バズワード"DAO"の現在地~ヘルスケア業界で導入されるDAOの海外事例全集~

投稿日

最終更新日

  • DeSci
  • DAO
  • 海外

バズワード"DAO"の現在地~ヘルスケア業界で導入されるDAOの海外事例全集~

もはや2022年のバズワードとなっている”DAO”。
本記事では、"DAO"がそもそもよくわからない読者の方にも手取り早く、バズワード"DAO"がいかにヘルスケア業界で導入されるのか現在地を簡潔に把握してもらうために、海外の有名なヘルスケア関連のDAOプロジェクトを4つ取り上げた

海外ではヘルスケア業界のDAOは存在するが、日本でヘルスケア業界で"DAO"として動くプロジェクトは現状ではない。
次回の記事では、日本初のヘルスケア業界のDAO組織を目指す”Medical DAO”を独占取材し、今のプロジェクトと今後のビジョンをまとめる。今週公開予定なので、ぜひご覧いただきたい。

また、"web3.0"と"DAO"の関連やそもそも"DAO"どんな概念か、など根本からweb3.0やDAOを理解したい方には、来週公開する記事「わからないじゃ済まされない!?ヘルスケア業界にも押し寄せるweb3.0の波」(予定)をぜひお待ちいただきたい。以上の3つの記事を一読することで、現状のヘルスケア業界におけるweb3.0の知識が包括的に理解できるようにしている。

8月30日に公開されたNature誌のArticleにヘルスケア業界のDAOの事例がまとまっている

2022年8月末にNature誌に掲載されたarticleである"Decentralized investor communities gain traction in biotech"[1]によると、生命科学にフォーカスしているDAOは現状これだけあるとされている。[2]
今回はその中でもプロジェクトとして注目すべきDAOを4つ挙げている。

Vita DAO:長寿老化研究に特化(HP

今後半世紀で世界中で高齢化が急速に進展することになり健康寿命の延長が大切になる

内閣府によると、総人口に占める65歳以上の者の割合(高齢化率)は、昭和25(1950)年の5.1%から平成27(2015)年には8.2%に上昇しているが、さらに令和42(2060)年には17.8%にまで上昇するものと見込まれている。[3]
日本も含めこれまで高齢化が進行してきた先進地域はもとより、開発途上地域でも高齢化が急速に進展する。
これからは、高齢者が元気な社会づくりがこれまで以上に大切になってくると予想できる。

Vita DAOとは「長寿研究」に特化したDAOである

Vita DAOは、「長寿研究を加速し、それによって人類の健康寿命や寿命そのものを延長すること」をミッションに掲げる「長寿研究」に特化したDAOである。ブロックチェーン技術を用いて資金調達や研究データをデジタル化することで、このミッションをより効率的に追求するプロジェクトである。[4]

長寿研究における中央集権的な構造を解決する

医薬品研究開発には、大きな障壁が二つある。
それは、莫大なコストと長い期間である。医薬品開発には数百億円規模のコストが当然のようにかかり、開発しても動物実験から人体での治験など承認まで長い期間がかかる。
そのため、資金に余裕のある大規模な研究所や大富豪などが加齢研究を中央集権的に管理している現状がある。[DiMasi et al., 2016]。その場合、一部の富裕層にのみ利用可能で、誰にとっても手頃な価格にならない可能性がある。
Vita DAOは、長寿研究の支援をオープンで、共創的なコミュニティでシナジーを生み出すことでこの問題を解決することを目指している。

VitaDAOはIPをNFTで管理し売却益や取引手数料などを得る仕組みでマネタイズする

VitaDAOでは研究プロジェクトへの出資の条件として、プロジェクトで生み出された知的財産権(Intellectural Property, IP)をVitaDAOが保有することを求めている。
IPをNFT化したIP-NFTsを活用することで研究室のIPをブロックチェーン化し、そのIP-NFTsを製薬会社などに貸したり、売買したりすることで、売却益や取引手数料などを得る仕組みとなっている。かつての通貨の金本位制のように、VitaDAOはさながら「知財」本位制のような仕組みを目指している

出資はDAOのメンバーの保有者の投票によって決まる

現在、VitaDAOでは900万ドルの資金を持ち、5000人以上のDiscordメンバーが活動している。また、60以上のプロジェクトが検討され、総額150万ドルの長寿研究への出資が行われている。出資実績はこちらにまとめられている。(リンク

"Vita DAO"の出資の初めての例は、2021年7月にコペンハーゲン大学のScheiby-Knudsen准教授のグループである。糖尿病治療のためにメトホルミンを服用した70歳以上の高齢者が、健康な高齢者よりも長生きしていることを発見し、メトホルミンを用いた健康寿命を延ばすプロジェクト(VDP-5 Scheibye-Knudsen Lab Funding Proposal)に対する25万ドルの出資であった。出資はDAOのメンバーの保有者の投票によって決まる。以下に、上記の研究の計画書と投票の結果がまとまっている。

