今後の電子カルテはどう進化するのか? 今後のトレンドを読み解くための要素は何か?

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今後の電子カルテはどう進化するのか? 今後のトレンドを読み解くための要素は何か?

今後の電子カルテはどう進化するのか? 今後のトレンドを読み解くための要素は何か?

令和4年6月7日、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)が閣議決定されその中で「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」、「診療報酬改定DX」の取組を行政と関係業界が一丸となって進めることを発表した。この閣議決定は今後の電子カルテの方向性を読み取るための鍵になる。また海外において、電子カルテは臨床試験の分野や病院経営の分野などデータの利活用が進んでいる。

本稿では今後の電子カルテはどう進化するのか?という問いにアプローチする上で、参考になる視点・要素について触れていく。是非ともこれらの視点・要素を踏まえた上で読者の皆様にも今後の方向性について考えてもらいたい。

臨床試験・治験のための電子カルテデータ活用のコスト削減

海外では電子カルテ等から得られるRWD(リアルワールドデータ)からRWE(リアルワールドエビデンス)を抽出し、臨床試験・治験分野への利活用が進んでいる。しかし、ここにはコストに関連して二つの問題が存在する。

1.臨床試験に適したコホート(患者群)を探すのが困難である
2.電子カルテのデータを治験専用のデータ(EDC)に移行するのに膨大な時間を有する


このような背景を受けて、臨床試験・治験のための電子カルテデータ活用のコスト削減が注目されている。この分野に取り組むFlatiron社とTrinetX社について事例紹介する。

Flatiron社

Flatiron社のプラットフォームにはアメリカ国内の多数の医療機関のRWD(リアルワールドデータ)が蓄積されている。Flatiron社はそのプラットフォームを通じて、特に癌分野における臨床試験、治験のサポートを行っている。主なサービスとしては2つある。

・ Flatiron Clinical Pipe
主要な EHR(電子カルテ) と EDC (電子的臨床検査情報収集)システム間のデータ転送をわずか数クリックで可能にする。これにより時間とコストを節約して、より早く結果を得ることができる。

・Oncotrials
臨床研究チームが臨床試験用の患者を効率的に特定し、スクリーニングするために特別に構築されたツール。これにより適したコホートを探す作業が短縮化される。

TrinetX社

TriNetX社は自社の持つプラットフォーム上に各医療機関が持つ電子カルテをはじめとするリアルワールドデータを統括している。研究者はTriNetXのネットワークを活用することで、何百もの治療分野の臨床試験プロトコルを分析し、世界中のTriNetX医療機関メンバーに何千もの臨床試験の機会を提示し、同時に臨床試験のための施設特定選定にかかる時間も削減する。

病院経営をより良くするためのツール

医療のIT環境としては、ERP(企業資源計画)とEHR(電子医療記録)の二つがあり、それぞれ病院を回す上では重要なツールである。しかし、現状二つは独立しており、データの利活用がうまく行っていない。この問題へのソリューションとしてWorkdayは2つのデータを統合することで病院経営の改善と効率化に取り組んでいる。

Workday

Workdayは、自社のERP(企業資源計画/Enterprise Resources Planning)とEHR(電子カルテ)を統合させることで病院の経営を複数の側面で支援する。主に3つの方向性で病院経営をサポートする。

1.財務管理
これまでは、レセプトデータをERPに記入するのに手間がかかり記入ミスも多々あった。ERPとEHRを統合することで正確に常に最新の財務状況を知ることができる。

2.在庫管理の自動化
Workday は消耗品に関するすべてのデータを格納するシステムであり、EHR は医療従事者が使用しているものを記録する。これまではERP に戻って使用済みのものを請求し、必要なときに備品を補充することを手作業で行っていた。それにより、非効率的で手作業によるエラーが発生していた。Workday とEHRを統合することで、在庫管理を自動化して組織全体の効率を上げる。

3.経営判断をサポートするデータの提示
ERPとEHR間でのデータ連携で以下のようなデータの提示が可能である。
-患者の日報と売上
-人件費と人件費以外のコストとの比較
-開業医の必要人員とスキルセットの比較
-医師報酬のベンチマークに対するバリュー・ベース・ケア

