2023年1月、厚生労働省は医療広告ガイドラインの理解促進を図り、「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書」第2版を公開した。
本記事では、ここで紹介された29の事例を簡単に紹介する。
なお、前回の記事では以下の内容について解説した。
- 医療広告規制違反の取り締まり体制・発覚後の流れ
- 医療広告規制の対象
- 医療広告として許可/禁止されている内容・限定解除要件
併せてご覧いただくことで、医療広告規制の概要を把握できるようになっている。
医療広告として許可・禁止されている内容
具体的事例の解説に入る前に、広告できる項目・できない項目について簡単に述べておく。詳細は前回記事を参照されたい。
ポイントは次の3点だ。
- 広告可能な事項:広告してもよい内容が「広告可能な事項」として列挙されており、「提供される医療の内容に関する事項」など、15の項目群から成る。
- 限定解除要件:医療機関のウェブサイトによる情報提供など、特定の要件(限定解除要件;後述)を満たす場合は、「広告可能な事項」に含まれない内容でも広告可能である。
- 禁止される広告:限定解除要件を満たすか否かによらず、「禁止される広告」に該当する内容を広告することはできない。誇大広告など、8種類に分類される。
本記事では、事例解説書に示されている具体的事例について、禁止の対象として定められている広告8種類に「限定解除要件に関する事例」「一般的なウェブサイト以外における事例」を加えた計10種類に分類し、それぞれ簡単に紹介する。
なお、今回の改訂で修正された / 新規追加された内容には★を付した。画像は事例解説書から引用している(一部改変)。
1. 内容が虚偽にわたる広告(虚偽広告)
治療内容・期間の虚偽
- 医学上あり得ない内容の表現
- 「どんなに難しい手術でも必ず成功させます」
- 「当院の治療はどのような症例でも絶対に安全です」
- 実態と異なり、全ての治療が短期間で終了するような表現
- (定期的な処置等が必要であるにもかかわらず)「1日で全ての治療が終了します」
調査結果の引用で、データの根拠を明確にしない
- 「患者満足度99%」「成功率は97.5%」などの形で数値のみを記載
2. 誇大な広告(誇大広告)
医療広告ガイドラインの遵守を過度に強調
- 文字の大きさや色等による過度な強調
- 制度として行政機関が認証を与えていると誤認させるような表現
提供される医療の内容等について、事実を不当に誇張
- 提供される医療サービスの回数
- 「全身脱毛3年間し放題」:一回脱毛をすると、次の脱毛をするサイクルになるまで一定期間を空ける必要がある。
科学的根拠が乏しい情報による受診・手術への誘導
- 特定の症状に関するリスク
- 「がんを発生させないためには、催眠療法を利用したストレスの明確化と軽減が必要です。是非当院にお越しください」
- 手術や処置等の有効性
- 「○○療法は免疫機能や細胞を活性化し、様々な効果を引き出します。1) 悪性腫瘍の治療:肺癌、大腸癌、子宮癌、皮膚癌等の治療に有効 2) ウイルス性疾患の治療:肝炎、HIV、インフルエンザウイルスを体内から除去」
施設について誤認させる広告(○○センター)
「○○センター」という名称が広告可能なのは次の場合に限られている。
- 法令の規定又は国の定める事業を実施する病院又は診療所であるものとして、救命救急センター、休日夜間急患センター、総合周産期母子医療センター等、一定の医療を担う医療機関である場合
- 当該医療機関が当該診療について、地域における中核的な機能や役割を担っていると都道府県等が認める場合
上記の場合以外については、誇大広告として取り扱われる。
- 医療機関の名称として
- 「△△インプラントセンター」
- 医療機関の名称と併記する形で
- 「○○歯科医院 △△インプラントセンター」
様々な治療方法が含まれ、そのいずれを提供するのかが不明確な診療科名
「審美歯科」のように「様々な治療の方法が含まれ、そのいずれの治療を提供するのかという点が明確ではない診療科名」を記載する場合、
- いずれの治療を提供するかを明確に記載する
- その治療内容の限定解除要件を満たす(後述)
の2点を満たさなければ、誇大広告として扱われる。
3. 他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告(比較優良広告)
★ 比較や最上級の表現
- 特定の医療機関と比較した表現
- 「 □□医院様 や △△クリニック様 よりも安く受診できます!」
- 不特定の医療機関と比較した表現
- 「県内でも有数の治療実績があります」
- 「○○市の他の医療機関と比較して、インプラント手術成功率が高いです」
- 最上級
- 「最高の医療を広く国民に提供しております」
- 「県内一の医師数を誇ります」
- 「美容外科手術において日本一の実績を有しています」
著名人との関係性を強調
