医療広告規制まとめ①:規制対象はどこまで?限定解除要件とは?

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医療広告規制まとめ①:規制対象はどこまで?限定解除要件とは?

2023年1月、厚生労働省は医療広告ガイドラインの理解促進を図り、「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書」第2版を公開した。

本記事では、医療広告規制の歴史や管理体制を整理した上で、医療広告規制の対象範囲、医療広告として許可・禁止されている内容について解説する。

なお、次回記事では、「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第2版)」で紹介されている29の事例を簡単に紹介する。本記事と併せてご覧いただくことで、医療広告規制の概要を把握できるだろう。

医療広告規制の歴史

医療広告規制は、医療法および医療法施行規則に基づいて行われてきた。主な歴史は以下の通りである。

  • 1948年:医療法成立、施行。このときから広告規制に関する条文が含まれていた。
  • 2008年:規定方式の変更により、広告可能な事項が拡大された(後述)。
  • 2012年:関係団体等による自主的な取組を促すべく、厚生労働省により「医療機関のホームページの内容の適切なあり方に関する指針(医療機関ホームページガイドライン)」が作成された。
  • 2017年:美容医療に関する相談件数の増加を受け、広告規制の対象範囲が拡大。ウェブサイト等による情報提供も規制の対象となり、一般利用者からの通報を受け付ける「ネットパトロール事業」が開始された。
  • 2021年:広告規制のさらなる理解を図り、ネットパトロールで発覚した実際の違反事例をもとに「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書」が作成された。
  • 2023年:事例解説書の追記・修正が行われ、第2版が公開された。

違反はどのように発覚する?発覚後はどのような措置がある?

ウェブサイトにおける広告規制違反は「ネットパトロール」で発覚する場合が多い。

【 ネットパトロールの流れ 】

  1. 広告等の監視:医業等に係るウェブサイトが医療広告規制等に違反していないかを監視。一般ユーザーからの不適切なウェブサイトの通報も受け付ける
  2. 規制の周知等:通報を受けると審査が行われる。不適切と判断された場合、当該医療機関等に規制を周知。自主的な見直しを図る。
  3. 情報提供・指導等:未改善・改善不足の場合、所管自治体に情報提供が行われ、自治体により指導等が実施される
  4. 追跡調査の実施:自治体に対する情報提供の後の改善状況等の調査を行う。

ネットパトロールでの通報件数・指導状況

2017年8月に運用が開始されたネットパトロール事業だが、2022年3月までに医療広告関係で通報されたサイトは5,709件に達し、通報受付件数はのべ29,014件に達する。

2021年度には1123サイトに対して審査が行われ、847サイトで違反が発覚。当該医療機関に規制を通知した結果、2022年3月末までに742サイトで改善が確認された。自治体への情報提供・指導等を経て改善された12サイトと合わせ、89%が改善・広告中止に至っている

「医療広告規制に違反しているWebサイトの摘発率が高いかどうか」は定かでないものの、「違反が発覚したサイトに対する改善指導」という意味では高い効果を発揮していることがわかる。

悪質な医療広告規制違反に対する措置

違反が発覚した場合、基本的には上記の流れで改善指導が行われるが、悪質な事例(行政指導に従わない・違反を繰り返すなど)では、期限を定めた形で当該広告の中止命令・是正命令が実施される場合がある。

さらに、より悪質な事例に対する措置として告発行政処分も規定されている。

  • 告発:司法警察員に対する書面での告発。罰則(6月以下の懲役又は30万円以下の罰金、あるいは20万円以下の罰金)も設けられている。
  • 行政処分:病院又は診療所の開設の許可の取り消し、あるいは期間を定めた閉鎖。

医療広告規制の対象範囲はどこまでか?

そもそも医療広告とは何か?

