エムスリーの直近5年の買収先リストを一気見!

投稿日

最終更新日

  • M&A
  • 買収

エムスリーの直近5年の買収先リストを一気見!

エムスリーの勢いが止まらない

参考: Healthtech DB: エムスリー株式会社

エムスリーは2000年に創業した医療IT企業である。事業の拡大と成長を続け国内29万人、海外600万人以上の医師がサービスを利用している。売上額は過去5年で約2倍、時価総額は5兆円を超えて国内でも有数の企業になっている。

エムスリーは主軸の事業として国内の医師の9割以上が登録する、医療従事者専用ポータルサイトm3.comの運営を行なってきた。ポータルサイトでは医療ニュース、薬剤情報、web講演会など多種多様なコンテンツを発信している。

また、サイト運営で獲得した医師会員を強みに生かして、様々な事業を展開してきた。事業は大きく5つに分けられる。

  1. メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査) 製薬会社の医師への営業プラットフォーム、会員医療従事者を対象としたアンケートなどの調査サービス、医療情報以外のライフサポート情報の提供を行なっている。
  2. エビデンスソリューション(治験支援事業) 治験に参加する施設・対象患者を発見しマッチさせる治験支援サービスを提供している。
  3. キャリアソリューション(人材紹介事業) 医師、薬剤師の人材紹介を展開している。
  4. サイトソリューション(医療機関の運営サポート事業) 医院の新規開業、医院継承、経営サポートを行なっている。開業用不動産物件、医療機器、経営コンサルティングなど様々なサービスパートナーの紹介も行っている。
  5. エマージング事業 新薬や、新しい検査方法・治療法、AIの開発または開発支援を行なっている。最先端技術を医療者ネットワークと融合させることで技術開発促進に取り組んでいる。疾患課題や社会的課題を根本的に解決することを目標としている。

これらのサービスは国内にとどまらず、アメリカ、ヨーロッパ諸国、中国、インドなどでも展開されている。

国内外で様々な事業を拡大しているエムスリーだが、今後はどのようにビジネス展開を進めていくことになりそうなのか。2015年以降の企業買収から今後の戦略を検討してみる。

2015年

① 企業名、② 主に事業を展開している地域、③ 該当するエムスリーの事業の順番で買収企業をまとめた。

企業名

事業展開をしている地域

該当するFの事業

株式会社 Integrated development associates

日本

エビデンスソリューション(治験支援事業)

New England Physician Recruit Center

アメリカ

キャリアソリューション(人材紹介事業)

Profies社

アメリカ

キャリアソリューション(人材紹介事業)

2015年の買収は治験支援事業が1社、人材紹介事業が2社であった。人材紹介事業に関しては全て米国の企業であった。エムスリーは以前より米国において60万人の医師が利用する医療従事者専用サイト「MDlink」を運営してきた。豊富な医師会員を元に、医師転職支援事業を2社買収することで米国の医師転職における事業拡大を行なっている。 日本国内では治験支援事業の強化のために国内企業が買収された。日本に拠点を持たない海外製薬会社の治験を支援する会社で、エムスリーの医師ネットワークを掛け合わせることによって治験の効率化を進めていく。

2016年

企業名

事業展開している地域

該当するエムスリーの事業

The Medicus Firm

アメリカ

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

株式会社Qlife

日本

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

テコムグループ

日本

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

Healthcare at Home Private Limited

インド

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

AXIO Medical Holdings Limited

フランス、ドイツ、スペイン

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

エムキューブ株式会社

日本

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

アイジー・ホールディング

日本

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

株式会社アネステーション

日本

キャリアソリューション(人材紹介事業)

ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ

日本

エマージング事業

2016年は国内外の医療従事者専用サイトの会員や事業の拡大に力を入れられた。 買収した企業の多くは海外の各地域でエムスリーと同様の医療従事者専用サイトを運営する会社であり、これらの企業を買収することによって事業範囲を拡大することが狙いだ。 日本のみならず、アメリカ、インド、ヨーロッパ各国の医師会員を増やすことによって、医師紹介事業や治験支援事業などにおいて今後のグローバルな展開の基盤を構築した。

