医療品卸大手4社のベンチャー出資事例を調べてみた

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医療品卸大手4社のベンチャー出資事例を調べてみた

医薬品卸事業者によるヘルスケア市場への投資が進む

2020年4月1日スズケンがエンブレースの株式を取得し子会社化した。

スズケンは医薬品の卸売・物流、医療機器の製造・販売を手がけている。また、 エンブレースは医療介護のソーシャルプラットフォームを提供する企業であり、医療・介護従事者と家族のコミュニケーションツール「メディカルケアソリューション(MCS)」を運営している。

スズケンはなぜ医療品卸売業とは分野の違う事業に投資したのだろうか。医療品卸業の存在感は日本のヘルスケア市場においてとても大きい。大手4社(メディパル、アルフメッサ、スズケン、東邦HD)の時価総額は合計で1兆5000億円にもおよぶ。

そこで4社のヘルスケア関連領域への投資事例やM&A事例をリストアップし分析し、今後国内の医薬品卸業界がどのように変革していくのかを検討していきたい。

今回取り上げる大手医薬品卸企業4社

本記事では、以下の4社の投資事例をリストアップし、傾向の分析を行う。

メディパルHD

  • 医薬品、化粧品、日用雑貨、食品加工原料を主に扱う卸売企業である。
  • 資本金:223億9800万円
  • 約5000社の企業の製品を取り扱い、病院、薬局、スーパーマーケット、加工食品メーカーに供給している。

アルフレッサ

  • 医療用医薬品、医療機器、医療用検査試薬、介護用品、健康食品、一般用医薬品等の卸売販売を行なっている。
  • 資本金:40億円
  • 物流だけでなく、医療機関向け総合サービスサイト「alf-web」を運営し、医療機関の支援、診療報酬や医療機器に関する情報発信も行なってる。

スズケン

  • 医療用医薬品、試薬、医療用機器、医療材料、食品などの販売、ならびに医療用機器の開発を行なっている。
  • 資本金:223億9800万円
  • 希少疾患領域の総合支援事業にも取り組んでいる。医薬品卸としては初の試み。また、医薬品物流事業を韓国にも展開している。

東邦HD

  • 医薬品卸売事業、調剤薬局事業、医薬品等製造販売事業、臨床試験受託・支援事業などを行なっている。
  • 資本金:106億4900万円
  • 国内のみならず韓国、中国の上海、青島でも医薬品卸売業を拡大している。

ここで、4社のヘルスケア関連領域のスタートアップへの投資事例やM&A事例をリストアップし、今後国内の医薬品卸業がどのように変化していくのかを考えてみたい。

主要4社の過去5年の投資・M&A実績

メディパルHD

2016年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

JCRファーマ株式会社

医薬品の研究開発。

開発を支援し、製品化されたのちに自社の流通と用いて普及促進を行う。

株式会社エムティーアイ

医療、生活情報コンテンツの配信事業。

メディパルHDの流通・販売網とエムティーエムの情報網を組み合わせて事業発展に挑む。

株式会社ファンペップ

大学発ベンチャーによる医薬品の研究開発。

開発を支援し、製品化されたのちに自社の流通と用いて普及促進を行う。

2017年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

大塚倉庫株式会社

医薬品の流通を行なっている。

物流資材(トラック・コンテナ等)を共同利用化することによって医薬品供給のさらなる効率化と安定化を行う。

株式会社スコヒアファーマ

武田薬品工業株式会社、株式会社産業革新機構と共同出資で設立した創薬ベンチャー。

治療薬開発と製品の流通促進を行う。

JCR USA Inc.

JCRファーマ株式会社と米国にて新たに設立。

共同開発中の医薬品の臨床試験を米国で行う。

2018年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

クリニカル・プラットフォーム株式会社・株式会社エムティーエム

電子カルテの開発を共同で行っている。

メディパルの営業力を活かすことでクラウド電子カルテの普及促進を行う。

株式会社カラダメディカ

医師、看護師、薬剤師による健康相談サービス「CARADA健康相談」を運営している。

医療のICT化を促進するためにオンライン診療や電子カルテのためのヘルスケアプラットフォームの構築を行う。

2019年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

株式会社Doctorbook

「患者が主体的に治療選択肢を知る」ための意思が発信する医療情報メディア

医療情報ポータルサイ ト「Clinical Cloud by MEDIPAL」を構築する

DPネットワーク株式会社

医薬品専門運送会社

製薬企業→医薬品卸が専門のDPネットワークと医療卸→医療機関が専門のメディパルが連携することでより効率的な流通を目指す。

Promethera Biosciences S.A.

新薬の治療開発。

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2020年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

Heartseed株式会社

大学発ベンチャーによる新規治療開発(再生医療)

