HL7とは何か?:V2,V3,CDAを経て新規格FHIRに至るまで

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HL7とは何か?:V2,V3,CDAを経て新規格FHIRに至るまで

HL7とは、30年以上更新され続けている医療情報交換の国際標準規格だ。HL7 V2, V3, CDAを経て開発された最新バージョンは、Webを介した医療情報のやり取りを実現する「HL7 FHIR」。2022年3月には厚労省が進める電子カルテ標準化の標準規格として採用され、令和4年度の診療報酬改定にも登場したことで一躍話題となった。

この記事では、FHIRが登場するまでにHL7がどのような変遷を辿ってきたかを解説する。

なお、HL7 FHIRの特長に関しては別記事で解説する。

HL7標準とは何か?

HL7標準とは、医療情報交換のための国際的標準規約である

HL7は30年以上にわたって、HL7協会 (HL7 International) という団体によりバージョンアップされ続けてきた。この非営利団体は1987年にアメリカで設立され、医療情報標準規格の作成・普及推進を目的として、HL7の更新を続けている。同団体のホームページによると、HL7は次のように定義されている。

医療情報交換のための標準規約で、患者管理、オーダ、照会、財務、検査報告、マスタファイル、情報管理、予約、患者紹介、患者ケア、ラボラトリオートメーション、アプリケーション管理、人事管理などの情報交換を取り扱います。」

要するに、HL7はあらゆる医療情報のやり取りを実現するために開発・更新され続けている国際的な標準規約である。

HL7 は Health Level 7 の略で、OSI参照モデルの第7層が由来

そもそもHL7とはHealth Level Sevenの略だ。「レベル7」という語はOSI参照モデルで第7層にあたる「アプリケーション層」に由来する。

OSI参照モデルとは、ネットワーク通信の機能をデータが伝送される流れに沿って7層に整理・分類したモデルである。このモデルは異なるメーカーのコンピューターが互いに連携して通信できる状態を目指す際に使われ、各層について必要な作業を明らかにすることでタスクの洗い出しを行う。HL7はこのうち受信者・送信者に最も近い第7層(アプリケーション層:アプリケーション・ソフトウェアなど)に関する規格であるため、Health Level Sevenという名がつけられた。

HL7 は、部門システム間でのデータ共有を実現するために開発された

HL7は、部門システム間でデータを共有できないという課題を解決するために誕生した。

1980年代のアメリカの病院では、コンピューターが次第に設置され、部門システムが使われるようになっていた。部門システムとは、医事会計・薬剤部・臨床検査室など特定の病院部門に特化したシステムだ。

なぜ、病院全体をカバーするシステムではなく部門システムが使われるようになったのか?

これは、部門システムでニーズが十分満たされていたからではない。当時から「検査部からナースステーションに検査オーダー・検査結果を送る」「新たな患者が入院した際に、全ての部門で基本情報やカルテ番号などを共有する」などのニーズは存在し、部門間でデータを共有できる方が便利だと考えられていた

それでも部門システムの方が主流だった理由は次の2点だ。

・当時病院に置かれていたコンピューターは、処理能力やデータ保存などの面で大型システムの導入が難しかった。
・より完全で統合化された総合病院情報システムは当時少なく高額であり、そのシステムですら統合化は不十分だった。

このような背景から、当時の病院では各部門が自らのニーズに最適と思われるシステムを異なるベンダーから調達しており、部門間で異なるデータ形式が使用されていた。LAN(ローカルエリアネットワーク)もまだ登場していなかったため、部門システム間でのデータ共有は困難だった

この問題を解決するために、HL7メッセージング規格が開発された。

HL7はどのように変化してきたのだろうか?

上述の通りHL7の歴史は30年を超え、HL7 FHIRはその最新版にあたる。HL7 FHIRが生まれるまでに、どのようなバージョンアップが行われてきたのだろうか?また、厚生労働省がHL7 FHIRを採用するまでの間、国内におけるHL7の立ち位置はどのように変化してきたのだろうか?次の表に、国際標準規格・国内標準規格の変遷を示した。

変化を簡潔にまとめると、次の2点に集約できる。

・HL7:V2→V3→CDAと変化を遂げ、2010年代からはFHIRが普及し始めた
・日本国内:HL7とSS-MIX (SS-MIX2) の2種類の規格が併用されてきた。