データから疾患を予測する診療支援ツール

現状電子カルテにおいては患者の膨大なデータが蓄積されているが、実際にそれらのデータが積極的に利活用されていない。これらの現状に対して、リアルタイムで電子カルテに記入している患者のデータと過去のデータの蓄積からAIが診療をサポートするツールが開発されている。

昭和大学と富士通Japan

2022年9月15日、昭和大学と富士通Japanは電子カルテデータを用いた診療支援AI技術の開発に向けた共同研究を2022年9月より開始したことを発表した。

主訴や患者所見などの電子カルテシステムに記載されたテキストデータと病院に蓄積された過去の診療データから総合的にデータの関連性,類似性を数値化し,疾患分類を評価する新たな診療支援AI技術を研究開発する予定だ。

データの標準化

日本国内において電子カルテベンダーは多数存在しており、各社違ったシステムを用いるため現状データを一元化することは困難である。そのため、データを施設外で共有することができず、リアルワールドデータとしての利活用も進めにくい状態となっている。このように現状データ利活用をする上での問題があり、さらにコロナ禍で国内医療の電子化の遅れが露呈した。

政府は骨太方針2022年において電子カルテを標準化を目指すことを発表した。全国的に症状や疾患等の情報を集計できるようにすることを目指す。具体的には、以下の情報について標準化を進め、段階的に拡張するということである。

医療情報:① 傷病名、② アレルギー情報、③ 感染症情報、④ 薬剤禁忌情報、 ⑤ 救急時に有用な検査情報、⑥ 生活習慣病関連の検査情報、⑦ 処方情報

診療報酬改定DX

診療報酬改定は2年に一度実施されており、その背景として税制改正、物価変動等医療に関わる環境に対応するためである。しかし、現状この改定を電子カルテやレセコンシステムに反映するのに約1ヶ月かかり、膨大な作業量とそのための人件費がかさんでいた。 この問題を受けて、政府は診療報酬改定DXを骨太方針2022年において取り入れた。

今後の方向性としては以下の2つが考えられている
1.ベンダー各社が行っている診療報酬改定作業を1つにまとめる
2.現状2月~5月の作業のピークを平準化する


またこれらを実施することで各ベンダーと医療機関の作業コストを下げることによって、最終的に医療費の削減にまでつなげることを目指している。今後政府と各社が協働しながら診療報酬改定作業を一つにまとめる方向性で動き出すと考えられる。

セキュリティの強化

コストの関係上、全ての病院やクリニックにおいて医療に特化したIT専門家がいるわけではなく、そのためセキュリティ対策が万全であるというわけではない。2001年10月31日、つるぎ町立半田病院がサイバー攻撃を受けた。電子カルテをはじめとする院内システムがランサムウェアと呼ばれる身代金要求型コンピュータウイルスに感染し、カルテが閲覧できなくなるなどの大きな被害が生じた。データの完全復旧まで2ヶ月かかった。この事件は医療のデジタル化を進めていく上で、セキュリティ観点が軽視できないものにした。

事件が発生した背景として、もともと半田病院ではサイバー攻撃を狙いやすい状態となっていたことが挙げられる。脆弱なパスワードを利用し、マルウエア対策ソフトの停止していた。また古い電子カルテシステムを使い続けており、攻撃の標的になるに至った。

ここで考えないといけない点は電子カルテをはじめとするITベンダーと医療施設が協力して、どう施設内のセキュリティ面を保ちながらIT環境を構築し、維持/メンテナンスすることを仕組み化するという点である。今後このようにセキュリティ強化が必要であるであろう。

今後の電子カルテはどう進化するのか? 今後のトレンドを読み解くための要素は何か?

以上今後の電子カルテはどう進化するのか? 今後のトレンドを読み解くための要素は何か?という問いについて検討してきた。現在厚生労働省は医療DX推進本部を発足するための準備を進めている。今後この動きを受けて、電子カルテの進化も加速していくと考えられ、国や海外での動向には注目である。

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