なぜここ数年ピルのオンライン処方に関するプレイヤーが増えているのか?
2021年6月に政府が閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太方針2021)」では、「フェムテックの推進」が盛り込まれた。オンラインピル処方はフェムテック市場の一部で近年注目を浴びている。また、オンライン診療の解禁とともに、ネクイノ社が提供するスマルナ事業が伸びていっていることにより他社参入も活発になってきている。
本記事では、ピルのオンライン処方市場が拡大している背景と、主なプレイヤー及び、今後の市場課題などを概説していく。
これまでピルのニーズはあったが服用するには通院する必要があり、心理的ハードルが高かった
上記でも挙げた労働損失からもわかるように、月経(生理)に伴う生理痛やPMSは女性の日常生活をおくる上で大きな問題となっており、うまく対処することの必要がわかる。その解決策としてピルが存在する。
しかし、ピルは避妊薬であるというイメージが色濃くついているためか、性行為と紐づけられることが少なくはない。そのため、ピルを処方してもらうために婦人科へ行くことへの心理的ハードルは低くはない。実際に2019年に発表された国連の調査によると日本のピルの内服率は2.9%と低く、他の先進国であるフランス33.1%、イギリス26.1%、アメリカ13.7%との差が顕著であることがわかる。
ピルがオンライン処方されることで気軽に服用することができるようになった
服用までの大まかな流れ
1. 患者情報登録/会員登録
個人情報等入力、アカウント等を作成する。予約フォームで問診のタイミングを決める場合もある。
2. 問診(チャットツール・電話)
診察前のスクリーニング、サービスによってはこの後自分で医師を選択することが可能。
3. 診察(ビデオ通話・電話)
電話やビデオ通話で診察を受ける、基本的にはここでは自由診療として扱われているため保険適用されないケースが多い。
4. 処方(自宅への配送)
サービスにもよるが、最速で当日に処方されたピルが自宅に届く。
オンライン化による顧客体験の変化
1.通院が不要でいつでも気軽に服用できる
現状のペインポイントとして人目が気になること、通院する暇がない等の問題があったが、オンラインで服用してもらえるため、社会人でも気軽に利用することが可能となった。
2.オンライン診療と違い、自宅に郵送される
現状日本でのオンライン診療では、診察後処方された薬を最寄りの薬局に取りに行く必要があるが、ピルのオンライン処方では診察後そのまま自宅にピルが郵送される。
なぜ参入企業が増えているのか?
なぜオンラインピル処方領域に参入する企業が増えているのか?消費者ニーズの明確さ、収益構造の明快さ、参入障壁の低さ(本当は考慮することはたくさんあるはずだが)の3つが考えられる。
特に、ピルの定期処方は一度購入するとサービスを乗り換えるケースは少なく、ビジネスとしてわかりやすく積み上げが期待できる領域になっている。
また、ヘルスケア市場の中では医薬品をオンライン処方することで、消費者の健康課題を解決できるというわかりやすいメリットが存在するため、その他のヘルスケア領域のサービスよりもユーザー体験は価値が高いものになっている。
国内のピルのオンライン処方プレイヤー8社
1. Smaluna (スマルナ)
Smaluna(スマルナ)はスマホアプリで問診、オンライン医療相談・診察を受けてピルの処方と宅配まで一気通貫で提供している。2018年6月のサービス開始以降、ユーザーを拡大させ、2022年5月時点でアプリのダウンロードは累計80万を達成した。
アプリの開発やプラットフォーム提供は株式会社ネクイノが実施しており、医療機関と提携することで提供している。また株式会社ネクイノ医薬品の2次卸としての機能があり、ピルは1次卸から輸入している。
Healhtech DB企業リンク: https://healthtech-db.com/companies/623288c44c2d8b60df6b81c6
2. Clinic For (クリニックフォア)
Clinic For(クリニックフォア)はアプリ不要で、予約から決済をオンライン上で受けることができる。最近ではライン上で「Sai+ダイアリー」のサービスも提供を開始し、カレンダー機能で体調の詳細を記録、また薬の飲み忘れ防止のためのリマインダー等が設定できる。
