保険会社の取り組むヘルスケアサービスにはどんなものがあるか?
2022年9月2日、住友生命保険相互会社は二つの新付帯サービス導入を発表した。一つは保険者の生活習慣改善のための支援プログラムで、PREVENTが提供している「Mystar」である。二つ目は、ZINEの提供するオンラインがん相談サービスで、がん治療や副作用、仕事との両立について相談できる。
上記は生活習慣改善、がんオンライン相談のサービスであるが、保険会社は他にも健康相談サービス、重症化予防、医療データ解析等のサービスを複数展開している。その背景として、出来るだけ保険者のニーズに答え、自社の保険を選択してもらいたいということがある。
本稿で保険会社の代表的な取り組みの概要や具体的な事例をとりあげることで、保険会社の取り組みの外観を把握してもらいたいと思う。
健康相談サービス
健康相談サービスはどんなサービスで、その導入背景は?
健康相談サービスとはオンラインや電話を通して、医師、保健師、看護師、栄養士等の人々が健康相談を実施するものである。サービスによっては24時間365日いつでも対応できる。具体的には、医療機関の診察時間外で見てもらいたい時、不意の怪我の応急手当の方法知りたい時、精神的な問題を抱えている時、子育て相談、医療機関の紹介をしてもらうなど様々な内容を相談できる。
導入背景としては、医療機関がしまっている時間帯に利用したいことや気軽に相談したいというニーズのもと導入され、最近では新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からも健康相談サービスを利用する人も増えている。
保険会社の健康相談サービス導入モデル
保険会社の健康相談サービスは第三者が行っていることがほとんどである。つまり、保険会社は自社ではなく、健康相談サービス会社に委託し、自社の保険者はそのサービスを受けることができる。具体的な企業名としてはティーペック、保健同人社、法研等が代表的な健康相談サービスプレイヤーである。
健康相談サービスに取り組む事例
アクサダイレクト生命「メディカルコールサポート24」
アクサダイレクト生命の健康相談サービスはティーペック株式会社によって提供されている。
提供サービス
・24時間電話健康相談サービス
一般的な健康相談サービスで健康相談、医療相談、育児相談、医療機関情報提供などを24時間365日利用することができる。
・メディカルコンサルテーション
名医と相談し、セカンドオピニオンを聞いたり、病名や症状に合わせて、専門臨床医を紹介するサービスである。
これらのサービスは基本的には保険加入者がフリーダイヤルで窓口に電話をし、その後次のステップとして専門家に電話がつながると言った手順で進む。
第一生命「メディカルサポートサービス」
第一生命の健康相談サービスは保健同人社によって提供されている。アクサダイレクト生命と同じく健康相談や医療相談が可能であるが、違いとしては介護保険制度や介護施設の相談もできるこということである。
また第一生命の場合アプリを利用することで、証券番号なしで電話することができることが特徴である。その点アクサダイレクトではフリーダイヤルでの電話連絡で、証券・証書番号を伝える必要があったため少し不便である。
重症化予防
どのような取り組みか、主な対象疾患は何か?
生活習慣病を中心にした慢性疾患の症状をコントロールし、重症化の予防や発症予防を行うことを指す。重症化予防の方法としては主に二つの対応策がある。
1.重症化予防支援保険金の支払い
ある所定の疾患の治療を受ける/ある所定の状態になった時に、ある一定の給付金を受け取ることができる。給付金を配布し、医療機関を利用してもらうことでさらなる疾患の重症化を防ぎ、医療費高騰を防ぐ。
2.個別の疾患管理プログラムの利用
ある一定の期間、アプリやデバイスを通して日々の健康状態を記録し、定期的に医療スタッフと電話相談を実施することで、疾患管理をするプログラム。一定期間健康的な生活を送るように管理することで、生活習慣を改善し、疾患の重症化を防ぐ。
対象疾患としては糖尿病、高血圧をはじめとして、他にも心疾患、脳血管、肝疾患などがあり、これらの疾患の重症化によりさらなる医療費の高騰を防ぐことが導入の背景となっている。
なぜ現在トレンドになっているか?
生活習慣病にかかる患者は年々増えており、保険会社や個人としても重症化予防に対して関心が強くなっていることが挙げられる。他にも近年、デジタルヘルスの進行によってスマホアプリで個人のデータを容易に記録することが可能で、また蓄積された医療データを解析することで、利活用する機会・プレイヤーが増えていることもトレンド化が進む背景となっている。
重症化予防サービスに取り組む事例
SOMPOひまわり生命「健康をサポートする医療保険 健康のお守り」
SOMPOひまわり生命は糖尿病、高血圧症、脂質異常症等の生活習慣病の重症化予防策として「健康をサポートする医療保険 健康のお守り」を提供している。重症化予防のために主に二つのサービスを提供している。
1.生活習慣病が軽度の段階での健康回復支援給付
生活習慣病での投薬治療で健康回復支援給付金を請求
2.疾患管理・電話相談サービス
個人の疾患管理、指導として二つ提供している
・生活習慣病相談窓口
医療専門職との電話相談で、生活習慣病予防のための食事の相談、生活習慣改善の相談が可能
・生活習慣病重症化予防プログラムShip
PREVENT社が提供する生活習慣病予防・重症化予防のための約2ヶ月間の生活習慣改善のプログラム。専用アプリに生活習慣を記録し、記録を元に医療専門職による電話とアプリのチャットで利用者にあった生活習慣の改善を提案。
がん治療サポート
どのような取り組みをしているか?