また日本国内でもエムスリーの医療従事者専用サイトのサービス充実化のための企業買収が行われた。特に医師国家試験予備校のテコムグループと資金・業務提携することで医療従事者のみならず、医学生にまで会員を拡大した。 医療者のネットワークに関する事業のほかに、バイオベンチャーの買収が行われた。ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズはバイオマーカー(癌などの疾患を検知するための指標)の研究開発を行なっている。エムスリーが所有している医療者ネットワークと融合することで治験の効率化やバイオマーカーの開発促進を行う。

2017年

企業名

事業展開している地域

該当するエムスリーの事業

Rotamaster

イギリス

キャリアソリューション(人材紹介事業)

コスモテック

日本

サイトソリューション(医療機関の運営サポート事業)

株式会社ジャメックス

日本

サイトソリューション(医療機関の運営サポート事業)

QQFS

スウェーデン

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

2017年は日本とヨーロッパにおいて企業買収が行われた。エムスリーはイギリスの医師の80%が利用する医療従事者専用サイトを以前より運用している。医師の転職支援事業の企業を買収することによって、イギリスの医師転職市場への参入を強化した。 また、スウェーデンでは北欧最大の医師調査パネルQQFSを買収することによって北欧地域での医師会員のさらなる充実を図った。 日本では医療機器の販売を専門とする企業を2社買収した。エムスリーの医師コミュニティと融合させることによって医療機器の販売促進に取り組んだ。

2018年

企業名

事業展開している地域

該当するエムスリー事業

ワイズ

日本

サイトソリューション(医療機関の運営サポート事業)

ソフィアメディ

日本

サイトソリューション(医療機関の運営サポート事業)

Wake Research

アメリカ

エビデンスソリューション(治験支援事業)

新日本科学SMO

日本

エビデンスソリューション(治験支援事業)

Pharmacology Research Institutes

アメリカ

メディギア・インターナショナル

日本

エマージング事業

2018年は国内外の治験支援事業3社と、国内の訪問看護運営、脳卒中後遺症向けリハビリ施設運営の事業2社、国内の癌治療法開発ベンチャー1社の企業買収が行われた。 国内やアメリカで治験実施施設を運営する企業を子会社化することによって治験事業を本格的に参入した。また、医療サービスを実際に提供する企業と、エムスリーの在宅医療支援サービスを融合することによって高齢化社会における介護ニーズに対応した事業を目指している。 今までエムスリーが培ってきた医療従事者コミュニティを元に、治験支援や医療サービス提供、先端技術開発促進に力を入れていく姿勢が見られた。

2019年

企業名

事業展開している地域

該当するエムスリー事業

日本アルトマーク

日本

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

DailyRounds

インド

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

EDANZ GROUP JAPAN

日本

エビデンスソリューション(治験支援事業)

メディカルエージェンシー

日本

キャリアソリューション(人材紹介事業)

Lily MedTech

日本

エマージング事業

インディーメディカル

アメリカ

サイトソリューション(医療機関の運営サポート事業)

SaaS

フランス

サイトソリューション(医療機関の運営サポート事業)

ビジョナリーホールディング

日本

サイトソリューション(医療機関の運営サポート事業)

2019年は日本、アメリカ、インド、フランスで企業買収が行われた。 医療者ネットワークのグローバルな拡大戦略の1つとして、インドの医師・医学生コミュニティ企業を買収した。また、国内でも医師以外の医療従事者の人材紹介事業を行なっている企業を買収し人材紹介事業の拡大に取り組んだ。 日本、アメリカ、フランスの電子カルテや医療機器販売の企業を買収して、今までエムスリーが成長させてきた医療者ネットワークと融合させることで医療機器や設備の普及・販売促進に取り組んだ。 またエマージング事業として、痛くない乳がん検査を研究開発するバイオベンチャーを買収した。エムスリーが所有する治験ネットワークや治験支援サービスを用いることで開発や治験の効率を向上させていく。

2020年

企業名

事業展開している地域

該当するエムスリー事業

NAS Recruitment Innovation

米国

キャリアソリューション(人材紹介事業)

Manthan

北米・欧州

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

ヒューマ

日本

エビデンスソリューション(治験支援事業)

アイチケット

日本

サイトソリューション(医療機関の運営サポート事業)

MonEcho SARL

フランス

サイトソリューション(医療機関の運営サポート事業)

