製薬企業のDX!? 押し寄せるデジタル化の波
- あらゆる分野で叫ばれているデジタル化の波は、着実に製薬企業にも押し寄せています。
- 薬剤費の抑制する動きや大型新薬の減少など、製薬企業を取り巻く厳しい環境もこうした動きを後押ししています。
- 本稿では、デジタルヘルスの流れを受けた製薬企業の取り組みをいくつか紹介するとともに、製薬業界の今後のあり方を考察していきます。
製薬業界の厳しさ
- 医療費増大は大きな問題として認識されており、そうした医療費抑制の矛先は真っ先に薬剤費に向かっています。実際に厚生労働省で2年に1度行われる薬価改定では、毎度大幅な薬価引き下げが行われています。
- 加えて、後発医薬品(ジェネリック医薬品)適用が拡大していることも併せて、製薬業界は従来の事業で生き抜くことが厳しい状況に追い込まれています。
- 新規事業を模索する中で、デジタルテクノロジーの導入が進んでいます。製薬企業とデジタルテクノロジーの連携モデルは①デジタルテクノロジーを用いた従来のビジネスの効率化、②IT企業との連携による新規事業領域の開拓の2つに分類することができます。
- 以下では、実際の製薬企業のIT導入の事例を紹介していきます。詳しくは、こちらのページに詳しくまとめられています。
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/19108/
製薬企業でのデジタルヘルス応用事例
Concept Encoder(FRONTEO×武田薬品工業)
https://www.fronteo.com/20200325
https://www.fronteo.com/20191202
画像出典:https://lifescience.fronteo.com/technology/conceptencoder/
- Concept Encoder は、FRONTEOが独自に解析し、武田薬品へ提供している自然言語処理AIシステムです。
- 製薬会社側には、日々更新される論文や公開データベース情報にアップデートし続けることがかなりの労力を要するというペインがあります。Concept Encoder は、仮説や知りたい情報の入力に対して最新の論文やデータベースを出力することで、従来割かれていた時間・労力的リソースを大幅に削減します。
- また、FRONTEOと武田は、岩手医科大学と共同で、Concept Encoder を医師の所見記録や看護師の指示などの日本語文を解析する用途に用いることで、患者ごとに個別化したパーキンソン病治療の研究も行っています。
AKL-T01 / AKL-T02(塩野義製薬×Akili)
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=69469
画像出典:https://gogotamu2019.blog.fc2.com/blog-entry-467.html?sp
- 塩野義製薬は注力する研究領域の1つとして精神疾患を挙げており、発達障害に関してもこれまでに医薬品開発を行ってきた企業です。
- 塩野義製薬は2019年に、医学的な効果のあるアクションゲームを開発しているベンチャー企業アキリから、ADHDの治療を目的とするゲーム、AKL-T01と、ASDの治療を目的とするゲームであるAKL-T02の日本・台湾での販売権を購入しました。
- AKL-T01は、複数の課題を同時に処理することを利用者に課することで前頭葉を刺激し、ADHD症状の改善を図るデジタル治療用アプリです。AKL-T02はASDの不注意傾向の改善を目的とする治療用アプリとして、ASD専門家の監修の下で開発されたアプリです。
- この提携によって、ベンチャー企業であるアキリとしては新たな販売路の確保ができ、その一方で塩野義製薬としてはデジタルヘルスへの参入が可能となりました。
- 塩野義製薬は、精神疾患と並ぶ注力する開発領域として感染症を挙げており、この領域ではインフルエンザの早期診断医療機器の開発を行っているアイリス株式会社に出資しており、やはり精神疾患と同じく薬剤の領域を超えて、新たな形の治療法への参入を行おうとしていることが見て取れます。
BlueStar(アステラス×Welldoc)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52478290S9A121C1000000/
画像出典:https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20190423150000_845.html