メディパルが持つ再生医療等製品の流通に関する経験とノウハウを活用し、製品開発の推進を行う。

2021年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

株式会社ソラミチシステム

クラウド薬歴事業

医療・ヘルスケア領域のICT化を普及促進し、ヘルスケアプラットフォーみの構築を行う。

SBIインベストメント株式会社

AI、ブロックチェーンなどの次世代産業への投資に力を入れている投資会社

ファンド設立によって希少疾患の医薬品開発の投資を活性化させる。

アルフレッサ

2017年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

株式会社日本アポック

調剤薬局事業

アルフレッサの子会社である調剤薬局と事業の共同化を行うことで、流通の合理化を行う

2020年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

株式会社日本アポック

調剤薬局事業

アルフレッサの子会社である調剤薬局と事業の共同化を行うことで、流通の合理化を行う

株式会社エクスメディオ

医師の情報共有プラットフォーム「ヒポクラ×マイナビ」の開発・運営

医薬品卸業界最大規模の流通ネットワークと情報提供プラットフォームを組み合わせて新たな情報共有プラットフォームを作る。

ヒューマンライフコード株式会社

再生医療による新規治療研究開発

新たに開発された再生医療等製品の安定的な流通体制の確立

ファーマバイオ株式会社

再生医療等製品の開発・製造

新たに開発された再生医療等製品の安定的な流通体制の確立

株式会社遺伝子治療研究所

遺伝子治療技術の研究開発および治療薬の開発

遺伝子治療の開発支援、製品の輸送手段の構築

株式会社インテグリティ・ヘルスケア

オンライン診療システムの構築

オンライン診療と医薬品・医療機器の流通を組み合わせた仕業拡大を行う。

株式会社メトセラ

再生医療等製品の研究開発

新たに開発された再生医療等製品の安定的な流通体制の確立

2021年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

ドーナッツロボティクス株式会社

ロボット技術開発や翻訳技術などのIT技術開発

次世代技術を扱う企業と連携を組むことによってウェアラブルデバイスやオンライン診療などの新規事業領域への拡大を試みる。

スズケン

2016年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

株式会社ポクサンナイス

韓国での医薬品流通事業

医薬品卸事業を韓国に拡大

2017年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

ヤマト科学株式会社

李科学研究機器メーカー

医薬品流通技術の開発・製造の委託

株式会社EPファーマライン

EPSホールディング株式会社と共同で設立

医薬品の営業委託・コンタクトセンターサービスの拡充

2019年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

株式会社Welby

PHR(Personal Health Record)(個人によって電子的に管理される医療情報)サービスの提供

PHRを活用して、スズケンの流通先である医療機関の治療効果向上と業務効率化のために技術開発を行う。

株式会社TSファーマ

東邦HDと共同設立

安価で高品質な後発医薬品の安定供給

2020年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

ドクターズ株式会社

医師×ITによりデジタルヘルスサービスの構築・流通・販売を支援する。

デジタルヘルスケアサービスと提供する企業と連携することで医療プラットフォームを構築・運用する。

サスメド株式会社

不眠症治療アプリの開発、ブロックチェーンを用いた臨床開発支援システムの開発

スズケンが開発する新技術のデータ管理や分析をサスメドと行い、開発の効率化を図る。

2021年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

エンブレース株式会社

医療介護専用SNS「メディカルケアステーション(MCS)」の運営

物流ネットワークとMCSの医療者ネットワークを融合することで双方の事業拡充を行う。

東邦HD

2016年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

大洋薬品グループ

西日本を中心とした後発医薬品の卸売企業

西日本における営業力の強化

株式会社エムコム九州

九州エリアの医薬品卸売事業

九州エリアにおける営業力の強化

株式会社大正堂

三重県を中心とした後発医薬品の卸売事業

三重県における営業力の強化

2017年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

有限会社日豊メディック

宮城県を中心に後発医薬品をメインに取り扱う医薬品卸会社

宮城県における営業力の一層強化

2018年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

株式会社アビシオン

新規治療薬開発

開発支援、新たに開発された検査キットの安定的な販売・流通体制の確立

へカバイオ株式会社

新規治療薬開発

開発支援、新たに開発された検査キットの安定的な販売・流通体制の確立

2019年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

株式会社TSファーマ

スズケンと共同設立

2020年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

Drawbridge Health Inc.

臨床検査用血液サンプルを簡便に採取・輸送できる採血デバイス

開発した採血デバイスを国内で流通させる。

エンタッチ株式会社

医薬品の有効性や安全性など医師が求める情報提供をライブで行っている

コロナ渦に対応したMR業務の強化

クリングルファーマ株式会社

新規治療開発を行う大学発ベンチャー

新規治療薬の卸売販売流通を行う。

2021年

投資・M&Aした企業名

事業内容

今後目的

株式会社キュービクス

癌検査キットの大学発ベンチャー

新たに開発された検査キットの安定的な販売・流通体制の確立

投資・M&A実績から推定できること

過去の投資・M&A実績から、医薬品卸業界の今後の事業拡大に関しては以下のことが考えられる。

  • 新規治療の開発支援に力を入れるとともに、その治療デバイスが製品化された後は流通を支援、促進する。
  • オンライン診療などのデジタルケアサービスに参入することによって医療製品の流通の効率化と促進を目指す。
  • 国内のみならず韓国・中国などのアジアにおいても医薬品卸業の拡張を目指している。
  • 地域密着型の企業と提携することで後発医薬品の流通・営業力の強化する。
  • コロナ渦の中でも営業活動を持続していくために、オンラインでのMR活動を拡充していく。

今回見てきた主要4社は医療品卸売業だけでなく、医療製品の開発から新製品の普及にまで力を入れている。また、オンライン診療や情報提供プラットフォームの構築に参入することで新たな医療サービスへ進出する動きもある。さらにコロナ渦の影響で、医薬品の営業がオンライン化したこともあり、医療者向けのポータルサイト運営などの情報発信事業も活発化してきている。

これらのことから医療品卸業界は今後、従来の業務のみならず新規治療開発、次世代の診断、診察システムの構築、国内にとどまらないグローバルな流通システムの確立に挑んでいくことが考えられる。

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