薬価は他の日常品と違って、国によって定められている。その薬価を定期的に調整するために薬価改定が実施される。
本稿では薬価改定とは何で、それが近年どのような傾向のもと製薬企業や国内薬品市場に影響を与えているのかについて考察していく。
薬価改定とは流通価格に応じて薬価を引き下げることで、これまで2年に一度実施されてきた
薬価改定とは、医療機関や薬局に対する実際の販売価格(市場実勢価格)を調査(薬価調査)し、その結果に基づいて定期的に改定する制度である。これまでは2年に1回実施され、薬価改定では消費者の負担が減るように薬価の引き下げが実施されてきた。
厚生労働省「日本の薬価制度について」p8より引用
上図からわかるように、基本的には薬価改定で価格が下がるとそれに応じて医療機関や薬局での販売価格も下がる。
その結果、卸売業者や特に製薬企業が価格を抑える必要がある。
2021年からの毎年薬価改定と近年の物価上昇が国内の製薬企業に打撃を与えている
これまで薬価改定は2年に一度実施されてきたと説明したが、2021年から毎年薬価改定が実施されるようになった。
この制度変化と近年の外部環境が国内の製薬企業に与える影響について外観していく。
薬価改定に伴って、卸売業者と製薬企業が価格を抑える必要があることについて上述したが、ここで主に打撃を受けるのが国内の製薬企業である。毎年薬価改定によって薬価が5%程度引き下げられることもあるが、日本の薬剤費が約9.5兆円であることを踏まえると例えば1%価格が下がるだけで950億円分の市場が失われることになる。薬価改定によって多額の市場が失われることになる。
日本製薬団体連合会 「物価高騰等の影響について」p3より引用
さらに近年物価高が進んでいることで製造コストも上昇している。つまり、薬価改定の頻度の変更と物価上昇によって薬剤の原価率が上昇している。また、上記の図からわかるように原価の上昇と薬価の低下は製薬企業の利益が大きく圧迫されることにつながっている。
近年の薬価改定の流れにより国内外での治療薬に差が生じはじめている
これまで薬価改定によって製薬企業の市場が失われ、製薬企業の利益が減少していることについて述べてきた。その結果として国内外での治療薬に差が生じ始めている。これまではドラッグ・ラグ(海外で承認されてから日本で承認されるまで数年単位の時間差が生じること)と呼ばれていたが、今後利益が下がり、市場が縮小することでドラッグ・ロス(海外の薬品が日本国内に入ってこないこと)に陥ることが懸念されている。ここでは薬価改定によってなぜドラッグ・ラグやドラッグ・ロスが起こっている/起こり得るのか?について外観する。
国内医薬品市場の魅力が薄れることにより投資優先度が低下している
現状、日本の医薬品市場規模は1位のアメリカと2位の中国に次ぐ3位となっている。しかし、下の年平均成長率を表すグラフからわかるように、日本は先進国の中では珍しく今後医薬品市場が縮小していくと予想されている。これは高齢化によって医薬品の需要は増す一方で、先程から述べている通り、度重なる薬価改定による影響であると考えられる。
INES新薬イノベーション研究会「イノベーションを評価するための薬価制度改革」p6より引用(元ソースはIQVIAによるもの)
また、2021年9月に実施された「薬価制度抜本改革に係る医薬品開発環境および流通環境の実態調査研究」によると製薬企業の日本への投資優先度が低いことが読み取れる。また、そのように思った原因で1位となったのは中間年の薬価改定(毎年薬価改定)であった。
「薬価制度抜本改革に係る医薬品開発環境および流通環境の実態調査研究」別添7 p9より
※大手20社:内資系企業、外資系企業別に国内での医療用医薬品売上高(2020年)上位10社(計20社)
このことから、今後日本はトップティアから外され、治療薬が国内に入ってこないことが起こり得ると考えられる。
製薬企業の利益減により国内未承認薬品が増加している
製薬企業の利益は創薬のための臨床試験の実施や研究開発の費用として必要である。しかし、薬価改定によって利益が減少することでこれらの費用を捻出することが困難になっている。
厚生労働省「医薬品業界の概況について」p7より引用
上のグラフから、直近5年間欧米で承認された医薬品の内72%が日本において未承認となっていることが読み取れる。この数値から既に日本の国内外では利用できる治療薬に差があることがわかる。
まとめ:薬価改定とは何か?近年製薬企業や医薬品市場にどのような影響を与えているのか?
薬価改定の概要から現状どのような傾向にあり、近年製薬企業や医薬品市場にどのように影響しているのかについて外観してきた。薬価改定によって製薬企業は資金難に陥ることになり、医薬品市場としても外国から入ってくる治療薬は今後少なくなると考えられる。今後政府と企業は高齢化と向き合いながら、どのようにこの問題に対処するか注目である。