保険会社は加入者に対して給付金を支払うことで、がん医療の自己負担額を抑える取り組みを行なっている。国立研究開発法人国立がん研究センターによると、日本人で一生のうちがんと診断される確率は男性で約65%、女性で約50%である。また、日本人がんで死亡する確率は男性で約30%、女性で約20%である。
日本でがんに発症する人は多く、がんになってしまうと、長期入院やがん治療、また場合によっては先進医療を受ける必要があり莫大な医療費を必要とする。そのため、保険加入者としてもがん治療サポートの充実度は一つのポイントとなっている。がん治療サポートは莫大な負担費用を削減する上で重要である。
がん治療サポートに取り組む事例
アフラック生命
アフラック生命はがん治療サポートに特化したプランがあり、がん保険においてはトッププレイヤーである。その背景として、がんに特化した幅広く手厚い保険が挙げられる。アフラック生命が提供するがん治療サポート(給付金)は以下のようである。
治療前: 精密検査
治療中: 診断、入院、通院、治療、先進医療、外見ケア(手術後)
アフラック生命の加入者は、がんのオンライン相談を受けることもできる。オンライン相談は用途に応じて法研、保健同人社、Hatch Healthcareによって提供されていたが、2023年1月23日からはHatch Healthcare社のがん相談サポートだけに絞って提供する予定だ。保険加入者はオンライン相談で治療サポート、経済不安の解消サポート、情報サポート、生活サポート、精神サポートのサービスを案内する。
医療データ解析
医療データ解析が進む背景
2013年以降、厚生労働省はデータヘルス計画を推進している。データヘルス計画とは医療費削減施策であり、健康保険組合に対してレセプトなどの医療データの活用を促し、健康増進・重症化要望施策などを実施することで、医療費の削減に対してどのように取り組むのかの計画と振り返りを求める枠組みである。
データヘルス計画を進める上で、医療データ解析のニーズが高まっており、近年この領域での取り組みが活発になっている。特に重症化を防ぐためのハイリスクアプローチに取り組む企業が増えており、背景として医療費削減により効率的に取り組めることがある。
データはどのように利活用されるのか?
保険会社は加入者の健康診断のデータ、入院データ、疾患データ等を蓄積し、それをモデル化することで将来の疾患予測、医療費の予測をすることが可能である。これにより保険会社は医療費を削減することができる。また近年では、重症化を防ぐためにアプリで日常のログをとり、膨大に蓄積したデータをもとに生活習慣にリスクがあるときには警告するサービスも散見される。
医療データ解析に取り組む事例
第一生命、入院リスク予測モデルの開発
第一生命は日立製作所と共同研究を実施し、医療ビッグデータの利活用によって入院リスク予測を実現した。日立は、健康保険組合に対する保健事業支援を通じて健診やレセプトデータの分析ノウハウを有しており、このノウハウを基に、第一生命と共同で生命保険会社向けリスク分析技術の確立に成功した。
第一生命は過去の加入者の保険加入時の健康状態と保険給付実績をもとに入院リスクや入院日数予測をモデル化した。具体的には膨大なデータから加入者のBMI、年齢、持病などから特定の疾患の重要リスク因子を抽出し、それをモデル化することで予測するというものだ。これにより保険会社は入院リスクや日数の予測が可能となり、保険費の設定やシミュレーションが可能となった。
そのほかの取り組み
以下はメジャーではないが保険会社によって実施している付帯サービスである
障害年金相談
スミセイ障害年金サポートサービスは障害年金全般に関する悩みや相談に専門スタッフが対応してくれ、受給方法などを知ることができる。またその他にも、就業支援や地域コミュニティー等のNPO法人、生活支援サービス業者等の情報も提供している。
郵送検査優待
日本生命では郵送検査(おうちでドック)を優待価格で購入できる。おうちでドックは自宅で数滴の血液を採取して、がんや生活習慣病のリスクを調べることができる郵送型検査キットで、検査結果の後に電話で医師から説明を受けることもできる。
転院、患者移送の手配代行
東京海上日動あんしん生命ではメディカルアシストをサービスとして提供しており、救急専門医と看護師が、健康のサポートをするサービスである。健康相談以外にも転院や患者移送の手配代行などに対応している。
まとめ:保険会社の取り組むヘルスケアサービスとは何か?
以上保険会社の取り組みについて取り扱ってきた、加入者を囲い込むため各保険会社は付帯サービスの充実化を進めている。しかし、自社でサービス提供をしている会社はほとんど見られず、基本的には第三者に委託して保険加入者にサービスを提供している。
つまり保険会社は自社製品の販促のためにデジタルヘルスサービスを付帯商品として活用している事例がほとんどだ。
今後高齢化が進み、人口減少が進んでいく中で保険会社が活路を見出すにはより厳しい競争が見込まれる。今後人口変動に応じてどのようにサービスが変化していくかも見どころである。