更年期障害とは
日本人の平均閉経年齢は約50歳だが、個人差が大きく、早い人では40歳台前半、遅い人では50歳台後半に閉経を迎える。閉経前の5年間と閉経後の5年間とを併せた10年間を「更年期」という。更年期に現れるさまざまな症状の中で他の病気に伴わないものを「更年期症状」といい、その中でも症状が重く日常生活に支障を来す状態を「更年期障害」という。
更年期の症状
①血管運動神経系の症状
ホットフラッシュ、動悸、発汗、むくみ
②運動器官系の症状
頭痛、肩こり、腰や背中の痛み、関節の痛み、しびれ、冷え、めまい、動悸
③精神神経系の症状
気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、情緒不安定、不眠
④泌尿器、生殖器の症状
月経異常、尿失禁、性交痛
一概に更年期障害と言っても個人差が大きく、症状も多彩である
更年期障害で医療機関を受診した人がどれくらいいるか
更年期症状が一つでもある回答者(女性:2,409人、男性:1,308人)を対象とした。 更年期症状を自覚し始めてから医療機関を受診するまでの期間を尋ねたところ、「すぐに受診した(1か月未満)」、「1か月程度してから」及び「3か月程度してから」を合わせた割合は、女性では、40歳代で9.1%、50歳代で11.6%、男性では、40歳代で9.2%、50歳代で6.1%であった。一方で、「受診していない」割合は、女性では、40歳代で81.7%、50歳代で78.9%であり、男性では、40歳代で86.6%、50歳代で86.5%であった。
引用:「更年期症状・障害に関する意識調査基本集計結果(2022年7月26日)」
実は女性よりも男性の方が更年期障害にかける費用が高い
更年期症状によって医療機関を受診したことのある回答者(女性:452人、男性:193人)を対象に調査によると、1か月当たりの診療費・医薬品費は、女性の40歳代、50歳代では、「千円未満」がそれぞれ41.6%、38.2%と最も割合が高かった。男性の40歳代では、「5千円~1万円未満」が41.7%で最も割合が高く、50歳代においては「千円未満」が41.3%で最も割合が高かったが、次いで高いのが「5千円~1万円未満」で26.1%となっている。以上からわかるように、実は女性より男性のほうが更年期障害のためかける診療費・医薬品費が高い。
(月額50万円を超える回答(14件)を外れ値として集計対象外としている )
引用:「更年期症状・障害に関する意識調査基本集計結果(2022年7月26日)」
なぜ更年期障害で受診しないのか?
更年期症状があっても医療機関を「受診していない」とした回答者(女性:1,949人、男性:1,109人)を対象に調査した。 症状があっても受診していない理由をみると、男女とも「医療機関に行くほどのことではないと思うから」が最も割合が高かった。その割合は40代女性69.4%、男性で62.1%となっている。次いで、女性では「我慢できるから」の割合が高く、男性では「特にない」の割合が高かった。
引用:「更年期症状・障害に関する意識調査基本集計結果(2022年7月26日)」
更年期障害に光をあてるMenotechとは何か?
メノテックとは、女性の更年期や閉経期を意味する「メノポーズ(Menopause)」と、「テクノロジー(Technology)」をかけあわせた造語。更年期を迎える45~55歳ごろの女性の体に生じる、さまざまな健康問題をテクノロジーによって解決する商品・サービスを指す。
今メノテックが注目される理由
フェムテックの主なターゲット層は40歳未満の女性である。ほとんどの製品は生理における辛い症状の軽減製品、妊娠中の不安を緩和するもの、およびセルフプレジャートイであり、更年期を迎える女性向けのサービスや製品はほとんどないのが現状だ。
40代~50代ごろは、月経周期がなくなりつつある時期であり、性ホルモンの分泌量が低下することから、更年期障害に苦しむ人も多い。2025年までに、世界中で11億人の女性が更年期を迎えると推定されている。
これは、キャリアの最盛期にある女性に肉体的および精神的な苦痛をもたらすだけでなく、人口の半分を占める女性の社会的および経済的参加の機会の損失から、国のあり方にも影響を与える可能性がある。
メノテックに関するサービスの対象者が多いのも理由の一つであるが、更年期障害の問題を解決することは経済状況の改善にも繋がるからというのも今メノテックが注目されている理由の一つである。
海外と比べて国内の更年期障害向けサービスはまだまだ少ない
国内ソリューションは症状改善のつながるソリューションが少ない
日本における更年期障害向けのソリューション
ソリューション名 | サービス内容 | ターゲット層 |
---|---|---|
更年期に特化したオンライン相談サービス | 更年期世代の男女 | |
更年期アプリ・掲示板 | 更年期世代の男女 | |
更年期障害オンラインカウンセリング | 更年期世代の男女 | |
思春期から更年期まで幅広い女性の健康支援を目的に富士製薬工業が運営する完全無料アプリ。現役の産婦人科医が監修。 | 女性全般 |
海外製品にはデバイス・食品・ヘルスケア用品などバリュエーションが多い
海外でのソリューションを以下の分類方法で紹介していく
①機器
②食品
③へルスケア用品
④コミュニケーションサービス海外でのソリューションを以下の分類方法で紹介していく
①機器
■Grace(Astinno社)
■Embr Labs
更年期障害に苦しむ人にとって、寝汗や体のほてり、のぼせ(ホットフラッシュ)はつきもの。腕にヒンヤリとしたバンドをつけて、脳に信号を送ることで、症状を落ち着かせるデバイス
②食品
■Madame Ovary
■Womaness
ちょうど閉経を迎える女性のためのサプリメント。気分の変化や、ほてり、ストレスが原因の倦怠感がある女性が栄養をとることで、甲状腺の健康が保たれ、更年期の移行をスムーズにすることを目指している。
③へルスケア用品
■Attn:Grace
年齢を重ねて女性ホルモンであるエストロゲンが減ると、 膀胱や膣を活性化させる働きも減っていく。更年期の女性のためのブランドAttn:Graceは、植物ベースの通気性のある素材でできたパッドを販売している。
