救急医からデータ構築の担い手へ 医療にまっすぐ向き合う姿勢のまま、現場のペインを取り除く道

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救急医からデータ構築の担い手へ 医療にまっすぐ向き合う姿勢のまま、現場のペインを取り除く道

これまで医療ヘルスケアの共創プラットフォームとして、様々な情報を発信してきた「Healthtech DB」。今回インタビューをさせていただいたのは、現役の救急医という立場を生かし、現場のペインにメスを入れるTXP Medical株式会社の園生智弘さんです。

救急医療を軸に、現場のペインを解決する

―はじめにTXP Medicalの事業について教えてください。

私たちは「救急医療」に軸足を置いて、現場のPainをテクノロジーで解決することに挑んでいます。急性期医療の求められる領域において、一連のフローにテクノロジーの網を張り、医療連携に関わるデータ構築を通した価値創出を目指しています

―2017年に創業して、既にいくつものプロダクトをお持ちですね。

はい、だからか事業領域としても一見幅広くやっているように思われがちですが、それはひとえに「救急医療」という分野の持つ広域性だと捉えています。例えば問診や医療相談といった比較的ライトなところから、身体に異変を感じた患者が足を運ぶ救急外来、交通事故で重傷を負ってドクターヘリで運び込まれるケースまで、全てが「救急医療」です。軽症で済んで帰宅する方もいれば、半数ほどは入院病床に入られる。そういった受け入れ後の流れを見ても、実に様々な場面を持ち合わせていて、私たちもその一つずつに介入する中で自然と事業が広がっていった格好です。

(参考: TXP Medical社のサービス群, TXP Medical社提供資料より)

―ご自身が医師として現場にいたからこそ、見えている課題感も多くありそうですね。

「課題」という側面でももちろんそうですが、諸外国に比べて明らかに日本が秀でている部分もあります。とりわけ救急搬送を見ると、日本は全国どこでも7,8分で現場に救急車が到着して、30~40分もあれば病院への搬送が完了しているというデータがあります。これらが公的なインフラとして、くまなく整備されている。片や米国では、到着する救急車が何十万円もする私営のもののこともあれば、たまたまパブリックが来て無料で済むこともあるという有様です。

病院側は患者の受け入れを拒否できませんから、搬送先に着いたところで医療を施されもしなければ救急隊も帰ってしまう、なんて話も聞きます。日本の救急インフラを輸出する、という観点も持ち合わせていきたいですね。

救急外来と一般外来の決定的な違いとは何か

―そのなかで中心となるプロダクトを挙げるなら、「NEXT Stage ER」でしょうか?

そうですね、もちろんワンプロダクトで解決しきろうという話ではないですが、NEXT Stage ERのような仕組み化を通じて医療連携・救急搬送のコントロールを可能とし、そこからValueを生み出していきたいという狙いを持っています。

実は市場規模としてもすごく大きくて、救急車による搬送は毎年600万件ほど発生していますし、それらで搬送された患者さんには平均して一人あたり50~100万円ほどの医療費がかかっています。搬送/受け入れというフェーズにおいて、患者の情報そして医療機関の状況・受け入れ希望が可視化され、マッチングできるようなプラットフォームがあれば、大きな市場が動くことは明らかです。

―医療における情報管理システムというと、電子カルテが思い浮かびますが…

一般外来と救急外来において情報システムに求められる要件は大きく異なるからこその、救急に特化したプロダクトを創出しました。

そもそも電子カルテというのは、一般外来で5分おきに整然と患者が診察室にやってくる、という状態を想定しつくられています。ところが救急外来はどうでしょうか、1日に20人ほどが前触れもなく救急車でやってきて、ひとたび外来に入ったら一人あたり3~4時間は滞在します。さらにその間にも、ウォークインと言ってご自身で救急外来にいらっしゃる患者も当然いるわけです。そうなると、現場としては救急搬送の4人と、歩いていらした7人の患者の情報を同時に見たい、今すぐ治療が必要な人から順に並べたい、といったニーズが出てきます。基本的に一患者ずつ情報を開ければいい電子カルテと、明らかに違う部分ですよね。

―「病院」という環境下でも、求められるものがそれだけ違うのですね。

もっと言えば、患者を診る側の医師も、ドクターヘリの要請を受けて急きょ病院を離れないといけなかったり、他の患者を受け入れるために移送が発生したりするケースも考えられます。複数の医療従事者、そして多職種が関わることを前提とした情報整理や連携がマストになってくるのです。

―現時点でのシェアはどのくらいでしょうか?

有難いことに、特定のセグメントに対して予想以上のシェアを頂いています。救命救急センター自体は全国に300弱ほどあるのですが、この中で大学病院としての機能を併せ持っている74か所について申し上げると、現時点でシェアは30%ほどとなっています。目標は50%に到達させることですね、そうすれば営業にも説得力が増すと期待しています。

(参考: TXP Medical社のサービス導入実績, TXP Medical社提供資料より)

このストラテジーでは一生医療が変わらないという危惧

―大学病院の機能を併せ持つ医療機関にシェアが高いという話がありましたが、これにはプロダクトの特性が関係しているのでしょうか?