この記事では、前者について詳しく説明することで、HL7 FHIRが開発された経緯や今までのバージョンとの違いを明らかにする。

注.
後者について簡潔に説明すると、SS-MIX (SS-MIX2) と HL7 FHIR は支え合う関係にあり、どちらか一方だけが採用されるといった関係にはない。というのも、SS-MIX2の対象範囲はシステムに格納する方法、HL7 FHIRの対象範囲はシステム間で情報をやりとりする方法であり、それぞれ別のものを規定しているためである。詳細は別記事で扱う予定だ。

HL7 V2:テキストメッセージのやり取りのための規格

HL7 V2は、テキストメッセージを交換するために作られた規格であった。これは縦棒(|)で項目を区切って表示する形式であり、一目見ただけでは内容を掴むことは難しい、やや複雑なデータ形式となっていた。対象分野ごとのバラつきなども問題視され、異なる表記形式の開発が望まれていた。

サンプルメッセージ

OBX||NM|789-8^ERYTHROCYTES COUNT  (AUTOMATED) ^LN||4.94|10*12/mm3|4.30-5.90||||F|||199812292128||CA20837

▲ 検体検査結果を表示している例。シンプルながら暗号めいている。

HL7 V3:vertical bar style ( | 区切り) からXMLへ

HL7 V3は、メッセージに限らないより多くの情報を扱える規格として登場した。大きな特徴として、Entity, Role, Participation, Actという4つの側面から治療行為を捉える「参照情報モデル(RMI)」の採用により、さまざまな規格にわたる一貫性を提供したことが挙げられる(詳細は省く)。

表現形式としてはXMLが採用され、人にとって読みやすく、ブラウザにも表示できる形になった。その一方で、コード量の増加によって冗長さが生まれ格納できる情報自体も増えたために、実用性が低下した点は否めなかった。

サンプルメッセージ

<observationEvent>
  <id root="2.16.840.1.113883. 19.1122.4" (中略)/>
  <code code="1554-5" (中略) displayName="GLUCOSE^POST 12H CFST:MCNC:PT:SER/PLAS:QN"/>
  <statusCode code="completed"/>
  <effectiveTime value="200202150730"/>(中略)
  <value xsi:type="PQ" value="182" unit="mg/dL"/>
  <interpretationCode code="H"/>
  <referenceRange>
    <interpretationRange>
      <value xsi:type="IVL_PQ">
        <low value="70" unit="mg/dL"/>
        <high value="105" unit="mg/dL"/>
      </value>(後略)

▲ 臨床検査結果を表示している例。読みやすくはあるが、やや冗長である。

HL7 CDA:テキストメッセージにとどまらず、診療記録文書のやり取りへ

上のような課題はあったものの、HL7 V3を継承する形でHL7 CDAが開発された。CDAは「診療記録文書構造 (Clinical Document Architecture)」の略であり、この名に表れている通り診療記録文書のデータをやりとりするために作られた規格である。

HL7 V3から更新された内容には、次のようなものがある。

患者情報、作成者、法的認証者などの情報を付与するためのヘッダ部分が新たに加えられた。
・CDA本文に、構造化されたXML文だけでなく、PDFやJPEGなどの非XML文も組み込めるようになった。

これらのアップデートにより、診療記録文書に求められる6つの性質(永続性, 維持管理, 真正性, 文脈, 完全性, 見読性)を保ったままのやり取りが可能になった。

このような特徴を備えたHL7 CDAはさまざまな場面で使われ、HL7 CDAを応用したサービスの開発に必要となる時間も以前より短縮された。

HL7 FHIR:環境の変化を受けて、新しい標準規格が誕生

上述の通りHL7 CDAは一定の成果を挙げたものの、その後医療情報共有に関する環境には大きな変化が起こってきた。

こういった背景から誕生したのが、新しい医療情報標準「HL7 FHIR」である。

HL7 FHIRとは、Web通信を前提としさまざまなメリットを有する、HL7 Internationalによって新たに開発された医療情報交換の標準規格だ。Fast, Healthcare, Interoperability, Resourcesの4単語から名付けられており、中でも実装の速さと簡単さ(Fast)が最大の特徴と言える。

京都大学医学部6回生。医療情報のあり方に興味があり、初期研修後の進路では社会医学・行政・企業勤務・起業なども視野に入れる。現在はインターンでヘルステック領域を学びつつ、G検定・応用情報技術者試験合格など情報分野でも修行中。趣味は競技かるた、身近な人を手伝うツール開発、ブログ執筆。