GenomesDAO:自分のゲノムデータは自分で所有する(HP

ゲノムデータを扱う会社はデータの主権、プライバシー、精度の3つの問題がある

近年、遺伝子を用いたサービスが急増している。特に、ジーンクエスト社GeneLife社が提供するような遺伝子の解析をして健康リスク、体質傾向、母系の祖先ルーツなどを知るサービスが顕著である。

現在のテーラーメイド医療の普及も相まって、遺伝子解析の需要は順調に伸びていくと考えられるが、現在のゲノムデータを管理する会社には大きな問題が3つある。それらは、ユーザーにデータの主権がない問題とプライバシー保護の欠如の問題、そして精度が高くない問題という3つである。

海外の事例を元にすると、基本的なゲノムデータの管理会社のビジネスモデルは、ユーザーにDNA検査やレポートを提供する際の損失を、ユーザーからデータの所有権を奪うことで、アクセスを希望する第三者(研究機関や創薬会社など)に販売することでカバーしている。あくまで海外の事例としては、ゲノムデータの管理会社は数百万ドルの取引で大手製薬会社にデータベースへのアクセス権を売却することもある。
少なくとも現在時点では、ゲノムデータを管理する会社から顧客が自らの解析データを入手をすることもできなければ、データがどこに保管されセキュリティがどの程度担保されているのか明確な解答を得たりすることもままならない。仮に、データ漏出していても顧客には判明しないのが実情であり、過去にはデータ流出した事例もある。

また、精度も問題である。ゲノムデータを管理する会社は、遺伝子配列全てではなく、全体の0.02%のみを解析するジェノタイピング*を用いている。決してゲノム配列全てを網羅しているわけではないため、精度にも問題があるとされる。

*ジェノタイピング
「個体差につながる身体的差異と、疾患の根底にある病理学的な変化の両方を含め、表現型に大きな変化をもたらす小さな遺伝的差異を検出する技術」

GenomesDAOはゲノムデータセキュリティ企業である

GenomesDAOは、2018年にDr Mark Hahnel氏とAldo de Pape氏によって設立されたロンドンを拠点に活動するゲノムデータのセキュリティ企業である。
「自分のゲノムデータは自分で所有すべき」との理念を掲げ、DNA検査とゲノムデータの共有の際のプライバシー、セキュリティ、所有権の懸念に対処することで、世界最大のユーザーに所有権のあるゲノムデータバンクを構築し、テーラーメイド医療の未来を目指している。[5]

3つの特徴で今の問題を解決している

大きく分けて3つの特徴がある。

  1. 全ゲノム解析:世界中の業界トップのDNAシーケンサープロバイダーと協力することで、ユーザーのゲノムを100%高品質で解析し完全なオーナーシップを提供している
  2. 暗号技術:SEV-ES(Secure encrypted Virtualisation - encrypted state)技術を利用し、ユーザーのDNAデータを完全に暗号化した「保管庫」を作成することで、ユーザーが所有し、管理するDNAデータの安全なクラウドストレージを提供する
  3. ブロックチェーン技術:イーサリアムを活用し、ユーザーのゲノムデータへのアクセスに関する透明かつ不変の監査ログを提供することで、ユーザーは自分のDNAデータが、ユーザーが決めたとおりの方法で保存・共有されていることを確認することができる

猫をモチーフにした"Geneticats NFT"

GenomesDAOでは、猫をモチーフとしたNFTで収益化できる仕組みを作っている。猫をモチーフは一見関係ないが、公式サイトによると、伝説のNFTコレクションであるCryptokittiesがDNAを256ビットで表していたことに影響されたとのことだ。
Geneticats NFTを作成することにより、DNAシーケンスキットを用いて検査できるようになる。ユーザーは試料を採取して返送後、12~14週間以内で結果が通知される。

ゲノムデータの中には、常染色体優性遺伝やX連鎖劣性遺伝など家族性に受け継がれる遺伝病から、突然発症でのがん抑制遺伝子の欠損などまで様々な情報が含まれているため、ゲノムデータのうち知りたい範囲と知りたくない範囲を自由に選択することができる。
それらのデータを、研究機関や製薬会社に「GENEトークン」と引き換えに自分のゲノムの一部提供し、安全で非公開のまま収益化できる仕組みとなっている。