- 芸能人や著名人が患者である旨
- 「サッカー選手の○○選手に患者第1号になっていただきました」
- 「モデルの○○さんが当院に来院されました」
4. 公序良俗に反する内容の広告
わいせつもしくは残虐な図画や映像、差別を助長する表現などが該当する。今回の事例解説書では取り扱いがなかった。
5. 広告が可能とされていない事項の広告
広告可能事項には細かい条件が設けられている場合がある。
例えば、広告可能事項の1つに「病院又は診療所の従業者の人員配置」があり、「人数や配置割合については、時期によって変動する数値であることから、いつの時点での数値であるのかを歴月単位で併記すること」と記載されている。
このような条件を満たしていないために広告可能ではないと判断される事例、すなわち「広告可能事項の記載が不適切な事例」についても本項で紹介する(このような事例は、限定解除要件を満たせば広告可能になる)。
医療従事者の専門性資格:必要事項の記載不足
医療従事者の専門性資格は基本的に広告可能であるが、「○○学会認定○○専門医」という形で団体名・資格名の両方を記載する必要があり、以下は不適切である。
- 「日本歯周病学会認定 専門医」
- 「口腔外科専門医」
自由診療の治療方法:必要事項の記載不足
医薬品医療機器等法で承認された医薬品・医療機器をその承認等の範囲で使用した自由診療については、
- 治療に公的医療保険が適用されない旨
- 標準的な費用
の2点を併記する場合に限って広告可能であり、以下は不適切である。
データの内訳が示されていない手術件数
医療広告ガイドライン上で「当該病院又は診療所で行われた手術の件数」は広告可能とされているが、いくつかの条件がある。
- 手術件数を広告する際には、当該手術件数に係る期間を暦月単位で併記する必要がある。
- 手術件数は総手術件数ではなく、それぞれの手術件数を示し、1 年ごとに集計したものを複数年にわたって示すことが望ましい。
- 過去 30 年分のような長期間の件数であって、現在提供されている医療の内容について誤認させるおそれがあるものについては、誇大広告に該当する可能性がある。
以上から、次のような記載は不適切である。
- 治療実績におけるトータル件数のみ記載
- 「当院では、○○手術と××手術の実績はのべ1,500件を超えています」
- 長期間の件数
- 「対象期間:1985年〜2018年 ○○手術:1,250件」
6. 患者等の主観に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談
代表例は上に示したようなものであるが、患者等が記載した体験談と同様に認められない例が他にも存在する。
★ 医療機関のスタッフによる記載
- 医療機関のスタッフ自身の体験談
- 「当院の院長である□□も実際に体験! "下腹部周りにいた脂肪がなくなり、うっすらと腹筋も浮かび上がっています。大満足です!"」
- 医療機関のスタッフが代筆した形で書かれた患者等の体験談
- 「先日実際に体験された患者様も、”こんなに理想の体型になれるとは思っていなかった。この医療機関で手術をしてよかった” とおっしゃり、満足して帰宅いただきました」
口コミサイトの体験談を引用
- 全ての口コミを転載
- 一部の口コミを抜粋:有利な口コミを抜粋して掲載した場合、誇大広告にも該当する。
★ 口コミサイトに掲載された体験談の編集依頼
医療機関の検索が可能なウェブサイトに掲載された体験談は、基本的には医療広告に該当しない。
しかし、医療機関が運営会社に依頼し、以下のような形で有利な編集を行っている場合、医療広告として扱われ、禁止される広告となる。
- 体験談の内容を改変する
- 否定的な体験談を削除する
- 肯定的な体験談を優先的に上部に表示する
7. 治療内容・効果に関する誤認を引き起こしうる治療前後の写真等
正式名称は「治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等」である。
ビフォーアフター写真の説明不足
ビフォーアフター写真・イラストを広告に使用する場合、
- 通常必要とされる治療内容・費用などに関する事項
- 治療期間・回数・リスク・副作用などに関する事項
などの詳細な情報をそれぞれに付すことが必要で、次の表現は不適切である。
- 写真のみ
- 説明内容が不十分
- 「インプラント治療により、審美面・機能面ともに回復しました。治療費は1,500,000円から」
- 複数の治療方法の写真をまとめて説明(下図左)
8. その他
提供される医療とは直接関係ない事項による誘引
- 物品を贈呈する旨等を記載している
- 「ガチャガチャをプレゼント!」
- 「出産祝いとして赤ちゃんグッズをプレゼント」
★ 費用を強調した広告
- キャンペーンや割引を強調した広告
- 「期間限定!夏のキャンペーン 通常価格 20,000円/1ヶ月 → 割引価格 15,000円」
