薬局業界のDXはどのように進んでいくのか?

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薬局業界のDXはどのように進んでいくのか?

薬局業界では本格的なDXが目前に迫っている

近年多くの業界で起こっている "DX"。デジタルトランスフォーメーションの略で、既存の業界構造を根本から変えてしまうようなデジタル技術の導入を意味する。

そんな中、今まさにDXが本格的に始まろうとしているのが薬局業界だ。大きな要因は、厚生労働省によるオンライン服薬指導関連の制度化が着々と進んでいることだ。

以前から薬局のあり方について、「対物」業務から「対人」業務への移行を提唱していた同省。2019年から限定的に解禁されたオンライン服薬指導。2020年4月には、新型コロナウイルスの感染拡大が収束するまでの間、初診時・新規処方薬剤・対面診療などにも適用可能とする通知が発信され、9月から実際に導入された。2022年には薬機法が改正され、この措置が恒久化されたほか、リフィル処方箋制度が開始。さらに、今年中にはリモート薬剤師の制度化が、来年には電子処方箋の導入が予定されている。

表. 厚生労働省による薬局DXに向けた法制化
(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000062239.html をもとに作成)

このように、厚生労働省がオンライン服薬指導・オンライン診療に関する制度づくりを急速に進めてきたことが、薬局市場DXの原動力となっている

また、今年9月上旬にはAmazonが日本で処方薬販売事業の展開を計画しているという報道が世を賑わせた[1]。既存の業態で対抗できるかという不安を持つ事業者も多く、薬局DXに関する現場の関心はますます高まっている

本記事では、薬局業界全体のDXがどのように進んでいくのだろうか?

薬局業界のDXで薬局の業務はどのように変化するか?

上述の通り、薬局業界のDXの軸はオンライン服薬指導である。その中で、DXで変化が起こる薬局の業務を具体的に整理すると、「配送」「薬歴記録」「在庫管理」の3つと考えられる。

オンライン服薬指導の導入で変わる調剤の流れ

今までの医療用医薬品は、消費者が医療機関を受診 → 薬局で処方箋を提出 → その場で薬剤師から服薬指導を受ける → 薬を受け取る、という流れで消費者のもとに届いていた。

一方、オンライン服薬指導を活用した場合の医療用医薬品の調剤は、消費者が医療機関を受診 → 医療機関から薬局に処方箋が送付される → 消費者は薬局薬剤師からオンラインで服薬指導を受ける → 薬局から薬が消費者の元に配送される → 薬を受け取る、という流れで行われる。

図. オンライン服薬指導を活用した調剤の流れ
(https://www.nichiyaku.or.jp/assets/uploads/pharmacy-info/onlinemedicationinstruction/20221007-06.pdf より)

上記の変化に伴って、日程調整・ビデオ通話・決済など、多くの情報を患者と新たにやりとりする必要が生じる。一連の業務を支援するオンライン服薬指導システムの導入は欠かせないものと考えられる。

配送業務の発生

特に従来の調剤システムと大きく異なる点として、薬を患者の元へ配送しなければいけないことが挙げられる。

この配送は、薬局という最終拠点から患者というエンドユーザーへ薬を届けることから、いわゆる「ラストワンマイル」にあたる。

近年EC市場への新規参入事例が増加している中で、送料無料・当日配送などの物流サービスによる他社との差別化が行われる場合も多く、ラストワンマイルは重要な領域として注目されている。

各地の薬局は、このような背景でラストワンマイル配送を得意としている企業と提携する可能性についても、考慮していく必要があるだろう。

薬歴記録:電子薬歴による業務効率化

また、薬局では薬剤服用歴(薬歴)の記録が義務付けられている。患者に適切な薬を提供するためにも、調剤報酬請求を適切に行うためにも必要で、重要度の高い業務である。

薬歴は紙媒体で管理されてきた歴史があるが、近年ではPCで記録する電子薬歴が普及している。処方歴・副作用歴・服薬指導歴などをデータベースとして一元的に管理することで、業務効率化に役立っている。

オンライン服薬指導やオンライン診療、電子処方箋などとの連携も考えられる領域であり、より機能性の高い電子薬歴を目指した競争が繰り広げられ、薬局での活用もさらに広まっていくものと考えられる。

在庫管理:需給予測をAIで解決できるか

薬局では在庫管理も重要な業務の一つである。

製薬企業から薬局に医療用医薬品が届くまでの過程には医薬品卸業者が関わっており、メーカーからの仕入れ・保管・薬局からの受注・配送などを担当している。つまり、薬局は多種多様な医薬品それぞれについて、自店の在庫を把握し、必要な処方量を予測した上で、医薬品卸業者に発注する必要がある。

図. 医療用医薬品がどのような流通経路で患者まで届いているか

この複雑な業務を課題としている薬局は多く、処方されないまま薬局に保管され続け、使用期限を迎え廃棄される医薬品(不動在庫)は額面にして年間数百億円に達するという記述もある。余剰在庫を抱えることは経営圧迫につながる一方で、突発的な需要に対応できる余裕も持っておきたいというジレンマに悩まされている薬局は多い。

この在庫管理業務の課題がDXで解決される可能性がある。例えば患者の来店状況・処方薬の種類や量・頻度などから需要を予測するAIなどが開発されている。上述の配送業務、電子薬歴の活用とも関連性の高い業務となっており、これらを一元的に管理できるシステムがあれば、薬局にとって大きな支えとなる。

消費者の中でオンライン服薬指導は定着するか?

