、治療用アプリの普及に尽力すると考えられる。時間軸としては、禁煙アプリを上市するまで5年半という時間を有したが、行政も規制緩和に取り組んでおり、アプリのリリースと拡大は加速していくと考えられる。

また、2019年3月にCureAppはアメリカに子会社を設立した。コロナ(COVID-19)の影響もあり、その後の対外的な海外展開の動きは見られないが、日本においては禁煙アプリが上市されてから1年以上経過している。日本で治療用アプリ市場の基盤が形成されつつある状況を踏まえると、今後海外展開を進めていくことが期待される。

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