海外の片頭痛デジタルソリューションと日本の動向

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海外の片頭痛デジタルソリューションと日本の動向

海外の片頭痛デジタルソリューションと日本の動向

海外では片頭痛へのデジタルソリューションが進んでおり、市場も拡大傾向にある。本項では、海外の片頭痛に対するデジタルソリューションの事例を見つつ、日本の片頭痛対策の最近の動向についても取り扱う。

片頭痛の国内推定患者数は840万人

片頭痛とは、こめかみから目にかけて、片側を中心に、時には両側や後頭部までも脈打つように起こる頭痛のことで、前兆のあるものと無いものに分類される。
片頭痛の症状のトリガーは、疲労・精神的ストレス・睡眠不足などであると知られている。

患者は女性に多い一方で、適切な治療を行えている患者は少ない

日本全体での有病率は8.4%で、特に女性は12.9%と約10人に1人が悩まされており、特に20-40代の女性に多いとされている。(*1)

また、有病率における男女差も大きく、女性は男性の約4倍も片頭痛患者が多いとされている。(有病率8.4%の内訳のうち、全女性における12.9%が片頭痛患者だったのに対して、男性における有病率は3.6%だった。(*1))

片頭痛を抱えている方のうち、74.2%が片頭痛によって日常生活に大きな支障がある一方で、適切に治療に進めている患者割合は低い。自分自身が片頭痛患者であると自覚しているのは全体のうち11.6%にすぎず、また頭痛の治療のために市販薬を用いているのは56.9%のみである。(*1)

*1 Sakai F, Igarashi H. Cephalalgia 1997;17:15-22

片頭痛治療における課題は、患者さんの適切な治療への案内と治療選択肢の確保

上記を踏まえて片頭痛における疾患課題は、① 患者さんに頭痛症状の原因が片頭痛であることと気付いて受診してもらうこと、② 患者さんに適切な薬を処方できるようにすること、③ 片頭痛治療を継続して行ってもらうこと の3点にあると考えられる。

これまで片頭痛治療薬は、通常の頭痛治療に利用される薬と片頭痛用のトリプタン系製剤が利用されてきましたが、うまく利用されていないのが現状だった。2020年・2021年に立て続けにイーライリリー・アムジェン・大塚製薬より新しいタイプの片頭痛治療薬・予防薬がそれぞれ販売され始めたが、まだまだ普及には時間がかかる見込みだ。

(片頭痛発作を予防する治療薬として、2021年4月に日本イーライリリー・第一三共が「エムガルティ」を販売開始し、8月にはアムジェンが「アイモビーグ」を、大塚製薬が「アジョビ」を販売開始した。)

海外の片頭痛ソリューションの事例5選

360iResearchによると、デジタル偏頭痛治療器の世界市場規模は、2021年に3億827万米ドルと推定され、2022年には3億4463万米ドルに達すると見込まれる。2027年にはCAGR11.97%で成長して6億754万米ドルに達すると予測される。

また、AMERICAN MIGRAINE FOUNDATION(米国偏頭痛財団)によると、偏頭痛の既往がある人は、ない人に比べてコロナ後の頭痛を発症しやすいという研究結果が出ている。また、偏頭痛の既往がある患者は、コロナの感染後に偏頭痛の発作が増加することが確認されているため、今後のデジタル偏頭痛治療器市場の動向には注目である。

以降では、海外で上市している偏頭痛のデジタルソリューションを5つ取り上げてそれぞれの利用方法や特徴について解説する。

1. Cefaly

Cefalyはアメリカやヨーロッパで中心に利用されており、偏頭痛の治療デバイスであり、急性期治療と予防療法の両方が可能である。デバイスを額につけて、電源ボタンを押すことによって作動し、三叉神経を刺激することで痛みを和らげる。急性期に関しては60分で痛みが和らぐとされており、予防療法に関しては毎日20分装着することで効果があるとされている。

Cefalyはこれまで20億もの偏頭痛の治療を提供している。また、2020年にはFDAでOTC(Over the counter)の承認を受けて、医師の処方なしに5万円(€349)でオンライン購入することができる。

