皆さんは、インフォコムという会社をご存知でしょうか?そして、そのインフォコム社は多くのヘルスケア事業を手がけられているのもご存知でしょうか?
インフォコム社は、1983年に日商岩井㈱の子会社として日商岩井コンピュータシステムズ㈱という社名で創設されました。当時は親会社のSIer部門のような立ち位置だったようです。そこから2000年に現在のインフォコムという社名に変更したあと、2001年に帝人㈱の子会社㈱帝人システムテクノロジーと合併。現在は、帝人グループのIT戦略部門という位置付けとなっています。
売上構成は全体324億円のうち、電子コミックなどを中心にしたネットビジネスが213億、ヘルスケア向け事業も含むITビジネス部門が100億円となっています。(FY21ベース。決算資料より。)
今回は、実は多くのヘルスケア事業を抱え、積極的に海外展開や事業展開を行っていっているインフォコム社にスポットを当て、どういった事業を行っているのか?どんな展開を見据えているのか?などを見ていこうと思います。
インフォコムが展開するヘルスケアビジネスの領域
決算資料より
インフォコム社はヘルスケア産業全体をカバーしていくような事業展開をおこなっています。
最初は病院向けのシステムインフラ構築から参入した領域のはずですが、2001年に帝人社の子会社と合併したり、2015年にソラスト社との業務・資本提携を行っていく中で、在宅領域及び、地域包括ケア領域への展開も進めていっています。
そうしたヘルスケア領域の事業基盤がある中で、近年は健康経営領域向けの事業展開や医師の働き方改革に合わせた就業管理ツールの開発、また海外展開の強化などを進めてきました。
インフォコム社のビジネス領域の展開の順序は、マーケットの加熱の変遷と同様に、病院向けツール -> 製薬向けツール -> 介護向けツール -> 健康経営というような形で、盛り上がってきている市場に抜かりなくプロダクトを投入していっている印象を受けます。まさにヘルスケアITの総合商社と呼べるようなプロダクト及び展開領域の広さを見せています。
インフォコムが展開する事業群
医療機関向けシステム群
インフォコムが展開するサービス群の中では、一番歴史がある領域で、ITソリューション領域の売上のおよそ100億円のうちの大半がこの領域から生まれている可能性があります。
サービス名 | 対象領域 | 内容 |
---|---|---|
iRadシリーズ | 放射線・医用画像 | 放射線技師の日常業務をサポート。 |
Mediシリーズ等 | 診療情報管理 | 診療情報管理の日常業務をサポート。 |
DICS, PICSweb等 | 薬剤情報管理 | 医療機関の薬剤部における、医薬品マスタの管理や医薬品情報の検索システム、また院内の処方や薬剤管理指導に関する業務をサポート。 |
CWSシリーズ, ORCHID等 | 手術・看護 | 医療機関内の職員、特に看護師向けの職員管理・勤怠管理ツールなどを提供 |
介護領域向けサービス群
サービス名 | 領域 | 内容 |
---|---|---|
介護まるごとIT! | 介護事業のIT化支援 | ソラスト社と共同で、パッケージサービスの導入として展開 |
見守り支援サービス「MIMAMOA: ミマモア」 | 介護対象者のベッド単位での見守り管理 | 介護現場の見回り業務をIoTで支援するサービス |
ケアスタイル | 介護求人サービス | 求職者と企業の担当者が直接やりとりできるメッセージ機能を搭載した、求人票にない情報(職場の雰囲気、働き方など)を確認できる介護職向け転職サイト |
CWS for Care | 介護事業者向けのクラウド型勤怠管理ツール | 施設で働く職員のシフト作成から行政へ提出する書類の出力までを一貫して行うことができるクラウド型サービス |
健康管理領域のサービス
サービス名 | 領域 | 内容 |
---|---|---|
WELSA | 健康経営領域の企業向け管理ツール | 健康診断とストレスチェックの結果を可視化し、従業員の健康課題の把握と予測が可能。その上で健康課題解決のための施策の実施までをサポートする。 |
Beatfit(業務提携, 外部サービス) | フィットネス | フィットネスアプリを連携 |
すごろく大冒犬(業務提携, 外部サービス) | 健康支援ゲーム | 健康支援ゲーム |
取り組みを強めている領域はどこか?
