マネージドケアとは何か?

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マネージドケアとは何か?

ヘルスケア・医療領域の仕事に関わっている方の中には、マネージドケアという単語を聞いたことがある方は多いかもしれないが、きちんと意味合いや事例などを説明できる方は少ないのではないでしょうか。

本記事では、マネージドケアとは一体なんなのか?どんな国で取り入れられているのか?メリット・デメリットは?ビジネスモデルや事業者はどんなものがあるのか?について概説していく。

医療費の高騰をどうやって抑えていくのか?医療保険の支払いをコントロールするための保険と関連したデジタルヘルスなどの事業に関わる方にはぜひ知っておいてもらいたい。

マネージドケアとは何か?

マネージドケアとは医療機関と保険会社の間に第三者が仲介して、患者の医療費高騰の抑制と医療の質の向上を図ることである。マネージドケア事業者は医療機関に対して医療費の支払い、請求代行を実施する他、患者が受ける内容審査、投薬料、入院回数の適正化、また、適切な医療機関の紹介も行っている。また、企業によっては患者の重症化予防も一括して提供する。

どんな国で取り入れられているか?

マネージドケアは主に公的医療制度が充実していない国において、発展している管理医療システムである。アメリカをルーツとしており、民間保険での提供が主であったかが、徐々に公的保険でも実施されるようになった。近年、ベトナムやマレーシアをはじめとする東南アジアでは人口が増加による医療需要が高まっているが、それに対して医療サービスの質の向上や供給が追いついていない。このような背景で医療サービスの質を向上させ、医療費を抑制するマネージドケア事業者のニーズが拡大している。

アメリカ

アメリカの保険制度は民間保険と公的保険(メディケイド、メディケア)に分けられており、公的保険は日本の国民皆保険とは違い、一部の高齢者や社会的弱者等に対するものである。U.S. Census Bureauによると、アメリカの民間保険加入割合は66.5%、公的保険加入割合は34.8%、無保険者が8.6%であるとされている(民間と公的には重複あり)。

アメリカでは民間保険が大半を占めているため、保険会社は医療費の拡大を抑えることに関心を持っており、マネージドケアが導入されるようになった。マネージドケアでは医療提供側に制限を設けて、不要な医療行為が行われないように管理している。

医療費が抑制される一方で、マネージドケア団体によっては、かかりつけ医の義務化、団体と契約している医療機関で受診する必要があること(契約外なら自己負担)などの制約がある。

スイス

スイス国民は全員、基礎医療保険への加入が義務付けられており、自分で選んだ健康保険会社に月々の保険料を支払う。公的機関ではなく、一般の保険会社が運営する保険であるが、補償すべき内容が法律で定められている。医療供給は州で管轄されており、保険料の月額は会社や州によって異なっている。

スイスの医療保険制度は質の高い医療を提供することを可能としているとされているが、スイスの保健衛生費の支出は、国内総生産の11.7%を占めており、高額である。また、スイスの健康保険料は増加傾向にあるとされており、未納税者も社会問題となっている。そのような背景のもとで、マネージドケアのニーズが高まっている。スイスでは国内における全保険加入者の1割がマネージド・ケアを利用している。

デメリットとしては、アメリカと同様のものが散見される。指定された診療所・医師の指導を受けることによって、不要な治療が避けるが、ときには検査をしたほうが良い場合でも、検査・治療が制限されているため実施しないことや、結局自己負担になるため選択肢を患者に提示しても実施しないケースが多い。

東南アジア: マレーシア・ベトナム

マレーシアでは、国民皆保険は存在せず、民間保険に加入する場合が多い。医療機関は公立と民間があり、公立の医療機関での医療サービスについては、連邦政府予算からの支出があるため患者の自己負担は少ない。その一方で、自己負担が少ない分待ち時間の長さ大きな課題となっている。また、民間の医療機関は公立よりも高度で専門的医療を提供している分、保険がない場合は自己負担額が10割で、利用者は高所得者と外国人の富裕層に限られている。経済成長で所得が向上する一方で、生活習慣病の患者が増えており、マネージドケアによる医療費抑制ニーズが高まっている。

ベトナムでは公的保険があるが、リファラルシステムという制度が存在する。公的医療機関はコミューンレベル、群レベル、省レベル、中央レベルの順に四つの区分に分けられており後になるにつれて高度な医療を受けることができる。保険診療の対象となるためにはリファラルシステムに沿って下から受ける必要があるが、より充実したサービスを求めて最初から省、中央の医療機関を受診する人が増えている。そのため、公的保険での自己負担額が増えており、近年民間健康保険のニーズが拡大傾向である。そこで公的保険が存在するベトナムにおいてもマネージドケアの需要が高まっている。

マネージドケアのメリット・デメリットについて

メリット:医療費高騰の緩和策として有効

日本とは違って国民皆保険がない国においては、特に医療費の抑制は重要な観点である。保険会社は加入者から集める保険料と実際に発生する医療費のマージンをいかに広げるかがポイントであり、その点でマネージドケアは同じ疾患・症状でも治療費を抑えることができるので大きな利点となっている。

