今世界を席巻しているサービスといえば、ChatGPTだ。その汎用性と精度の高さから、医療現場への活用も期待されているAIチャットボットである。
しかし、ChatGPT以外にも有用なAIサービスが続々と開発されている。特に、医療領域に特化したAIツールもリリースされ始めている。本記事ではその中から、臨床業務への活用に特化したAIツール「Glass AI」を紹介する。
Glass AIはプロブレムから鑑別診断・治療計画を生成するAIツール
- 患者のプロブレムから鑑別診断と治療計画を作成するAIツール。
- 大規模言語モデル (LLM) と臨床医が作成・管理する臨床知識のデータベースが基盤となっている。
- 開発企業は2021年設立のGlass Health社。
- Glass AIは今年1月末にサービス "Glass" の一機能としてリリースされ、3月下旬にはver 2.0も公開された。
Glassというサービスは、医学知識をまとめたページのダウンロード・共有が可能な “Community Library” と Glass AI で構成されている。Glass自体は一般ユーザーでも利用可能だが、Glass AIを利用できるのは臨床医・看護師・薬剤師などの医療従事者に限られている。
Glass AIの動作イメージ
公式Twitterで紹介されていた事例で、Glass AIの使われ方を確認しよう。
患者の情報を入力し「Generate」をクリックすると、DDX (鑑別診断) と CLINICAL PLAN (治療計画) のうち選んだ方が生成される。
この例では鑑別診断が5つ表示された。それぞれの説明では、その診断の根拠となりうる所見と、その診断の可能性をより高める / 否定するために必要な情報が挙げられている。参考文献として7編の論文も提示されており、簡潔ながら現場でのニーズを捉えたアウトプットが得られることがわかる。
なお、この文章がすべて生成されるまでにかかった時間は20秒程度。臨床業務の補助という観点からは、十分な速度と言えるのではないだろうか。
Glass AI 1.0と2.0の違いはデータベースの構築方法と扱える範囲
Glass AI 1.0, 2.0はいずれも大規模言語モデル (LLM) と臨床知識を使用しているが、その臨床知識のデータをどのように構築しているかという点で違いがある。
Glass AI 2.0では、全米の臨床医 (Glass Health Clinical Contributors) が作成・維持しているデータベースが利用されている。一方、Glass AI 1.0で使用されている臨床知識は、一般に公開されているインターネットから取得したものだ。
当然前者の方が高精度なアウトプットを期待できるのだが、後者にもメリットがある。それは扱える疾患領域の広さだ。
前者は臨床医が作成・維持するという性質上、網羅的なデータベースをすぐに用意することができない。2023年4月14日時点でカバーされている領域は、次の通り一部に限られている。これに対しGlass AI 1.0は幅広いトピックを扱うことができる。
ユーザーからの評価が待たれる
Glass Health社の共同創業者でありCEOを務めるDereck Paul氏によると、Glass AI 1.0の公開から2日間でのユーザーの反応は次の通りであったという。
- 利用者数:14600人がGlass AIを使用し、25700のクエリが送信された。
- アウトプットの有用性:鑑別診断の84%、治療計画の78%が "helpful" と評価された。
- アウトプットの精度:鑑別診断の71%、治療計画の68%が "accurate" と評価された。
3月下旬にはGlass AI 2.0が公開され、SNSではその有用性・精度を多くの医師が試している様子がうかがえる。
医療関係者の皆様は、Glass AIの臨床能力を試されてはいかがだろうか。