2. Nerivio

Nerivioはアメリカで利用されており、急性期治療用のデバイスで、スマートフォンのアプリと連動しており、利用履歴を管理できる。頭痛発作が起こった時に腕の上側にデバイスを装着し、電気信号を受けることで治療する。電気信号の強さはアプリで調整することが可能で、45分ほど装着することで痛みを和らぐとされている。

Nerivioは処方箋が必要なデバイスで、購入する際の費用を10ドルにまで引き下げることができる患者節約プログラムを提供している。また、12回利用した後にはデバイスを買い替える必要がある。

3. Relivion MG

Relivion MGもアメリカで利用されており、急性期治療用のデバイスで予防療法用ではない。後頭神経と三叉神経の6つの枝を正確にターゲットし、活性化することで、偏頭痛の症状の原因となる2つの主要な神経経路を刺激するデバイスで、スマートフォンのアプリとも連動している。頭痛発作が起こった時に2時間装着することで痛みが和らぐとされている。

デバイスの治療データ、環境、ライフスタイル、偏頭痛の情報を、リリビオンMGダイアリーから収集することができる。アプリで蓄積されたデータは安全なクラウドデータベースに送られ、そこで分析された後、医師に送信される。Relivion MGは処方箋が必要なデバイスであり、購入する際の金額は不明である。

4. gammaCore

gammaCoreはアメリカで利用されており、急性期治療と予防療法の両方が可能である。偏頭痛の原因となる首の神経に優しい電気刺激を与え、治療中は、デバイスを首の横に保持する。急性期治療の際は頭痛発作が起こってから、2分ほど首にデバイスを当てることで、痛みが和らぎ、予防療法としては、1日3回実施することで効果があるとされている。デバイスを使用する際は手で首の正しい位置を探した上で、デバイスの表面に専用のジェルを塗って利用する。

gammaCoreは処方箋が必要なデバイスで、ウェブサイトでは遠隔医療プログラムを提供しており、3ヶ月の利用に450ドルである。

5. sTMS mini

sTMS mimiはアメリカやヨーロッパで中心に利用されており、偏頭痛の治療デバイスであり、急性期治療と予防療法の両方が可能である。後頭部にデバイスを当てて、ボタンを押すだけで、偏頭痛発作の治療や発症予防のための磁気パルスを照射することができる。オンライン偏頭痛ダイアリーで、症状や治療の経過を記録し、医師との共有も可能である。

sTMS miniは処方箋が必要なデバイスであり、購入する際の金額は不明である。

日本のデジタル関連の偏頭痛対策では沢井製薬やLINEヘルスケアが挙げられるが、治療に関しては薬が主要である

2021年1月28日に沢井製薬株式会社は、偏頭痛およびうつ病向けのデジタル医療機器について、上記で挙げたRelivionMGを開発したNeurolief社と日本における独占開発販売契約を締結したことを発表した。プレスリリースによると、沢井製薬は2022年を目処に偏頭痛のデバイスをPMDAに申請する予定となっている。

また、スマートフォンでの記録サービスとしては2021年の8月からLINEヘルスケアとアムジェン社が連携し偏頭痛の予防啓発を目的としたLINE公式アカウント「片頭痛@LINEヘルスケア」を提供している。サービス内の偏頭痛の症状を記録・確認することができる「頭痛ダイアリー」機能では、頭痛の程度や痛みの種類、頭痛の要因、服用した薬などをLINE上で記録することができる。また、定常的に頭痛発生時の状況を記録しておくことで、日常生活の中での行動と頭痛の誘因を把握することができるほか、医師への症状・治療効果の共有も、「頭痛ダイアリー」を通じて、スムーズに行うことが可能である。

12月からアムジェン社はJMDCとも連携してLINEヘルスケア上で「片頭痛リスク予報サービス(Health Weather(R))」を提供している。これにより疾患と気象条件の相関関係を統計的に解析することで、偏頭痛の発症・重症化リスクを予測するAIモデルを活用したサービスを提供している。

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