2020年は、北米、ヨーロッパにおいては病院側人材採用支援、電子カルテ、医療情報データ分野の企業を買収した。国内においても診療予約システムなど医療機関の運営システムを扱う企業や、治験の被験者リクルート事業を行なう企業を買収した。いずれの分野もエムスリーの巨大な医療者ネットワークを生かした事業展開が行われた。

2021年(1-4月)

企業名

事業展開している地域

該当するエムスリー事業

東和産業株式会社

日本

サイトソリューション(医療機関の運営サポート事業)

Africa Health Holdings Limited

アフリカ

エマージング事業

One Health Communications Holdings

イギリス

メディカルプラットフォーム(医師への情報提供、調査)

2021年の4月までの時点で買収した企業は3社であった。イギリスでは医療従事者向け情報提供事業を買収した。エムスリーは2020年の時点でイギリス医師の80%が会員である医療従事者専用サイトを運営していたが、さらに会員数と業界シェアを拡大した。医療機器の販売促進や医療施設の運営事業の強化、拡大も行なっている。国内では眼科を主とした医療機器の販売促進を行う。アフリカでは医療設備のネットワーク化、遠隔診療アプリの運営を推進する。

まとめ

以上のように2015年から2021年までのエムスリーの企業買収一覧を見てきた。 現在エムスリーが買収を強化している領域としては

  1. 医療従事者専用サイト
  2. 医師人材紹介事業
  3. 医学生の教育事業
  4. 治験の実施、支援事業
  5. 医療機器販売事業
  6. 在宅看護、リハビリ施設などの運営事業
  7. 先端技術を活用したバイオベンチャー がある。

国内、国外に事業を展開するエムスリーだが、事業拡大には一定の法則性があるように思われる。 エムスリーが未開拓な地域では、まずはじめに医療従事者専用サイトのシェアを拡大して医療者の会員を多く集める。次に、大きな会員数を地盤にして人材紹介や治験、医療機器販売促進などの事業を展開していく。 アメリカ、インド、ヨーロッパなどの海外に新たに進出する過程でも、エムスリーは同様の流れで事業を拡大している。

したがって、今後のエムスリーの事業展開として以下のことが考えられる。

①エムスリーが未だ展開していない国と地域に進出

医療従事者専用サイトを運営する企業を新たに買収し、その地域のエムスリーの医療者会員を充実させる。獲得した豊富な医療者会員をもとに、人材紹介事業や治験事業などを推進していくと考えられる。

②エムスリー会員が充実した地域において新たな事業に展開

エムスリーはサイト運営で医療者の会員を様々な地域で増やす一方で、会員に医師の生涯学習、転職や開業などのキャリア、治験や研究の支援など医師の仕事に欠かせない様々なサービスを提供している。この流れは今後も強化されていくと考えられる。また、これらのサービスの他にリハビリ施設、高齢者施設、在宅医療システムなど、今後の少子高齢化社会に対応した事業を展開し、今まで構築してきた医療者ネットワークを活用して事業を拡大していく可能性がある。  また、日本国内において遠隔診療が解禁されたことを受けて、エムスリーの医療者ネットワークとIT技術を駆使して遠隔診療支援事業に力を入れる可能性もある。実際、エムスリーは2019年にLINEと共同出資で「LINEヘルスケア株式会社」を設立し遠隔健康医療相談サービスを開始、オンライン診療の展開も検討している。

③最先端技術を活用した医療・バイオベンチャーとのさらなる提携

エムスリーは最先端医療技術への取り組みを「第三のレバー」と名付けて推進している。最先端技術を用いて疾患課題や社会的課題の根本的な解決に取り組んでいる。過去5年の企業買収を見ても4社ほどの企業買収が行われており、分野は癌治療やインフラ設備に至るまで多岐にわたっている。また、2019年には塩野義製薬と合弁会社を設立している。今後も製薬分野とデジタル分野の強みを掛け合わせて様々な疾患の予防、診断、治療、服薬、予後まで全体を見据えた課題解決に取り組んでいくと考えられる。 エムスリーの海外における医療者専用サイト新規開拓、すでに事業を展開している地域での人材紹介、治験事業、医療機関運営、バイオベンチャー分野の買収には特に注目が必要となってくるだろう。

Healthtech DB編集部です。Healthtech DBは国内のヘルステック領域に特化したビジネスDBです。日々のヘルステック業界の動向に関する記事作成やウェビナー運営、企業・サービスに関するビジネスDBの構築を行っています。