治療用アプリと並ぶ注目領域・デジタルバイオマーカー(dBM)とは何か?

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  • 医療DX

治療用アプリと並ぶ注目領域・デジタルバイオマーカー(dBM)とは何か?

近年、ヘルステック領域で治療用アプリ(PHR)が注目を集めているが、これと並んで伸びを見せているのがデジタルバイオマーカー(dBM)市場である。本記事では、dBMの定義、市場規模、国内事業例、データ収集方法、臨床試験に活用する際の流れや注意点などを概説する。

デジタルバイオマーカー(dBM)とは何か?

デジタルバイオマーカー(dBM)とは臨床的な評価を目的に各種のデジタルデバイスを用いて客観的・定量的に収集・測定された生体データ」である[1]。dBMは生理学的指標(心拍・脈拍・血圧・心電図・皮膚電気活動・血糖値など)と行動学的指標(歩行・運動・発話・視線など)に大別され、健康増進分野(健康経営・安全運転・安全就労・スポーツ支援など)、疾病/介護の予防/治療分野(疾患早期発見/予防・DTx・DCT・オンライン診療など)といった領域における活用が検討されている[2]。

そもそもバイオマーカーとは何か?

バイオマーカーの定義については、2001年にFDA/NIH Biomarker Working Groupが定めた「通常の生物学的プロセスや病理学的プロセス、あるいは要因/介入(治療的介入を含む)に対する反応などの指標として測定され、客観的に評価される特性」というものが論文等で頻繁に使用されている[3]。

広義には、バイタルサイン(血圧・体温・心拍数など)、臨床検査値(生化学検査、血液検査、腫瘍マーカーなど)、画像診断データ(X線・CT・MRIなど)といったデータも含まれる [4]。以下のようにいくつかの種類が存在する[5]が、総じて疾患の有無や進行状態、治療への反応などを検出・確認するための指標と言える。

バイオマーカーの種類

  • Susceptibility / Risk Biomarker(感受性 / リスクマーカー):現在臨床徴候を持たない個人が疾患を発症する可能性の指標
  • Diagonistic Biomarker(診断マーカー):疾患の存在を確定する指標
  • Monitoring Biomarker(モニタリングマーカー):疾患の進行や治療への反応の評価指標
  • Pharmacodynamic / Response Biomarker(薬力学/反応マーカー):医薬品や環境要因に対する生物学的反応を確認する指標
  • Safety Biomarker(安全性マーカー):医薬品や環境要因による有害事象の存在・可能性・程度の指標
  • Predictive Biomarker(予測マーカー):治療効果や副作用が見られる可能性が高い患者を特定する指標
  • Prognostic Biomarker(予後マーカー):疾患による入院・死亡・再発・進行などの可能性を特定する指標
  • Surrogate Endpoint(代替エンドポイント):臨床研究において、真のエンドポイントでの評価が難しい場合に代用されるもの。ほとんどがバイオマーカーで、日本では代替マーカーと呼ばれる場合も多い。

臨床経過の各段階で使用されるバイオマーカー
(https://academic.oup.com/neuro-oncology/article/20/9/1162/4774039)

デジタルバイオマーカーのメリット・デメリット

dBMとは、上述のバイオマーカーのうちデジタルデバイスを用いて収集・測定されるもののことであり、前述の通り製薬協によるデジタルバイオマーカーの定義は「臨床的な評価を目的に各種のデジタルデバイスを用いて客観的・定量的に収集・測定された生体データ」である[1]。

では、バイオマーカーをデジタルデバイスで収集・測定することの意義はどこにあるのだろうか。dBMを利用するメリットは以下の通りだ[1][6]。

物理的に収集が難しかったデータを得られる

睡眠中の動作や瞬き、24時間にわたる測定結果など、物理的に計測が困難であったデータを収集することができる。病院にいない時の状態をデータとして取得できることも特筆に値する。

非侵襲的にデータを得られる(場合が多い)

