日本は観光業としてメディカルツーリズムにどのように取り組んでいるのか?課題は何か?

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日本は観光業としてメディカルツーリズムにどのように取り組んでいるのか?課題は何か?

メディカルツーリズム(医療ツーリズム)とは、治療や手術、検診などの医療サービスを目的にした観光のことである。これは日本の医療の受け方からすると想像しにくいことではあるが、海外では色々な背景から海外に医療を受けにいく人がいる。この記事では日本が観光業としてメディカルツーリズムにどのように取り組んでいるかを紹介したいと思う。

現状日本はアジアのミドルアッパー層をメインターゲットとして呼び込んでいる

はじめに日本における現在のメディカルツーリズム市場、現状どこの国からのインバウンドが多く、何を求めて日本にくるか外観する。

メディカルツーリズム目的のインバウンド客の7割は中国人である

令和3年度ヘルスケア産業国際展開推進事業p9より

上図は日本が発行した医療滞在ビザ数である。コロナ前は日本のインバウンド需要は拡大傾向にあった。全体的には中国が7割を占めているが、ベトナムの需要も急増している。中国から来日する患者のほとんどは検診・人間ドックが目的で、背景として中国の医療の逼迫が挙げられる。他にも高度治療としてがんの治療を受ける患者もいる。

日本は高品質だが高すぎない価格で医療を提供している

令和2年度事業成果報告書、地域の医療・観光資源を活用した外国人受入れ推進のための調査・展開事業p16より

アジアの中ではシンガポールが日本より医療の品質が高く、その分医療費も高くなっている。日本はある程度高品質なものをシンガポールやアメリカよりも安いコストで提供しており、近年中位~中上位層の人口が増加している中国、ベトナムなどからのニーズが大きい。価格帯としては、一人当たり検診・人間ドックで約150万円、高度医療で約400-500万円であるとされている

国は近年メディカルツーリズムを通して地方観光の活性化に力を入れている

先程まで日本のメディカルツーリズムの現状の市場を見ていただいた。ここからはこの記事の本題の「日本は観光業としてメディカルツーリズムにどのように取り組んでいるのか?」について見ていきたい。構成としては、国が実施している政策を挙げたうえで、具体的な事例について見ていく。

2019年度から厚生労働省と観光庁が連携して地方活性化に取り組む

厚生労働省と観光庁は連携して、「地域の医療の充実を通した外国人受入れ推進のための体制構築支援事業」を進めており、取り組みについて2019年度から発信している。この事業では、行政、医療機関、観光事業者が連携して地方の医療観光体制を整備する。事業の目的として以下の3つのいずれかを推進していくことである。

A.医療機関・観光事業者・地方公共団体が連携した地域の受入れ体制の整備(国内連携構築)

B.医療・健康意識の高い訪日外国人の旅行消費額増加に繋がる魅力的な滞在プランの造成・提供(滞在プラン造成)

C.造成したプランの販売に向けた海外連携・販路の確保(海外連携構築)

石川:検診ついでに温泉と日本伝統文化体験で満喫するパッケージを提供する

石川県七尾市では病院(恵寿総合病院)、旅行会社(JTB)、行政(七尾市)が連携してメディカルツーリズムに取組んでいる。主なターゲットを40代の中国人男性とその家族として、JTBの広州や北京で滞在プランを販売している。

令和3年度事業成果報告書p31より」

医療面:病院での健診(PET-CT検査、マイクロアレイRNA検査、診療情報閲覧サービス等)を提供している。
観光面:周辺の温泉街(和倉温泉)での滞在や日本文化の追体験(加賀友禅体験、座禅など)を提供している

岐阜:冬のレジャー体験で台湾など南方のインバウンド客を狙っている

岐阜県高山市では石川県の事例と同様に病院(高山赤十字病院)、旅行会社(高山エース旅行センター)、行政(高山市)などが連携している。主なターゲットは40代の台湾人男性や60代の香港人夫婦としている。また、特徴として実験的ではあるが保険会社(損害保険ジャパン)がレジャー体験で怪我した用にワンストップ窓口を設けたことが挙げられる。

令和3年度事業成果報告書p38より」

医療面:脳ドックまたは頸部US検査、健康セミナーを提供している。
観光面:豪雪地帯の高山市の特徴を生かして、スノーシュー体験や雪の回廊見学を提供している。

メディカルツーリズム先の情報不足やビザ発行手続きの長さが課題になっている

次に日本が観光業としてメディカルツーリズムを推進するうえで課題となっていることについて外観する。課題を見ていく際に、まずはメディカルツーリズムの患者行動を見たうえで、どのステップにおいて問題が生じているのか考察する。

メディカルツーリズムの患者行動は4つのステップに分類される

上記の図のように海外に医療観光する際の患者行動は主に4つのステップに分けることができる。

1.訪問先の検討
どこの国に行くかを決めた上で、どの医療機関を利用するかを検討する。医療機関の選択を一から自分で行うこともできるが、言語が異なることや情報収集のコストがあるため、医療コーディネーターを介して行うことが多い。医療コーディネーターの手配や事業を行うプレイヤーとして、医信やJTB(JMHC)などが挙げらる。

2.渡航準備
ビザの発行など、医療観光に必要なものの準備をする。ビザ発行のサポートも医療コーディネーターがしてくれる場合もある。

3.渡航(医療・観光/滞在・その他)
現地で医療(治療・検診)と観光をする

4.帰国
治療のフォローアップ(経過観察、データ連携等)

滞在先や医療機関の認知度が低く、ターゲットに訴求されていない

先程も上げたように、都市部なら元々の知名度やPR力があるかもしれないが、地方ではまだまだ海外における知名度は高くない。そのため、個人で移動先を見つけるのはもちろんのこと、医療コーディネーターを介しても厳しいことが多い。

しかし、これに対しては現状Medical Excellence JAPANが海外のイベント等を通して日本の医療・サービスの認知度向上に取り組んでいる。Medical Excellence JAPAN (MEJ) は、日本の成長戦略の柱の一つ、健康・医療の国際展開の推進という政府の方針のもとに、これを実践する中核的な組織として、設立された一般社団法人である。経済産業省はMEJの活動を支援している。

タイ、シンガポールなどのメディカルツーリズム先進国に比べてビザの発行手続きが長い

日本の課題として現状医療目的として渡航する場合、ビザを取得する必要があり、ビザを発行する手続きも複雑で1週間ほどかかってしまうことが挙げられる。対照的にタイに関しては、国内の160の病院で治療する外国人とその付添人に対し、ビザなしで90日まで滞在できるようになっている。またシンガポールに関しても手続きは簡易的で、医師の推薦状や治療計画があれば、ビザの滞在期間をオンラインで申請で延長できる。

まとめ:日本は観光業としてメディカルツーリズムにどのように取り組んでいるのか?課題は何か?

以上日本の観光業としてのメディカルツーリズムの取り組みとその課題について取り上げてきた。

まとめると、現状日本はアジアのミドルアッパー層をターゲットにしており、観光業としては特に地方観光との組み合わせで取り組みを強めている。またそれらを推進するうえでの課題は知名度の低さやビザ手続きなどでの不便さが残っている点である。

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