上記の通り、薬局業界におけるDXでは、オンライン服薬指導を軸に、配送・薬歴記録・在庫管理をはじめとした薬局業務の改革が期待されている。しかし、薬局業界のDXは薬局だけで進むわけではない。利用者の中でオンライン服薬指導がどれだけ定着するのかも大切である。

結論としては、初期はあまり利用されないものの、オンライン診療の利用が高まれば、これに伴いオンライン服薬指導が定着する可能性が考えられる。

オンライン服薬指導の定着にはオンライン診療の普及が重要である

患者にとってオンライン服薬指導のメリットが最大となるのは、オンライン診療と併用したときである。

オンライン服薬指導の大きなメリットは、薬局を訪れることなく自宅で待ち時間なくオンライン服薬指導を受けられる点にある。逆にデメリットとしては、対面ではないため服薬指導のわかりやすさが損なわれる可能性がある点、薬が自宅に届くまでのタイムラグなどがある。

医療機関での受診を終えた後に薬を受け取る場合、医療機関の近くには多くの門前薬局が位置しているため、薬局で服薬指導を受ける負担はあまり大きくない。実際、デロイトトーマツのインターネット調査で、調剤薬局の利用者は受診医療機関からの近さ・待ち時間の短さ・店員の説明のわかりやすさを重視していたという結果もある(下図参照)[2]。したがって、この場合はオンライン服薬指導のメリットは小さく、デメリットが大きくなり、あまり利用されないものと考えられる。

調剤薬局を選択する際に重視する項目
(2021年6月、東京・愛知・大阪エリア在住者 5,648名に対しオンラインで行われた、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社・Emotion Tech社実施による調査結果をもとに作成)
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/mergers-and-acquisitions/articles/industry-eye60-20211116.html

逆に、オンライン診療後の服薬指導については、そのままオンラインで受けられる方が便利なことは明らかだ。オンライン診療自体も、精神疾患や皮膚科疾患など慢性的に安定している疾患を中心に徐々に定着していくものと考えられ、これに続いてオンライン服薬指導も拡大する可能性がある。

医療用医薬品のオンライン販売が起こったら

なお、医療用医薬品のオンライン販売が許可された場合、薬局DXの流れはさらに複雑化するものと考えられる。具体的には、医薬品ECサイトが薬剤師を採用し、オンライン服薬指導から配送までを一手に担う可能性がある。

2022年10月現在、オンライン販売の対象となっている医薬品は主にOTC医薬品と漢方薬である。両者とも専門のECサイトが展開されており、OTC医薬品についてはミナカラ社「ミナカラ」などが、漢方薬についてはPharmaX社「YOJO」・わたし漢方社「わたし漢方」などがある(下記記事参照)。

医療用医薬品のオンライン販売が解禁されると、すでにOTC医薬品や漢方薬におけるECサイト運営で知見を蓄えている企業や、Amazonなどの大規模なオンライン販売業者が処方薬局業界に参入する可能性があり、DXによる薬局形態の多様化がさらに進むと考えられる。

現在登場しているサービス

最後に、薬局業界DX・オンライン服薬指導の普及に伴い勢力拡大が予想される領域から、注目企業を数社ずつ紹介する。

領域

サービス名

運営企業名

オンライン服薬指導プラットフォーム

Pharms

株式会社メドレー

curonお薬サポート

株式会社MICIN

Musubi

株式会社カケハシ

ラストワンマイル配送

処方箋薬配送サービス「ARUU」

GENie株式会社

宅配ロボット「DeliRo」

株式会社ZMP

処方薬宅配ロッカー「PickUpDoor」

ウエルシア薬局株式会社
株式会社寺岡精工

電子薬歴

Medixs

株式会社アクシス

Musubi

株式会社カケハシ

医薬品在庫管理

Musubi AI在庫管理

株式会社カケハシ

9lione

株式会社9lione

オンライン服薬指導プラットフォーム

Pharms

https://pharms-cloud.com/

「患者とつながる、地域とつながる、業務がつながる」をコンセプトとした、かかりつけ薬局支援システム。

オンライン服薬指導・服薬フォローアップなどの患者コミュニケーション機能を備えているほか、自社のオンライン診療システム「CLINICS」、自社・他社の電子お薬手帳、アクシス社の電子薬歴「MEDIXS」などとの連携も可能。薬の配送機能も外部運送業者との連携で提供されている。

