非侵襲血糖値測定器は普及するのか?
日本では糖尿病患者が約1000万人程度いるとされており、日々の血糖値モニタリングは糖尿病治療・予防のために必須である。しかし、従来の検査方法は注射針を刺し血液を採取する必要があり、身体的な痛みや感染症のリスクさえもあった。
このような潜在的な課題に取り組む非侵襲型の検査方法が近年注目されている。2022年2月、世界初の採血のいらない非侵襲血糖値センサーの開発に取り組むライトタッチテクノロジー株式会社シリーズAのファイナルラウンドで1億円の資金調達を実施した。本稿では、従来の血糖値測定器について外観しながら、現在注目されている非侵襲型の事例、ニーズ、また今後開発・普及する上での課題等について考察する。
血糖値測定器は何に使うのか?
血糖コントロールを行うために自宅で血糖値を測ることを血糖自己測定(SMBG)といい、その際に用いる器具である。特に糖尿病患者の中でも、妊娠している人、インスリン治療をしている人等が必要とする。他にも測定値を記録することで、治療の効果を知ることや、運動・食事内容の見直しにも活用することができる。
針付きの血糖値測定器の代表例
フリースタイルリブレ
フリースタイルリブレはAbbottの商品で、侵襲性が低いことが特徴である。針のついた丸いセンサーを腕に装着し、その後2週間ほど常備することで自動的に血糖値を測ることができる。そのため他の製品が血糖値を測る度に針を指す必要であるのに対して、最初の1回だけで測定できる。
グルコカード
グルコカードはアークレイの商品で、音声機能がついていることが特徴である。測定操作の状況、測定結果、測定できない理由など音声で知ることができる。ニプロのフリースタイルと同様に、専用のセンサーに血液を染み込ませて血糖値を読み取る。
非侵襲型血糖値測定器事例
上記で挙げた針付き血糖測定器は現在の主流であるが、針なしで血糖値を測定する非侵襲型血糖測定器が現在開発されている。市場にはまだ出回っていないが、今後の開発と普及に期待である。
ライトタッチテクノロジー
ライトタッチテクノロジー株式会社は、2017年7月に設立したベンチャー企業である。先端レーザー技術を駆使し、世界初の採血が不要な血糖値センサーを開発に成功した。国際標準化機構(ISO)の定める基準を満たしている。現在、在宅用医療機器やウェアラブルデバイスとして製品化することを目指している。
クォンタムオペレーション
株式会社クォンタムオペレーションは、2017年10月に設立したベンチャー企業である。時計状の血統センサーを現在開発中であり、中国の深圳のIT企業と業務提携を実施している。血糖値以外にも心電図や心拍数まで測れるように設計されている。
非侵襲型血糖値測定器のニーズはどこにあるか?
現状の針付き測定器が抱える課題をもとに、非侵襲型血糖値測定器にどのようなニーズがあるかについて考察する。
個人の抱えるアンメットニーズ
肉体的負担
糖尿病患者は血糖値の測定とインスリン注射を日常で実施する必要があり、1日4-5回程針を体内に入れる必要があるが、血糖値の測定が非侵襲型になることで年間1500回減らすことができる。特に針を用いることで指先にアザができることも発生しており、肉体的負担は大きい。
精神的ストレス
針を毎日のように見て、自分の指先に指すことは糖尿病患者に精神的な苦痛を与えており、非侵襲になることでストレスが解消される。
度重なる費用
針や検査チップは使い捨てで買い換える必要があり、保険が適用されていたとしても、年間多額の金額を払う必要がある。
感染リスク
採血する毎に体内に細菌が入り込むリスクを抱えており、非侵襲型になることで感染リスクも軽減する。
医療機関の抱えるアンメットニーズ
莫大な医療廃棄物
従来血糖値を測るためには針やチップ等患者が使うたびに破棄する必要があったが、レーザーで読み取ることでこれまで発生していた医療廃棄物を減らすことができる。
手間のかかる測定
針を刺す時間や指すための人件費、また結果が出るまでの待ち時間が混雑の原因になっていたが、手をかざして数秒で結果が出ることにより大幅に手間が省ける。
幼児・未熟児の測定
従来のもので幼児・未熟児の測定を行うには、落ち着かせる必要があり測定が困難であったが、非侵襲であるため難なく測定できる。
非侵襲型血糖値測定器が普及するまでのハードルは?
これまで非侵襲型血糖値測定器の有用性について述べてきたが、上市前で普及までにハードルを抱えている。
部品の調達・測定精度の向上
臨床に求められる測定精度を満たす非侵襲血糖値測定技術を確立しているが、それを可能とする部品が輸入品であることが多く、入手に時間がかかり、今後のメンテナンス体制にも不安がある。
治験・臨床試験の実施
より幅広い血糖値範囲に対する有効性を示すために、糖尿病患者に対する臨床研究を予定しているが、承認申請、治験の経験等未知な分野なため、進めるのが困難である。
非侵襲血糖値測定器は普及への道のりは?
上記の課題で挙げたように、非侵襲センサーでの普及までにはまだ時間を要する状態となっている。しかしこれまで非侵襲センサーの開発は約30年前から研究されてきており、日本の大企業でも取り組まれていましたが、途中で断念するケースが多かった。そのような中でライトタッチテクノロジーが世界で初めて国際標準化機構(ISO)の定める基準を満たしたことは普及への大きな第一歩であり、今後の進展に期待である。