医療広告ガイドラインにおいて、医療広告は次の2要件をともに満たすものと定義されている。

  1. 患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)
  2. 医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)

したがって、次に挙げるようなものは通常医療広告とはみなされない。

  • 学術論文, 学術発表
  • 新聞記事, 雑誌記事(費用を負担し記事掲載を依頼することで患者を誘引している場合を除く)
  • 患者が自ら掲載する体験談, 手記(個人が自ら推薦する場合のみ)
  • 院内掲示, パンフレット
  • 医療機関の職員募集に関する求人広告

なお、「これは広告ではありません」など要件を回避する表現を行なっている場合でも、病院名等が記載されているなど実質的に要件を満たしていれば、医療広告として取り扱われる

医療広告規制対象となる媒体の具体例

上の定義を踏まえ、広告規制対象となる媒体の具体例として、ガイドラインでは以下のようなものが挙げられている。

  • チラシ, パンフレット, ダイレクトメール, ファクシミリ
  • ポスター, 看板
  • 新聞, 雑誌, 出版物, 放送
  • 情報処理の用に供する機器によるもの(Eメール, インターネット上の広告など)
  • 不特定多数への説明会や相談会などにおけるスライド, ビデオ, 口頭説明など

また、医療法が2017年に改正されたことにより、広告規制の対象範囲が拡大した。単なる「広告」が「広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」という表現に変更されたことにより、医療機関のウェブサイト等についても他の広告媒体と同様に規制の対象となった。

どのような内容が医療広告として許可・禁止されているか?

では、医療広告として許可されている内容・禁止されている内容はどのように決められているのだろうか?

ポジティブリストとネガティブリスト

日本の医療広告規制は、「ポジティブリスト」「ネガティブリスト」にたとえるとわかりやすい。いずれも制度設計の方式に関する用語であり、違いは次の通りだ。

  • ポジティブリスト:許可されるものだけを列挙した表で、表にないものは全て禁止される。貿易領域では「自由品目リスト」がこれにあたる。
  • ネガティブリスト:禁止されるものだけを列挙した表で、表にないものは全て許可される。貿易領域では「制限品目リスト」がこれにあたる。

医療広告規制に関する法令では、ポジティブリストにあたる「広告可能(な)事項」とネガティブリストにあたる「禁止される広告」が併記されている。

ポイントは次の3点だ。

  • 広告可能な事項:広告してもよい内容が「広告可能な事項」として列挙されている。
  • 限定解除要件:医療機関のウェブサイトによる情報提供など、特定の要件(限定解除要件)を満たす場合は、「広告可能な事項」に含まれない内容でも広告可能である。
  • 禁止される広告:限定解除要件を満たすか否かによらず、「禁止される広告」に該当する内容を広告することはできない。

15の項目群から成るポジティブリスト「広告可能な事項」

昔の医療法では、「広告可能な事項」は一つ一つの事項を個別に列挙する方式で規定されていた。

しかし、2008年に行われた広告規制の見直しに伴い、この規定方式が変更された。

具体的には、一定の性質をもった項目群ごとに「○○に関する事項」というように包括的に規定する方式になり、広告可能な内容が大幅に拡大された

実際の条文を見ると、医療広告を行う場合に「次に掲げる事項以外の広告をしてはならない」として、15項目群の「広告可能な事項」が規定されている。

なお、法令やガイドラインで15項目群各々に対して細かい条件が設けられており、これらが全て広告可能というわけではない。たとえば、「医師又は歯科医師である旨」は広告可能事項に含まれているが、「外国における医師又は歯科医師である旨の広告はできない」という制限がある。

「限定解除要件」を満たす場合は、広告可能事項の限定を解除できる

広告可能事項は医療法第6条の5第3項で上述の通り限定されているが、同条文では「次に掲げる事項以外の広告がされても医療を受ける者による医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合として厚生労働省令で定める場合を除いては(次に掲げる事項以外の広告をしてはならない)」という例外規定が設けられている。