運営元は医療法人社団エムズで、オンラインプラットフォーム(SaaS)を提供するのは株式会社Linc'well(リンクウェル )である。
スマルナと異なりクリニックフォアは院内処方体制を取っており自社に調剤薬局を保有しているため、マージンでのコストが削減されるため利益率が高いことがビジネスモデルの特徴である。
Healhtech DB企業リンク: https://healthtech-db.com/companies/623bec924c2d8b60df2cf701
3. mederi Pill (メデリピル)
mederi Pill(メデリピル)は最近CM等で注目を浴びており、専用のアプリを入れることなく、Lineで予約から診療まで済ますことができる。2019年8月に株式会社Mediriを設立後、わずか2年もたたず、ピルのオンライン処方サービス「mederi Pill」の提供にいたっている。
メディアでのPRに力を入れるだけでなく、他のサービスでは1000円~2000円程度必要な診察料金を無料で提供しており、斬新な価格設定をしているのも特徴的である。また、企業の福利厚生としての導入も進めている。
4.マイピルオンライン
マイピルオンラインは5分程度の電話診療で提供しており、時間がない人でも気軽に利用することができるサービスである。採血キットを送ることで定期検診を受けることができる。
運営はインターネットを用いた遠隔医療サービスの企画及び運営やシステム開発及び運営を行なっている株式会社オンラインメディカルケアが実施しており、2020年6月に設立された。
5.DMMオンラインクリニック
DMMグループが提供するサービスで、オンライン診療を受け、クレジットカードで支払うことによってDMMポイントが貯まるのが特徴である。ピル提供サービスの中でも比較的安価で、1日97円~服用できる。
7.Pills U
Pills Uはアプリ不要でオンライン診療、診察、決済、薬の配送まで行っているサービスである。24時間オンライン診療を提供しているのが特徴である。運営はルサンククリニックが実施しており、医療法人社団双葉会ルサンククリニックグループで診察をしている。
8. エニピル
エニピルは予約不要のピルのオンライン診療サービス。処方される医薬品名は現在のところHP等では公開されていない。
オンラインピル処方市場における課題
保険適用外のため対面診療・処方時の費用と比較して価格は高い傾向にある
オンラインピル処方では基本的に、診察を行うことはできるが、検査等ができない分診断まで行うことはできない。そのため、自由診療として扱われ基本的に保険適用外になる。値段としては1ヶ月2500円−3000円であり、また追加で1500-2000円程の診察料と配送料が必要となっている。
国内正規品ではない、海外から輸入した医薬品が流通していることがある
オンラインでのピル処方サービスが複数立ち上がってきた時期は、海外から輸入してきた医薬品を自社ブランドの医薬品として販売するケースも見られ、消費者の安全性に対して疑問がもたれる状況が存在していた。
現在では主要サービスはHPで国内で正規流通している医薬品を取り扱っている旨を公開するようになってきているため、業界として浄化されてきている状況にある。
しかし、現在でも一部のサービサーは、低用量ピル, アフターピル, 中用量ピル, ミニピルなどそれぞれで海外輸入してきた医薬品を利用するケースも存在している。
参入障壁が低いため、シェアの奪い合いが激しくなってきている
現在さまざまな企業が参入をしてきており、ピルのオンライン処方市場を一社が独占するシナリオは考えにくくなってきている。
オンライン診療を予約し、オンライン診療実施後にピルを3ヶ月 or 6ヶ月単位で定期処方し、配送する。というユーザー体験は差別化できるポイントはほとんどなく、マーケティングコストでの認知度勝負になってきている可能性が高い。
まとめ
以上、国内におけるピルのオンライン処方市場およびプレイヤーについてのまとめでした。Healthtech DBでは今後も成長市場であるピルやAGA領域なども含めたオンラインでの医薬品処方市場については継続的に記事として取り上げていく予定だ。