収集方法が確立されていたデータであっても、注射が必要など取得方法が侵襲的な場合も多かった。侵襲行為は医療関係者にしか行えず、患者に抵抗感を与えることもある。dBMの導入により侵襲的な方法でデータを収集する機会を減らすことができれば、大きなメリットとなる。

以上のように、得られる生体データの種類・量の増加に寄与するものと考えられる。

さらに、バイオマーカーの中でもdBMはAIによるデータ解析と組み合わせることで新規疾患予測方法の確立や新薬創出につながる例もあり、新たな臨床的価値を生み出す可能性を秘めている。

一方、病院で取得・観察されてきたようなバイオマーカーと比べると、dBMはデータ量やノイズが多いため管理や解析に高い技術が必要とされる。デバイスとデータ収集者の間で通信が発生するため個人情報漏洩の危険も大きくなるなど、取り扱いが難しいというデメリットも存在する[6]。しかし、デジタル技術が進歩している現代ではこのハードルも低くなっている。

デジタルバイオマーカーの市場規模

このように魅力溢れるデジタルバイオマーカーは、近年急速に市場拡大が進む領域となっている。

2020年11月に発表されたEmergen Research社のレポートによると、世界のデジタルバイオマーカーの市場規模は2020年に10.1億ドルであったという。dBM市場は2021年から2028年の予測期間中に39.2%の収益CAGR(年平均成長率)を記録し2028年には144.4億ドルの市場規模に達すると予測されている[7]。

2021年4月に発表されたReport Ocean社のレポートでは、世界のデジタルバイオマーカー市場は2030年までに毎年36.2%の成長を見せ225.4億ドルの規模に達すると予測されている[8]。

2022年4月に発表されたBIS Research Inc.のレポートでは、世界のデジタルバイオマーカーの市場規模は、2021年の18.83億ドルから36.06%のCAGRで推移し2028年には161.74億ドルにまで成長すると予測されている[9]。

総合すると、世界のデジタルバイオマーカー市場は2021年の約15-20億ドルの規模から35-40%程度のCAGRで成長し、2028年に約150億ドル、2030年に約250億ドルの規模に達すると予測されている。

デジタルバイオマーカー市場成長の要因

  • 慢性疾患の増加
  • 一部の疾患(糖尿病、新血管疾患、呼吸器疾患、胃腸疾患、神経変性疾患など)における、dBMを用いた治療の増加
  • 高齢者人口の増加
  • ヘルスケア製品への支出増加
  • 健康系のデジタルデバイス・モバイルアプリの使用増加
  • 高度なdBM研究開発活動の増加

今後もこれらの動きは続くと見られ、スマートフォン・スマートウォッチの普及率向上、FDAなどの機関による新製品・ソリューションの承認増加なども期待されるため、さらなる市場成長が見込まれている[7]。

まとめ

高齢化をはじめとする社会構造・医療状況の変化にデジタル技術の進展・普及がうまく噛み合い、dBM市場は爆発的に成長していくと予想されている。

参考文献

  1. 日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会「医薬品開発におけるデジタルバイオマーカー(dBM)の利活用と要件」https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/rfcmr0000000216e-att/digital_biomarker_202204.pdf
  2. 日立製作所「日立評論:デジタルバイオマーカー活用を通じたQoL向上と高齢者向け予防支援」https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2020s/2022/02/02a05/index.html?WT.mc_id=ksearch
  3. Clin Pharmacol Ther. 2001;69:89-95
  4. https://www.pmda.go.jp/files/000155707.pdf
  5. FDA-NIH Biomarker Working Group, ‘BEST (Biomarkers, EndpointS, and other Tools) Resource’, 2021 Jan 25, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/n/biomarkers/pdf/
  6. TechDoctor Inc.「デジタルバイオマーカーとは」https://note.com/techdoctor/n/n467e76483f59
  7. Emergen Research, ‘Digital Biomarkers Market By System Component, By Therapeutic Area, By End-Users, Forecasts to 2027’, 2020 Nov,  https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000096.000082259.html

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