この規定は、2017年の医療法改正で医療機関のウェブサイトが広告規制対象となった際に追加されたものである。他の広告媒体と同様に広告可能事項を限定すると、詳細な診療内容など患者等が求める情報の円滑な提供が妨げられるおそれがあることから、「限定解除要件」と呼ばれる4条件をすべて満たす場合は広告可能事項の限定を解除できることとなっている。

【 限定解除要件 】

  1. 医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること
  2. 表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること
  3. 自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること
  4. 自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること

一般的なウェブサイト等であれば要件1を満たすことから、医療機関のウェブサイトによる情報提供は、この限定解除要件を満たすことによって広告可能である事例が多い。

8種類に分類されるネガティブリスト「禁止される広告」

広告が許可されている内容については前述の通りだが、医療法・医療法施行規則では「禁止される広告」も規定されている。限定解除要件を満たすかどうかに関わらず、「禁止される広告」に該当する内容の広告は許容されない

具体的に禁止の対象となる広告は、次の8種類である。

【 禁止される広告 】

  1. 内容が虚偽にわたる広告(虚偽広告)
  2. 他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告(比較優良広告)
  3. 誇大な広告(誇大広告)
  4. 公序良俗に反する内容の広告
  5. 広告が可能とされていない事項の広告*
  6. 患者等の主観に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談
  7. 治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等
  8. その他(品位を損ねる内容の広告等、医療広告としてふさわしくないもの)

*5の根拠は前述の「次に掲げる事項以外の広告がされても医療を受ける者による医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合として厚生労働省令で定める場合を除いては、次に掲げる事項以外の広告をしてはならない」という記載にあるため、限定解除要件を満たす場合、5に関しては考慮する必要がない。

なお、それぞれの具体的事例が「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書」に示されている。別記事で解説しているので、参照されたい。

どのような違反事例がよく見られるか?

厚生労働省が、2021年度に確認された違反事例(3,886件)を前述の8種類に分類し、「医療分野/違反種類別の違反数」として発表している。このデータによると「広告が可能とされていない事項の広告」が2,760件で全体の71.4%を占め、圧倒的に最多であった。

先ほど述べたように、医療機関のウェブサイトによる情報提供は、限定解除要件を満たすことによって広告可能である事例が多い。しかし、限定解除要件に関する理解・対応が不足していると、「広告が可能とされていない事項の広告」として広告規制違反になる場合があるため、十分な注意が必要である。

ポイント

  • 違反の管理体制
    • 広告規制違反は主に「ネットパトロール」により取り締まられており、違反が発覚したサイトに対する改善指導は高い効果を発揮している。
  • 医療広告規制の対象範囲
    • 医療広告は誘引性と特定性を併せ持つものと定義され、さまざまな媒体が広告規制の対象となる。
    • 2017年以降、ウェブサイトにおける情報提供についても規制の対象となった。
  • 医療広告として許可・禁止されている内容
    • 広告してもよい内容が「広告可能な事項」として列挙されており、15の項目群で構成されている。
    • 医療機関のウェブサイトによる情報提供など、特定の要件(限定解除要件)を満たす場合は、「広告可能な事項」に含まれない内容でも広告してよい。
    • 限定解除要件を満たすか否かによらず、「禁止される広告」に該当する内容を広告することはできず、その内容は大きく8種類に分類される。
    • 違反事例の中では「広告が可能とされていない事項の広告」が突出して多く、限定解除要件に関する理解・対応の重要性が示唆される。

次回記事では、「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第2版)」で紹介されている29の事例を簡単に紹介する。ぜひ併せてご覧いただきたい。

京都大学医学部5回生。医療情報のあり方に興味があり、初期研修後の進路では社会医学・行政・企業勤務・起業なども視野に入れる。現在はインターンでヘルステック領域を学びつつ、G検定・応用情報技術者試験合格など情報分野でも修行中。趣味は競技かるた、身近な人を手伝うツール開発、ブログ執筆。