- 会員特典としての費用の割引を強調した広告
- 「当院専用アプリからのご予約でさらにお安くなります!」
★ 医薬品の販売名
医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき、医薬品・医療機器の販売名は広告が禁止されており、一般的名称など、特定されない記載方法をとる必要がある。
9. 限定解除要件に関する事例
本来広告可能な事項は15項目群に限られているが、「限定解除要件」と呼ばれる次の4条件をすべて満たす場合、広告可能事項の限定を解除できる。
- 医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること
- 表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること
- 自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること
- 自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること
一般的なウェブサイト等であれば要件1を満たすことから、医療機関のウェブサイトによる情報提供は、この限定解除要件を満たすことによって広告可能である事例が多い。
一方、2-4の要件を満たさない事例も存在する。以下に説明を加える。
問い合わせ先を明示していない
広告可能事項ではない内容として、以下のようなものが挙げられる。これらを掲載する際には「電話:03-xxxx-xxxx Mail:xxxxxxxxxx@yyy.jp」のように問い合わせ先を明示する必要がある。
- 「専門外来」という表記
- 法令上の根拠のない診療科名
- 膠原病科、甲状腺科、糖尿病科、新生児科、認知症科、化学療法科など
- 厚生労働省が届出を受理していない専門性資格
- 医師個人が行った手術件数
- 自らの医療機関や勤務する医師がメディアに紹介された旨
自由診療に関する記載が不十分
自由診療に関して広告可能な事項以外を掲載する場合、限定解除要件である「提供している治療内容」「治療期間及び回数」「治療に必要な標準的な費用」「治療の主な副作用・リスク」を十分に記載する必要がある。以下、不十分な例を挙げる。
- 治療等の内容
- 「インプラント治療とは:インプラントは歯を失った人が行う治療で、最近では技術が進み、様々な治療方法がございます。当院では3種類の方法でインプラント治療を行っております。患者様と相談して治療方法を決めていきますので、まずはご来院ください!」
- 治療期間、回数、費用
- 「治療期間は患者様の状態により異なります」
- 「費用:150,000円~」(最低限の値ではなく標準的な値を示す必要がある)
- 小さな文字で「※別途麻酔料金が必要になります ※施術範囲により金額が異なる可能性があります」という不明瞭な記載
- 主なリスク、副作用など
- 「Q:インプラント治療にはどのようなリスクがありますか? A:手術中は麻酔が効いていますので、心配ありません。術後の痛みはありますが2~3日でひきます。それ以上に、ブリッジや入れ歯にはないメリットがあります」
- 長所に関する情報と比べ、極端に小さな文字で掲載している
未承認医薬品・目的外使用などにおける記載が不十分
「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」において、未承認医薬品や目的外使用による治療では以下の内容を明示する必要があると規定されている。
- 未承認医薬品等であること
- 入手経路等
- 国内の承認医薬品等の有無
- 諸外国における安全性等に係る情報
正しい記載事例を以下に示す。
10. 一般的なウェブサイト以外における事例
一般的なウェブサイト以外でも、1-8で取り扱った虚偽広告や比較優良広告などは当然禁止されている。
★ 特定の人のみが閲覧可能な広告における違反
会員限定ページなど、「当該医療機関に係る情報取得を希望した者のみ閲覧可能な状態」であったとしても、虚偽広告や比較優良広告などは禁止される。
★ バナー広告・リスティング広告における違反
医療機関のウェブサイトや会員限定ページ以外には、以下のような広告形式がある。
- バナー広告:大手メディアの保有する長方形の広告枠に掲載される、画像や動画を用いた広告。
- リスティング広告:Google・Yahoo!などの検索エンジンで、検索されたワードに連動して検索結果画面に表示されるテキスト広告。
これらの広告でも、当然ながら1-8で取り扱った虚偽広告や誇大広告などは禁止されている。
また、検索結果に応じて費用を支払い意図的に検索結果として上位に表示される状態にしたものなどは、限定解除要件①「医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること」を満たさないことから、広告可能事項以外の広告も禁じられている。