■Imvexxy
エストロゲンの低下により、VVA(=Vulvovaginal Atrophy/外陰膣萎縮)を防ぐためのソフトジェル。膣の乾燥や、不快なかゆみ、性交時の痛みを改善する。
④コミュニケーションサービス
■Gennev
更年期のさまざまな症状が出ている人が一人で苦しまないように、オンライン上で医師の診察を受けられるサービス。ホルモン療法やサプリなど、その人にあった治療法が処方される。
■Caria
アメリカのスマホ用アプリ「Caria」は、更年期に起こる体のトラブルに対し、専門家に相談できるサービス。自分の健康状態を継続的にアプリに記録しておくことで、その人にあったアドバイスが受けられる。また、同じような症状を経験した女性同士のコミュニティ機能もある。
なぜフェムテック×更年期障害が進まないのか
2020 年の調査によると、更年期障害を自覚している女性の93% が、テクノロジーによるアプローチすることに関心を持っている。しかし、現在目立ったソリューションは存在しない。これは、更年期障害に対する認識が低いことが理由である。
更年期障害はいまだにタブー視されており、多くのことが知られていない。特にアジアでは多くの女性が更年期障害に苦しんでいるにもかかわらず、声を上げられていない。
また、更年期に関する研究の重要性が、研究者や起業家に認知されていないので研究や開発が進まず、世間の知識不足にもつながっている。
更年期にはさまざまな症状や体調の変化が伴うにもかかわらず、知識不足によりそれが更年期によるものだと気づかず、適切なケアを受けられない人も少なくない。
まだまだ国内市場にはホワイトスペースが多い
以上のように日本における更年期障害向けのサービスは、オンライン相談やカウンセリング、更年期障害で悩む人同士の掲示板や、生理や妊娠から派生しているアプリなどが多い。海外と比較してみると、更年期障害に対する専用の機器やヘルスケア用品が少ないのが現実である。 そのため、これからの介入方法としては海外のソリューションのような、更年期障害の症状にピンポイントで対応できる機器の開発やヘルスケア用品等が考えられる。
2021年11月に日本で初めて、更年期障害のホルモン補充療法に使用する天然型黄体ホルモン(プロゲステロン:エフメノ®)が発売された。それに併せて実際に診察をし、ホルモン剤やサプリを処方するようなオンラインサービスも展開していくのも良いだろう。オンラインでのカウンセリングサービスはあるものの、相談だけでは症状の根本的な解決にはならない。加えて、まだ日本では更年期障害のためにわざわざ医療機関に自分の足で出向いて診察を受けるという意識は低い。そんな中、携帯のアプリなどで気軽に家や職場から医師に相談でき、薬を処方してもらえるサービスがあったら便利である。現在、一般内科のオンライン診療は増えてきているが、更年期障害に特化したそのようなサービスはまだないのでその切り口からアプローチをしてみてもよい。
更年期障害は我慢する必要はなく、民間サービスや医療機関を頼っていいという認識が必要
メノテック領域の市場に伸びしろがあることは間違いない。しかし、現在の認識のままでは更年期障害のために医療機関を受診したり、サービスを利用する人は少ないだろう。更年期については長い間研究が不十分であり、専門家の情報へのアクセスが制限されていたこともあり、多くの女性がホルモン変化の副作用に自分で対処しなければならなかった。
その結果、更年期についての会話は曖昧になり、一部の情報が誤って伝えられるようになっている。そのため女性自身も更年期障害であるという認識がなく、専門家に助けを求める必要がないと感じてしまう場合がある。
イギリスでは一人の女性が声をあげたことをきっかけに、2021年10月、更年期に関する対策本部を設置し、治療費の補助や企業に対策を働きかけていくことが決まった。自分自身が更年期を自覚してから知るのではなく事前に備えておくべきだ、という認識からイギリスでは今、中学校で更年期症状を教えることが義務化された。すでに授業も始まっている。
まず更年期障害は我慢する必要はなく声をあげて、頼っていいものだという意識改革が重要だ。そのためには、民間サービスだけではなくイギリスのように国をあげての取り組みをする必要がある。
まとめ
2025 年までに、世界中で約 11 億人の女性が更年期を迎える。企業には6000億ドル(65.4兆円)のビジネスチャンスが生まれることになる。日本のみならず、世界的にも成長が見込める市場なのは間違いない。
更年期症状によって仕事に何らかのマイナスの影響がある状態を「更年期ロス」というのだが、更年期ロスによる経済損失は、女性で年間およそ4200億円、男性で年間およそ2100億円と、合わせて6300億円に上ることが調査結果から分かった。日本においても女性の社会進出が進んできており、更年期障害の対策をすることは国にとって経済利益が大きい。
また、調査の結果からわかるように更年期障害で悩む男性が多い上に、更年期障害の対策にかけている費用が女性より多い。そのため、これから更年期障害に関するソリューションの需要が更に増していくことは間違いない。
しかし、民間企業はもちろん、国をあげて取り組んでいるところもまだまだ少ないのが現状である。だからこそ、これからのメノテック領域市場の可能性は無限大である。
参考文献
更年期症状・障害に関する意識調査:https://www.mhlw.go.jp/content/000969166.pdf
アステラスが更年期障害向け治療薬を販売予定:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2974O0Z20C22A7000000/?unlock=1
Menopausal Symptoms: There's a Place for Tech-Related Solutions:https://www.aarp.org/research/topics/health/info-2020/menopause-symptoms-technology-related-solutions.html