母子手帳の電子化、人に優しいデジタル化

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母子手帳の電子化、人に優しいデジタル化

母子モとは?

母子手帳アプリ『母子モ』は、2015年からスタートした、母子健康手帳の記録から地域の情報までをアプリで簡単に記録・管理できるサービス。妊産婦と子どもの健康データの記録や体重・発育グラフの表示、予防接種のスケジュール管理、出産・育児に関するアドバイス、写真をつけた育児日記や家族との共有機能、地域の子育て情報など、妊娠・出産・育児に奮闘する母親や父親たちを助けてくれる便利な機能が充実している。
現在では400以上の自治体で導入され、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、自治体と子育て世帯をつなぐツールとしてさらに注目されている。
デジタル庁の発足やコロナ感染症など、社会の著しい環境変化が起こっているなか、令和時代にはどのような子育て環境が必要とされているのだろうか?

母子手帳のデジタル化の背景、目的

・転入転出や里帰り分娩の際などに自治体で情報を共有できる仕組みが必要ではないか
・災害への対応という観点からも電子化は重要ではないか
・誰を対象に何を届けるのか、電子化の目的や活用方法を明確にすべきではないか
・電子化に当たっては、外国語への対応についても検討が必要ではないか
・災害時にも便利(2011年の東日本大震災の際にあったいーはとーぶを例に)

行政と住民が求めるサービスのギャップに苦戦

『母子モ』を運用・開発するエムティーアイにおいて、ヘルスケア事業本部 ルナルナ事業統括部 統括部長を務める宮本大樹氏は以下のように語っている。
「母子モ」のサービスを現実化していく過程で自治体(行政)が求めていることと、子育て世帯(消費者)が求めていることにもギャップがあり、どこで折り合いをつけるかに苦労した。自治体(行政)は、「情報を子育て世帯に届けたい!」という思いが強く、それを優先したデザインにした。しかし、実際に運用してみると、利用者が使いやすいものではなかった。
既存の女性健康情報サービス、『ルナルナ』や、『music.jp』などのエンターテインメントコンテンツなどを開発・運用しているので、実際に利用するユーザーのニーズに沿ったアプリを目指しているが、導入していただく自治体の要望も取り入れ、双方がより便利で使いやすいサービスにしていく必要があり、その擦り合わせにとても苦労した。
また、今までの行政サービスは、完成品を発信し、それを継続的に使用していくことが一般的で、途中で仕様を変更したり新規機能を追加することはなかった。しかし、環境が大きく変わる現代において、多様な形や、臨機応変に対応できることが重要である。

まずはできるところから始めてみるという、スモールスタートすることが大切

常に環境が変わりうる昨今において、『母子モ 子育てDX』に関してもいきなり完成形を発信するのではなく、オンライン相談サービスから始めてみて、その後、予防接種、乳幼児健診など、自治体がDX化するために必要な事業をひとつずつ追加していき、最終的に全体のDXの実現を目指す、といったように、少しずつでもいいので一歩一歩前に進むことが重要である。

「母子モ」に入れてよかった機能

・子どもの成長(妊娠週数や生まれてからの月日)が一目・でわかる
・離れて住む祖父母へ子どもの成長の様子を知らせる「ファミリー共有機能」(紙のときにはできなかった、デジタル化のメリット)
・予防接種のスケジューリング機能、など

誰一人取り残さない、”人に優しいデジタル化”というビジョン

アプリの場合は、スマートフォンのOSのバージョンによって、利用できる範囲が異なる。例えば、機能を入れると、Aさんは使えない、でも違う機能を入れると、Bさんは使えない、という事象が、開発上多発する。しかし、ビジョンの実現のためにはAさんもBさんも使えるサービスにしなければならない。
そこで、様々な制約がある中で、最終的には、自治体から『母子モ』を経由して専用URLを住民に送り、住民はそのURLをタップすることでオンライン相談機能が利用できるという、自治体と子育て世帯双方が使いやすい、シンプル設計を意識したサービスが完成した。

母子保健情報の電子化について、今後の対応案

多くの自治体で母子保健アプリ等が導入されてきており、今後マイナポータルとの情報連携が想定される。

※母子保険情報の電子化について:厚生労働省

一気通貫型の子育て支援が求められる社会に

2018年 、「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」(以下、「成育基本法」)が施行された。
「成育基本法」は、成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し、必要な成育医療等を切れ目なく提供するための法律である。“子どもの権利”が言語化され、孤立育児などの現代抱えている問題解決にもつながる。
成育基本法の施行をきっかけに、全国の自治体では一気通貫型のサポートを実施することを目的とした子育て支援包括支援センターが開設され、切れ目のない支援ができる体制が整ってきている。
母子手帳の電子化 や自治体のDX化は、妊娠期から子育て期まで、一貫してサポートできる可能性を広げる助けになることは間違いない。

まとめ

近年新型コロナウィルスを始め、日々情勢が激しくうつりかわっていることにより、今まで当たり前であったものが当たり前でなくなってきている。子育てや教育に関しても例外ではない。自治体では、感染リスクを心配して庁舎に来ない保護者が多くなり、どのようにしたら情報を届けられるのかが課題になっています。子育て世帯も、母親学級や両親学級、乳幼児健診などの支援事業の中止や延期が余儀なくされているので、子どもの成長や育児に関する相談などができず、不安な状態が続いている。
そのため、「母子モ」をはじめとした民間企業のこのようなサービスで、少しずつでも自治体のDX化が進み、デジタルの力で育児の負担が軽減できれば素晴らしいと思う。今まで時間をとられていた事務的なことを効率化することで、子供と直接触れ合う時間が増え、より多くの人が子育てを楽しめる社会になるであろう。また、子育ての大変さや喜びをオンライン上で人に話したり、相談したりすることで、子育てで孤独を感じている親を少しでも減らし、「社会全体で子供をみる」という形ができあがるのではないのだろうか。
子供は、国や社会において希望である。今できることを一つ一つ確実に行っていくことが、子どもたちの明るい未来に繋がるのである。

参考:母子保健情報の電子化について 厚生労働省 000958027.pdf (mhlw.go.jp)

北京大学医学部6年。再受験で、中国語ゼロの状態から北京大学医学部へ入学。産婦人科志望。趣味はアウトドア全般で、バイクや船の免許も持っています。