エムスリーがエピグノを関連会社化し 医療機関における人材管理の DX 化を推進へ

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エムスリーがエピグノを関連会社化し 医療機関における人材管理の DX 化を推進へ

エムスリー社がエピグノ社を関連会社化し、医療機関DXを強化へ

エムスリー社は2021年7月1日付で、看護師向けの人材マネジメントツールを複数提供するエピグノ社を、資本参加により持分法適用関連会社化すると発表しました。(1)

エピグノ社によるプレスリリースによると、今回のラウンドでは、総額2億5千万円の資金調達であり、エムスリー社及び、その子会社であるエムスリーキャリア社も資本参加していると発表しています。

エピグノ社は2016年に設立されたベンチャー企業であり、今回の資金調達により合計3億5千万円の調達を行ったことになります。

エピグノ社が提供する、エピタルHRの画面例 エムスリー社プレスリリースより

本記事では、なぜエムスリー社はエピグノ社を関係会社化したのか、なぜエムスリーキャリア社も同時に資本参加を行ったのか、エムスリー社の長期的な狙いはどこにあるのかを、公表されている情報から考察します。

エムスリーの狙いは、エムスリーキャリア社の人材ソリューションの強化か

エムスリー社は今回の資本参加の目的をプレスリリース内で以下のように説明しています。

本取組みにおいて期待されるシナジー効果 ①サービス展開のさらなる拡大・加速 エムスリーグループがキャリアソリューション事業やサイトソリューション事業を通じて培った医療 機関向け人材マネジメントに関連するサービスの知見及び営業網を活用し、単なる営業連携にとどまら ず、採用ニーズの捕捉から採用支援・入職後の定着サポート・スタッフ管理までを一気通貫で支援するソ リューションとしてのサービス提供の体制を構築します。 ②医療・介護人材のプラットフォーム構築をはじめとした提供価値の拡大 エムスリーグループの各事業の運営を通じて蓄積した医療業界におけるノウハウや、豊富な事業開発 分野の経験を活用し、医療・介護施設における人材マネジメントのデジタル化、医療・介護人材のプラッ トフォーム構築や、新サービスの開発などによる提供価値をさらに拡大させてまいります。

((1)プレスリリースより、原文まま)

簡単にまとめるとエムスリー社の今回の資本参加の目的は以下2点になります。

  1. エムスリーキャリア社の人材ソリューションの強化
  2. 医療介護領域の人材領域における提供価値の拡大

特に、プレスリリースの中では以下のような図を用いて、エムスリーキャリア社が提供する看護師採用ソリューションと、エピグノ社の提供する人材マネジメントツール(定着化・早期退職防止)との提供価値サイクルを説明しています。

(プレスリリースより、エムスリーキャリア社とエピグノ社の提供価値サイクル)

一見この図で説明されているように、エムスリーキャリア社の提供する看護師向けの人材ソリューションと、エピグノ社の人材管理ツールの相性は良さそうに見えますし、エムスリーの狙いは上記の図の通りのように思えます。

しかし、筆者としてはこの取り組みがどれほど上手く働くのか、難易度の高いチャレンジになるのではないかと考えています。

理由としては

  1. シンプルに、上記の提供価値サイクルを成り立たせるためには、矛盾があるように思えること(人材定着を目的としたツールと、看護師離職を前提とした採用支援事業は両方が正常に働き得るのか?)
  2. エピグノ社は過去にも同様の枠組みの取り組みをしており、その取り組みが消えているように見えること。

の2点です。

エピグノ社は過去にも類似の座組みでレバレジーズ社と業務提携

実は、エピグノ社は2020年8月に、エムスリーキャリア社と同様の看護師向けの人材採用サービスを展開しているレバレジーズ社と、本案件と同様の価値提供を狙った、業務提携を行っています。

この過去のレバレジーズ社との取り組みがもし上手くいったいたとしたら、今回のようなエムスリーキャリアによる資本参加をレバレジーズ社が見過ごすはずはないのではと考えています。

そのため、この過去の取り組みは何らかの原因により上手く働かなかったものと考えられます。

2020年8月 PR Times プレスリリースより レバレジーズ社とエピグノ社による取り組みイメージ)

過去のレバレジーズ社とエピグノ社の取り組みが上手くいかなかった原因としては大きく分けて以下2点があるのではないかと想像しています。

  1. 元々このソリューションの連携自体に無理があった。(提供価値の矛盾)
  2. 両社の取り組みに強制力がなく、現場での取り組みが希薄になった。(現場のグリップ力の低さ)

もし、過去の取り組みが難しいものになってしまった原因が、2の両社の取り組みの強制力のところにあったのだとしたら、今回のように資本参加をすることによって、より強力な取り組みとして現場を運用していくことで活路が見えてくるのかもしれません。

エムスリー社の真の狙いは関連会社化による市場ポテンシャル・医療機関ニーズの収集か

以上のように、プレスリリース通りの期待成果が挙げられるかどうかは、難しいチャレンジであると考えられますが、一方でこうした過去事例はもちろんエムスリー側も認識しているはずであり、何らかの策を持っているものと考えられます。

1つは、プレスリリース上では見えてこない、何らかのインサイトをエムスリー側が持っており上記の提供価値サイクルを上手に回していくための秘策を持っていること。

もう一つの可能性としては、今回のエムスリーキャリア社との連携を元から最重要視しているわけではなく、より長期的な目的の方を重視しているのではということです。

矢野経済研究所の発表によれば(4)、医療情報システムの2020年の市場規模は2665億円あると推計しており、現在はそのほとんどのシェアが電子カルテ等既存システムにあるとはいえ、古いシステムが新しいSaaSツールによって置き換えられていく可能性を考えると、大きなチャンスが眠っていることになります。

そのため、今回のエピグノ社への資本参加を通じて、そうした医療機関向けSaaS市場のポテンシャルの見極めを行う目的があるのかもしれません。

また、エムスリー社の既存ビジネスである、製薬企業による医師向けプロモーションの支援事業や、治験周辺の事業を強化していくために、医療機関の現場ニーズの収集を行っていくための良い情報網として活用する狙いもあるかもしれません。

このように、今回の案件でエムスリー社がエピグノ社を完全子会社ではなく、関連会社化する狙いは本格的な事業関連系ではなく、関係会社を通じた市場探索にあるのではないかと筆者は予想します。

今後、こうした取り組みをもとにエムスリーがどのような動きを見せるのか、特に医療機関向けSaaS市場に新たな一手を打ってくるのか、それともより一層既存事業の成長を加速させるための成長要素としていくのか、今後もその動向に注目です。以上のように、プレスリリース通りの期待成果が挙げられるかどうかは、難しいチャレンジであると考えられますが、一方でこうした過去事例はもちろんエムスリー側も認識しているはずであり、何らかの策を持っているものと考えられます。

参考URL

(1) エムスリー社プレスリリース 2021年7月1日 株式会社エピグノを持分法適用関連会社化 ~ 医療機関における人材管理の DX 化を推進~
(2) PR TImes 医療・介護人材マネジメントソリューションを提供するエピグノが、エムスリーグループから2億5000万円の資金調達を実施
(3) PR Times エピグノ、レバレジーズメディカルケア株式会社と業務提携
(4) 矢野経済研究所 医療情報システム(EMR・EHR)市場に関する調査を実施(2020年)

株式会社ポテック代表取締役 / ヘルスケア領域の新規事業立ち上げ支援を中心に、スタートアップから大手企業までプロダクトマネジメント支援やビジネス構築支援、コンサルティング支援などを行っています。