- BlueStarは、成人の 1 型および 2 型糖尿病患者を対象とした、自己管理支援のためのデジタルヘルス製品です。
- 本製品は、患者が入力した血糖値などのデータに基づいて、バランスの良い食事の提示や適度な運動の推奨など、個別化されたコーチングメッセージを送信します。
- アステラスは、日本デジタルセラピューティクス推進研究会に加入しており、他にもバンダイナムコエンターテインメントと連携して運動習慣の支援アプリを作成するといった事業も展開しています。
MENTAT(大塚製薬×IBM)
画像出典:https://www.mentat.jp/jp/service/
- MENTAT は、抗精神病薬などの精神科領域の治療薬の開発に取り組んできた大塚製薬が、IBMと設立した合弁企業である大塚デジタルヘルスによって開発された製品です。
- 精神科特有の数値化しにくい情報が自由に記載された電子カルテは、医師にとっては必要な情報の抽出が難しいというペインがありました。
- MENTATは、自然言語処理技術を用いてそうした情報を整理・分析し、医療現場や病院経営に役立つ情報出力するプロダクトです。
- これまでは属人的なものであった医師の診療が、MENTATにて出力された情報を参照することで安定して良質なものとなることが見込まれます。
医療・介護ICT(エーザイ×アルム)
https://www.eisai.co.jp/news/2019/news201931.html
画像出典:https://www.allm.net/team/
- エーザイは、2019年に医療・福祉分野でのICTソリューションを提供している、アルムとの資本業務提携契約を締結したと発表しました。
- エーザイは中期経営計画EWAY2025の中で、ビッグデータ解析やAIを活用することで「Medico Societal innovator(薬とソリューションで社会を変える企業)」を目指すというおり、特にこれまでのノウハウの蓄積のある認知症に注力し、「認知症エコシステム」の構築を目指しています。
- そのためには地域の多くのステークホルダーの協働が必須であり、そのためにアルムの持つ「Team」や「Join」などの地域包括ケアアプリが有用であり、この資本業務提携が締結されたと考えられます。
認知症デジタル医療機器(大日本住友製薬×Aikomi×損保ジャパン)
https://www.ds-pharma.co.jp/ir/news/2019/20190208.html
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=69698
画像出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01220/00002/
- 大日本住友製薬株式会社とAikomiは、認知症に伴うBPSDを緩和させることを目的とした次世代デジタル医療機器に関する共同研究契約を2019年に締結しました。その後、2020年に損保ジャパンが加入し、三者による事業連携が行われています。
- 大日本住友製薬は、精神神経領域、がん領域、再生・細胞医薬を3つの研究重点領域としており、これらの領域での医薬品開発を行ってきたと共に、創薬以外の領域をフロンティア領域として、新たな事業の開拓を目指しています。
- Aikomiは、認知症に対する持続的なソリューションの提供を目指して設立されたデジタルヘルステクノロジー企業であり、認知症の方とのコミュニケーションを促進する技術プラットフォームの開発に取り組むベンチャー企業です。
- 損保ジャパンは、軽度認知障害(MCI)の早期発見や認知機能低下予防など、介護領域についての強みを有しており、これら3者の協働によって認知症への個別化サービスの提供を目指しています。
製薬企業のDX
- 現状は製薬企業にとって逆風が吹いている状態と言え、製薬企業は着実に変化を迫られています。そのため、従来の新薬開発のみならず、ヘルスケアや予防の領域に参入する製薬企業が増えてきています。
- 従来の新薬開発においても、ヘルスケアや予防などの新規参入事業においても、デジタルテクノロジーを有するIT企業との連携が不可欠です。
- 従来の製薬事業では、臨床試験から製品化までの一通りのプロセスが完全に決まっているため、全てを事前に決めてから新薬の開発を開始します。
- その一方で、ITベンチャーの事業領域では、「リーンスタートアップ型」と呼ばれる、最初にプロダクトを作った後にその製品を使いながら改善を試みていくというスタイルがメジャーです。
- こうしたお互いの文化の違いを事前に把握し、うまく連携がとれるかということが重要になってくるでしょう。