LabDAO:実験室のAirbnb(HP

生命科学分野での研究のコストの高さや機密保持の必要性が問題となっている

近年、オープンジャーナルの増加などを筆頭に研究界全体のオープンソース化が進みつつある。
一方で、ライフサイエンスの分野ではなかなか進んでいないのが現状である。長い承認プロセスにおいて競合他社に対する主要な防御手段である知的財産や企業秘密の必要性がゆえに、業界の研究にかかるコストの高さ、機密保持の必要性が原因となっていると考えられる。

Lab DAOは科学の研究者同士をつなぐ

LabDAOは、Vita DAOのコアチームの一部により作られたDAOである。ライフサイエンスをテーマにした世界中の研究者をつなぐことを目的としている。
具体的には、ブロックチェーン技術を使用して、液体、化学物質、生物材料を扱うウェットラボ研究者と、計算、物理、工学を扱うドライラボ(バイオインフォマティクス)研究者をつなぐことによって、ライフサイエンスを強化したいと考えている分散型のコミュニティ運営型研究開発ラボサービスDAOである。[6]

Lab DAOは最終的に実験室のAirbnbを目指している

LabDAOの計画は、世界中の科学の研究者と彼らがアクセスできるサービスとの間のコミュニケーションを豊かにすることである。
例えば、生化学研究室の科学者Xが装置Yを用いた実験を行う必要があるがまだ持っていない/壊れている場合に、LabDAOを使うことで装置Yを持つ物理研究室の研究者Zと繋がることができる。
Zは実験の後データをXに返すことで、Xは追加の装置を購入することなくXの研究を完了させることができる仕組みだ。さながら、Lab DAOは「実験室の"Airbnb"」となる

Lab DAOの報酬

Lab DAOは、すべての科学者、大学院生、ポスドク、教授が独立した発明家または起業家になることを可能にしている。
報酬の支払いは、共有IP(共同所有は新しい共著)または他のトークンの形で行うことができ、それらは全てオンチェーンで取引記録が記録されている。
取引に支払われた資金は、ユーザーが購入したサービスから得られる結果を確認するまでエスクロー*で保管され、紛争が発生した場合は独立した仲裁サービスに解決を依頼することができるため、金銭トラブルや秘密保持契約の違反なども対処される仕組みになっている。

*エスクロー
取引時に買い手と売り手の間に中立な第三者が仲介することで取引の確実性を確保するもの

HairDAO:薄毛研究に特化(HP

男性の66%が35歳まで、女性の50%が人生で頭皮の抜け毛を経験する

薄毛は、世界的に最も普及している疾患の一つある。
男性の80%、女性の50%が一生のうちに抜け毛を経験し、その95%以上が男性型脱毛症(androgenic alopecia)であると言われている。
ミノキシジル外用液やフィナステリド錠剤、血小板リッチプラズマ療法や毛嚢単位移植・採取法など様々な治療法があるがいずれも長期的に効果がなかったり、あまりに高価だったりする問題がある。効能が高く低価格な治療法がない理由は、症状に対する研究開発がほぼ行われていないためである。脱毛症には民間、公共を問わず、保険制度が適用されなく、世界的な補助金制度がないこともその要因の一つと考えられる。

HairDAOは薄毛研究に特化したDAOである

HairDAOは、世界人口の3分の2の人々が、脱毛による不安な生活を強いられることがあってはならない、という信念のもとに設立された、薄毛をよりよく理解し、治療することに焦点を当てた初期段階の研究および企業に出資しているDAOである。
HairDAOのメンバーは、HairDAOが資金提供するすべての治療法への最初のアクセス権、およびHairDAOが保有する資産に対するガバナンス権を有している。[7]

DAO全体で$750kの資金を有し、現在$50kを研究に出資している

現在、「薄毛の治療を加速させると思われる資産に、できるだけ早く資金を提供すること」と掲げるミッションをもとに、男性型脱毛症の研究に向け、DAO全体で$750kの資金を有し、現在$50kを研究に出資している。現在、「薄毛の治療を加速させると思われる資産に、できるだけ早く資金を提供すること」と掲げるミッションをもとに、男性型脱毛症の研究に向け、DAO全体で$750kの資金を有し、現在$50kを研究に出資している。

参考文献

[1]Decentralized investor communities gain traction in biotech
[2]Selected life-science-focused DAOs
[3]高齢化の国際的動向-内閣府
[4]Vita DAO whitepaper
[5]GenomesDAO whitepaper
[6]Lab DAO whitepaper
[7]A Decentralized Asset Manager in Search of a Cure for Hair Loss

京都府立医大6年生。アイリス株式会社のインターン業務、USCPA受験、研究室で論文執筆など医ンタープレナーとして楽しい日常を送ってます。趣味は、F1観戦とサイクリング。グルテンフリー6年目です。(Twitter:@Ogu_Yasuhiro6、Researchmap:https://researchmap.jp/OGURA-Yasuhiro)