仰る通りで、NEXT Stage ERには研究支援の観点も盛り込んで設計しています。と言いますのも、私自身も臨床医の時に学会発表で非常に苦労したからです。当時の研究というのは、カルテを横において、その情報を一件ずつエクセルに入力するところから始まっていました。ですから私も、ある時は700ほどの事例を100時間くらいかけて入力して。文字通りヘロヘロになって発表にこぎ着けたわけですが、同時期の一流誌を見て愕然、アメリカからはその20倍くらいのデータを根拠とした研究がさも当たり前のように出されているわけです。このストラテジーでは一生医療が変わらない、気合いと根性ではなくもっとエレガントに、業務をしていく中で自ずとデータが集まるような仕組みをつくらなければと発起しました。

―それが起業のスタートだったのですね。

世界と戦えるエビデンスが作れるようなデータプラットフォームを、と、実は医師の頃から試行錯誤していました。ただ、仮に何かしらが作れても、一医療従事者が作ったものでは、他院への導入が難しい。一個人としてではなく、会社として体制を整えた上で動こうと創業に至りました。

―それで晴れて2017年に創業と。会社の雰囲気はどのような感じでしょうか?

「医療データで命を救う」という理念のもと事業を企てています。雰囲気というところで言いますと、行動規範の一つに「Socially Good」というものがあるのですが、まさしく「本質的に医療を良くしていこう、その先に稼げる未来が待っているから」というスタンスの人が多いですね。

ビジネスである以上、「儲かればそれでOK」という立ち位置もあるとは思うのですが、うちのメンバーは単に儲かりそうなだけの話には乗らなかったり(苦笑)。本当に患者さんのためになっている?といった自問自答もそうですが、とにかく医療における本質的な価値創出にこだわっている面々に囲まれています。

―園生さん自身は医師としての経験も長いですよね。

医師としてのキャリアは、15年ほど前に救急集中医療に足を踏み入れたところからスタートしました。その当時から、「なんで救急隊の人たちっていちいち紙に書いて、電話して、っていうのを繰り返しているのだろう。携帯電話とかに入力して一斉配信すればいいのに」って、正直私以外もずっと思っていましたね。そうやってずっと思っていたのに、結局10年以上そのままだったんです。誰もが共感するような、非常に巨大なPainがあるにも関わらず。これはなんとかしたい、その思いが今に繋がる原動力になりました。

最初から全国制覇できると思っていた

―そうは言っても、医師からビジネスの世界への転身は不安もあったのではないでしょうか?

それが実は、最初から全国制覇できると思っていたんです。自分が救急医として10年経験を積む中で、Painは熟知できていましたから。もちろん最初は慎重に、いかんせん負け戦は嫌いですから(笑)、貯金を崩して小規模から始めたところはあります。ただ幸いにも国の研究費が取れた辺りからは、一気にシフトチェンジして、資金調達をしたうえで一気にスピードを上げていきました。

―経験に裏打ちされた、順調な滑り出しですね。

もちろん導入にあたっては、院内政治というハードルも否めませんし、フロントの医師による賛同だけではスムーズにいかないケースもあります。ただそれでも、NEXT Stage ERについてはリリース当初からコンバージョン率が50%を切ったことが一度もないんです。

―素晴らしいですね!今後、医療やそのプラットフォームを取り巻く環境についてはどのように見てらっしゃるでしょうか?

IT環境に関して言うと、今はまだ多くのところで患者のデータは見える化も構造化もされていない状態です。ただ、リアルタイムで患者のデータが可視化されていけば、この状態にはここまでのリソース・インフラがあれば助けられるはずだ、この状態にこの検査は必要ないのではないのか、そういったバリューベースドな判断がより的確になされていくはずです。

救急医療については、今後の医療があらゆる方向に進んでいこうとも、最後まで病院に残る機能だと捉えています。経過観察や慢性期疾患の治療は、もしかしたらホテルや自宅で代替できるかもしれないけれど、急性期医療だけは人とモノを大量に集約しないことには成立しない。もちろん変化のトレンドは読んでいかないといけませんが、私自身が病院あるいは急性期医療というものに軸足を置くのはこうしたところからも来ているかもしれません。

―最後に、これから医療ビジネスを志す人に向けてメッセージをお願いします。

まず医師から事業を起こす側になろうとしている人には、現場感覚を大事にしてほしい。いくらビジネスであれ、現場で感じたPainを真正面から解決することが一番だと思うからです。もちろんマネタイズの観点はゆくゆく必要になりますが、それはきちんとシェイプできるチームを作ることができれば、必ず戦えるはずです。

裏を返せば、医療従事者でない人がこの世界に飛び込む場合は、ぜひビジネス化の才覚を生かしてほしい。医療従事者というのは、本当に、医療に対してまっすぐに向き合っている人たちです。ですからいきなり変化球を見せるのではなく、自分たちもまっすぐに医療と向き合い、より良くしくためのアプローチを考えているんだ、ということを真摯に伝えていってください。どんな立場から関わるにしても、なぜ医療をやるのか、患者さんのためになっているのか、と、本質に立ち返った事業展開を期待したいですね。

Healthtech DB編集部です。Healthtech DBは国内のヘルステック領域に特化したビジネスDBです。日々のヘルステック業界の動向に関する記事作成やウェビナー運営、企業・サービスに関するビジネスDBの構築を行っています。