デメリット:医療アクセスや治療方法の制限

アメリカやスイスでも挙げられたように、医療費を抑制するために制約が設けられることが難点である。マネージドケア会社・団体と連携のある医療施設しか利用できないことや、実際の治療方法も最適なものを選べんない、あるいは選べるとしても全ての額が自己負担になり、かえって他の保険プランのほうが安くなるという結果もある。

マネージドケアに取り組む企業とそのビジネスモデル

アメリカの事例:オスカーヘルス

オスカーヘルスは2012年に設立され、2022年現在アメリカの22州で約100万以上の人にサービスを提供している。全11ラウンドに渡って、合計16億ドルもの資金調達をしており、わずか設立10年で急成長した企業である。その背景として、設立当初に進めていたオバマケアが事業拡大の追い風となって、中低所得者層にもオバマケアの一環として購入が可能になったことがある。

bronze、silver、gold、platinumの順に4つのプランから選択してサービスを受けることができ、ランクが上がるにつれて月額料金は高くなるが、その分医療費の控除額が大きくなる。オスカーヘルスの提供内容として特徴的なのは専用アプリを用いて自分の健康状態を維持する活動に取り組めることである。アプリを通して個人の診療録や医療情報が見ることができる他、医師・医療施設の推薦や遠隔医療相談、遠隔医療を受けることができることである。また、健康に対する関心を持ってもらうために、設定した歩数目標を達成したユーザーに1日1ドル報酬を与える等のコンテンツも提供している。

オスカーヘルスは個人のための医療の最適化に取り組んでおり、今後もテクノロジーを駆使してUXを向上させていくと考えられる。

アメリカの事例:ユナイテッドヘルス

ユナイテッドヘルスはアメリカの最大大手医療保険会社で2021年のグループ全体の売上は4000億ドル(2021年)にのぼる。ユナイテッドヘルスのグループの中にUMRが含まれており、マネージドケアを提供している。現在では、500万人を超える会員に、カスタムメイドのプラン設計、医療費抑制のための解決、革新的なサービスを提供している。サービス利用者は専用のサイトをスマホやパソコンでアクセスすることが可能で、そこで自分の過去の保険利用料、現状のプランの損得を閲覧することができる。他にも近くのグループ内の医療施設や薬局等も推薦してくれる。

オスカーヘルスに比べて設立したのが1977年で伝統的な大手である、また利用者数に圧倒的な差を持っており、高所得者層からマージンを大きくして利益をあげることで、中低所得者層に対して小さいマージンで安価に提供することを実現している。

マレーシアの事例: PM Care社およびHealth Connect Holdings社

2019年4月に住友商事がマレーシアでマネージドケア事業に取り組む大手のPM Care社とHealth Connect Holdings社を子会社化したことを発表した。両者は現地のマネージドケア分野での4割を占めているとされており、中間所得者の生活習慣病の人々を主にターゲットとしている。

PM Careは法人をクライアントにしており以下の三つのサービスを提供している。
1. 医療内容の管理
医療費や治療内容の見直し、医療利用のアドバイス、健康増進プログラムのカスタマイズ

2. 医療関連の管理業務をサポート
保険金の請求、支払い代行、プランに基づいて会員資格を確保・監視する

3. プロバイダー・ネットワークの管理
全国3,000以上の開業医、180の専門医、300の病院、340の歯科医院へのアクセスを管理する

Health Connect Holdings社も同様に法人をターゲットの対象としてビジネスを展開している。アメリカの事例に比べてアプリや個人に最適化した医療形態ではないが、今後経済が成長していくにつれて変化していくのではないかと考えられる。

ベトナムの事例: Insmartの事例

住友商事はInsmart Joint Stock Companyに出資したことを2021年9月に発表し、マレーシアに続いて、ベトナムにも参入した。上記で述べたようにベトナムでは公的保険は存在するが、近年民間保険の需要も高まっている。Insmart社は2010年に設立し、当初はベトナムではなく隣国のマレーシアでマネージドケアビジネスを展開しており、国内では個人向けの遺伝子検査や健康診断プログラム管理等の保険会社の付加的なサービスを提供していた。しかし、このような国内の需要の拡大を受けて国内でのマネージドケアサービスにも2016年以降取り組んでいる。

Insmartはマネージドケアサービス以外に以下のようなサービスを提供しており、日本の保険会社が取り組むような内容にも従事していることが特徴である。おそらく、公的保険があるベトナムにおいて出来るだけサービスを利用してもらうことが狙いだと考えられる。

サービス内容
- 薬局給付管理(PBM)
- 健康診断プログラム管理
- 遺伝子検査
- メディカルセカンドオピニオン(MSO)
- 国際医療支援(IMA)
- テレヘルス・コンシェルジュ
- キャッシュレスドラッグ&デリバリー
- 製品設計と分析
- ディジーズ・マネジメント・プログラム

まとめ

以上マネージドケアの概要と導入されている各国の事例をピックアップして紹介した記事であった。マネージドケアはビジネスモデルの構成上、公的保険が充実していない国で主に利用されている制度である。しかし、医療費の抑制という面では高齢化がすすむ今後の日本においても参考になる点はあり、今後の医療制度を考える上でのヒントになり得るのではないかと思う。

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