運営企業:株式会社メドレー

curonお薬サポート

https://curon.co/pharmacy/medguide

予約、ビデオ通話によるオンライン服薬指導、決済、配送など、一連の流れをオンラインで完結しているサービス。

自社のオンライン診療サービス「curon」を導入している6,000軒以上のクリニック・病院と連携できるほか、電話診療や他社オンライン診療サービスを受診した患者もアプリ不要で手軽に利用できることが魅力。オンライン服薬指導・服薬フォローアップ機能のほか、患者一覧・決済総額などの月次レポートが提供されている。薬の配送も外部運送業者が担当している。

運営企業:株式会社MICIN

Musubi

https://musubi.kakehashi.life/

薬局・薬剤師と患者、双方の薬局体験をより良く変える、次世代型の業務支援サービス。

電子薬歴・服薬指導ツールとしてスタートした同サービスは、今では薬局経営“見える化”クラウド「Musubi Insight」、おくすり連絡帳「Pocket Musubi」、医薬品在庫管理・発注システム「Musubi AI在庫管理」などと連携可能になっており、複合プロダクトとして薬局DXのトータルサポートを実現している。

運営企業:株式会社カケハシ

ラストワンマイル配送

ラストワンマイル配送については、トラックでの配送や郵送だけでなく、ドローンや配送ロボット、処方薬受け取りロッカーなど多数の手段が存在する。

処方箋薬配送サービス「ARUU」

https://www.aruu.info/

安心安全に処方薬を患者の自宅まで届けるサービス。「地域の隅々にまで目を向け、生活者の小さな困りごとを解決できる“ハーティスト”」が配送しており、頼れる地域のコンシェルジュとして認知されている。

運営企業:GENie株式会社

宅配ロボット「DeliRo」

https://www.zmp.co.jp/products/lrb/deliro

荷物を入れるボックスを搭載し、自動運転技術を応用した宅配ロボット。自律移動可能なロボット、ユーザー用・店舗用アプリ、ITサービスをパッケージとして提供している。

運営企業:株式会社ZMP

処方薬宅配ロッカー「PickUpDoor」

https://www.teraokaseiko.com/jp/news/news-release/2021/20210510073733/

24時間好きな時間に処方薬を受け取ることができるロッカー。2023年2月までに、ドラッグストア最大手のウエルシアホールディングスの店舗260店に設置される予定だ。

運営企業:ウエルシア薬局株式会社・株式会社寺岡精工

電子薬歴

Medixs: 運営企業:株式会社アクシス

高効率な薬歴作成を得意とした、クラウドを利用する薬歴。入力補助機能を備えるほか、iPadでも使用可能で訪問調剤時にも利用できる。

Musubi: 運営企業:株式会社カケハシ

オンライン診療プラットフォームの項で紹介した通り、薬局DXをトータルサポートしているカケハシ社のサービス。

医薬品在庫管理

Musubi AI在庫管理

https://musubi.kakehashi.life/ai-zaiko

オンライン診療プラットフォームの項で紹介した通り、薬局DXをトータルサポートしているカケハシ社のサービス。AIによる発注おすすめリストでの半自動発注が可能で、最短3クリックで発注が完了するという簡単さが評価されている。

運営企業:株式会社カケハシ

9lione

https://www.9lione.net/

煩雑な医薬品管理をカンタンに行える「クラウド医薬品管理システム」。薬剤師・医療従事者が考案した、臨床現場に即したデザイン臨床現場に即したデザインが魅力。

運営企業:株式会社9lione

まとめ

  • 厚生労働省によるオンライン服薬指導・オンライン診療に関する制度策定を経て、薬局DXが本格的に始まろうとしている。
  • 薬局DXの軸はオンライン服薬指導で、これに伴い各薬局にラストワンマイル配送事業を展開する企業との提携の可能性が生じ、薬歴記録・在庫管理業務のデジタル化促進が見込まれる。
  • オンライン服薬指導は急速に普及することはないと考えられるが、徐々にオンライン診療が広まれば定着する可能性はある。
  • 医療用医薬品のオンライン販売が開始された場合、OTC医薬品や漢方薬のECサイトを運営している企業がオンライン薬局として勢力を伸ばす可能性がある。

参考文献

  1. Amazon eyes Japan's online prescription drug market | Nikkei Asia | https://asia.nikkei.com/Business/Health-Care/Amazon-eyes-Japan-s-online-prescription-drug-market
  2. Industry Eye 第60回 ライフサイエンスセクター:調剤薬局の環境変化と患者の意識調査~患者から必要とされる薬局とは~|デロイト トーマツ グループ|Deloitte | https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/mergers-and-acquisitions/articles/industry-eye60-20211116.html 

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