ここからは2022年3月期 第2四半期決算説明会より、現在インフォコム社が取り組みを行っている事業領域にフォーカスを当てていきます。
インフォコム社は元々病院向けのPACS(医療画像を扱うシステム)を中心に、病院向けシステムインフラが得意な企業です。
しかし一方でこれらの領域がこれ以上大きな広がりを見せることは期待しにくいため、他のヘルスケア領域への展開を進めていっているものと考えられます。そしてその新規参入領域が現状だと、健康経営領域、医師の働き方改革領域、製薬企業のMR向け市場となっています。
2022年3月期 第2四半期決算説明会より
医師の働き方改革向けのソリューション(就業完了: CWS)
医療機関向けITツールの中で、市場でも最もホットなキーワードの1つが医師の働き方改革または、タスクシフティングと呼ばれる領域です。
医師を中心にした医療機関内の職員の勤怠管理や業務効率化を進めることで、医師の業務負荷を減らす取り組みが国全体で求められているため、インフォコム社が元々持っていたCWSツール群を使って新しい見せ方でツールの展開を進めているものと考えられます。
MR向けのオンライン営業支援: DigiPro
製薬企業は医師向けに医薬品等の説明を行う際、2018年から「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」というものに準拠する必要が出てきました。
DigiProはこうした文脈に沿った形で、コロナ禍のリモートワークの推進と併せて、MRが直接医師を訪問するのではなく、メールやテレビ会議を通じてコミュニケーションを行い、かつ企業としてはそのMRの営業活動の管理を行えるようなツールとして展開しています。
健康経営領域: フィットネス & ワクチン接種管理
元々、健康経営領域での市場は少しずつ広がっているため、企業向けにストレスチェックと健康診断結果を従業員単位で管理できるようにするツールを展開していました。
コロナ禍に入り、従業員の健康管理、特に発熱報告などのコロナ症状が出ていないかの管理は特定の事業者では強く求められることもあり、こうした事業展開を進めているものと考えられます。
アジア展開: Docquity社と業務提携
インフォコム社は、2021年5月25日に東南アジア向けに医師向けSNSプラットフォームサービスを展開するDocquity社との業務提携を発表しています。
また、併せてインフォコム社が持つ薬剤情報検索ツールの東南アジア展開も発表しており、Docquityユーザーの医師に同サービス内で薬剤情報システムを利用できるよう連携・機能強化を進めています。
Docquity(ドクイティ)社概要
所在地 | シンガポール(本社)、インド(技術拠点) |
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代表 | Indranil Roychowdhury |
設立 | 2017年2月(2013年創業) |
事業内容 | 医療従事者専用SNSプラットフォーム運営事業 |
URL |
シミ出しと飛び地の展開の手法の使い分け
インフォコム社の事業展開の方法を見ると、既存事業からのシミだしでいける領域への自社プロダクト展開と、飛地への参入は他者との業務提携という形でうまく使い分けを行いながら事業と市場の拡張を行っているように見えます。
病院向け市場以外への展開は、介護領域であればソラストとの業務・資本提携での展開、toC向けの領域であれば自社サービスの展開をしつつもBeatFit社との業務提携、アジアへの展開についてもDocquity社とのて形といった具合にです。
インフォコム社の今後の事業展開についての予測
最後に、ここまでインフォコム社が展開するヘルスケアビジネスを見た上で、今後どのような展開が考えられるのか?について筆者の私見をまとめて終わりにしたいと思います。
まず、新規で展開されている事業領域のうち健康経営領域以外の領域は業界の長期トレンドに乗った事業展開であると考えられます。そのため、介護向け領域、MR向け領域、医師の働き方改革領域の3領域については継続した発展を見せるのではないかと考えています。
一方で、健康経営領域のニーズについては、①そもそも健康経営に関する企業側の管理ニーズはそこまで市場は大きくない。②コロナ禍で生まれたニーズは一過性のものであり1, 2年で薄れてしまうのではないかと考えています。
また、アジア展開の足がかりであるDocquity社との業務提携ですが、どれほどDocquityのサービス内に深く機能連携がされるのかの程度によってその成功の成否は大きく変わるのではないかと考えられます。今回のケースであれば海外企業とのサービス連携であるためチャレンジングで大きな可能性は秘めているものの、成功可能性はそこまで大きくないのではと見ています。
以上、インフォコム社が展開するヘルスケアビジネスに関するリサーチ記事でした。