マイナンバーと紐づいたPHRのメリットは?

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マイナンバーと紐づいたPHRのメリットは?

PHR(Personal Health Record)は個人の医療健康情報を記録したものである。これと現在政府が普及を進めているマイナンバーを紐付ける動きが活発化している。この記事ではマイナンバーによってPHRがどう変化していくかについて考察していく。

PHRの普及は今後も進む

PHRとはなにか?

PHRとはPersonal Health Recordを略したもので、個人が生涯に渡って保持する医療健康情報のことである。
日本では厳密な定義はなされていないが、厚生労働省は「国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会」において”個人の健康診断結果や服薬歴等の健康等情報を電子記録として本人や家族が正確に把握するための仕組み”と説明している。
PHRは、従来病院や薬局ごとに蓄積されていた個人の健康・医療・介護に関する情報を統合・一元的に管理する。これにより医療の質の向上と同時に生涯にわたる健康増進や疾病予防、健康への意識改善を図ることができる。
高齢化が著しい日本で、健康寿命を伸ばし、医療費を抑制するための施策として期待されている。

PHRに含まれる情報は以下の通り。

  • 医療機関の情報(診察、検査データ、薬剤歴)
  • 健診・検診情報(特定健診、がん検診、学校健診など)
  • 個人のライフスタイル(運動習慣、食習慣、飲酒、喫煙、睡眠時間など)
  • 予防接種歴
  • バイタルデータ(体温、血圧、血糖値など)

IoTやウェアラブルデバイスの普及により、PHRの基盤が整いつつある

スマートフォンやウェアラブルデバイスの普及により、個人のライフログや、血圧、心拍数、体重などのバイタルデータを簡単に収集、確認することができるようになった。これまでのPHRサービスは個人の健康管理ツールに留まっていたが、近年は医療機関との連携やAIを活用した治療を目的としたツールが登場している。

マイナンバーの持つ2つの役割

①共通IDとしての機能

マイナンバーは法律上では個人番号と呼ばれ、全国民が異なる12桁の番号を持ち、個人を識別することができる制度だ。
これまで保険証の被保険者番号や基礎年金番号、住民票コードなどそれぞれの行政機関で個人に番号を振り分けており、個人情報のやりとりに手間がかかっていた。マイナンバーは「社会保障」、「税」、「災害対策」において効率的に情報を管理し、複数機関が保有する個人情報が同一人物の情報であることを確認するための共通したIDとして活用される。
またカードだけではなくデジタル化も進んでいる。例えばデジタルIDアプリの"xID"を用いるとオンラインで簡単に本人確認、本人認証、電子署名を行うことができるようになった。現在オンライン本人確認(eKYC)では本人確認書類と顔写真の撮影が使われているが、マイナンバーによってステップが簡略化され、改ざんなどのセキュリティリスクも下げられる。

②オンライン資格確認等システム

2023年から医療機関においてオンライン資格確認が始まっている。これは患者の被保険情報を確実かつ円滑に確認するという制度だが、資格情報だけなく、特定健康診査情報、薬剤情報といった診療情報も登録できる。このため公的なPHRとしての役割が期待される。患者の同意の上で医師等が確認し診療に活かすことができるようになるのはもちろん、患者自身もマイナポータルを通じてこれらの情報を見ることが可能だ。

母子手帳アプリでの取り組み

では、実際にマイナンバーとPHRを紐付けたときの利点を具体例を交えながら説明していこう。

これまでの紙の母子手帳に加え、電子母子手帳アプリを導入している自治体が増加している。母子手帳アプリには子どもの成長の記録、予防接種スケジュールの通知、子育てに役立つ知識やイベント情報の配信などの機能がある。

母子手帳アプリにマイナンバーの公的個人認証機能を用いると、自治体が管理する乳幼児健診の結果や予防接種履歴を自動的に取り込むことができるようになった。自治体が独自のサーバーを構築している他、マイナポータルとの連携も視野に入っている。さらに転居した時に母子手帳アプリが異なる場合でも、マイナンバーによって自治体間での情報のやり取りが円滑になるため、情報管理が確実・効率的になる。

東京都練馬区「ねりますくすくアプリ」

練馬区で提供されている「ねりますくすくアプリ」では本人確認を行うと、区が管理する乳幼児健康診査や予防接種履歴を自動的に取り込める機能が提供されている。
これまで練馬区から発行されるQRコード+ID/PW入力によって本人確認がなされていたが、前述のxIDアプリを使ったマイナンバーによる本人確認が始まった。そのため都度のID/PW入力とQRコードの読み取りが、スマートフォンの生体認証のみでログイン可能となった。

お薬手帳アプリでの取り組み

お薬手帳アプリは大手薬局をはじめとして各社独自のアプリをリリースしており、代表的なPHRとして広く普及している。紙のお薬手帳同様に服薬歴を記録できるのはもちろん、以下のような機能を搭載するサービスが多い。
・処方箋の写真を事前に送信することで待ち時間の減少
・対応薬局での調剤歴は自動で反映
・対応外の薬局はQRコードの読み取り/手入力で記録
・薬の服用スケジュールを通知
・血圧・体重などを記録、グラフ化
・薬剤師などとの相談チャットサービス
・薬剤情報の検索

お薬手帳アプリのデメリットとしては、薬局ごとに対応するアプリが異なること、患者のスマートフォン操作能力に依存することが挙げられる。

日本調剤「お薬手帳プラス」

日本調剤は2022年11月からマイナポータルとの連携を開始した。これまで他薬局で処方された薬に関してはQRコードや手入力で記録する必要があったが、マイナポータル上にある複数の医療機関・薬局で調剤された薬剤情報データをお薬手帳アプリ内で一元的に閲覧・管理できるようになる。同時に日本調剤の薬剤師も取り込まれた薬剤情報を確認でき、確実な服薬状況の把握につながる。

「EPARKお薬手帳」

EPARKお薬手帳も、2022年12月からマイナポータルとの連携を始めた。過去の薬剤情報だけではなく、特定健診結果・予防接種歴も取得することができるため、医師や薬剤師がより多くの情報をもとに処方を行うことができるようになる。

電子処方箋との連携も視野に

2023年1月から電子処方箋が開始され、お薬手帳アプリも順次対応していくと考えられる。薬局に行かなくとも処方を受けることができ、オンライン診療の発展が進みそうだ。オンライン診察からオンライン服薬指導、薬の配送まで一貫した体制を構築することができ、その履歴はマイナンバーによって自動で記録される。これら1つ1つのシステムをつなげる役割としてマイナンバーの果たすものは大きい。

糖尿病アプリで取り組み

PHRは慢性疾患に対して特に大きな効果が期待できる。特に生活習慣が大きく関わる糖尿病を始めとした生活習慣病はライフログのみならず治療を目的としたアプリなどPHRの枠組みを超えたものも登場しつつある。
現在の糖尿病アプリは日々の血糖値を記録し、グラフ化して本人や医師が確認することができる。また血糖コントロールに重要な食事内容や運動の記録も行うサービスがある。
マイナンバーを紐付けた場合、病院で測る血糖値以外の検査値(HbA1c 、尿検査等)の情報も取り込むことができるようになるだろう。血糖値の推移と比べることで投薬、生活指導を細かく変えられるので、合併症予防につなげることが期待される。
例えば、糖尿病性腎症は透析導入の第1位として長年問題になってきたが、他機関で行った尿検査のデータを追加することで過去のアルブミン尿やeGFRデータから早期発見につなげられれば、透析患者を減らすことができる。

マイナンバーとPHRの連携に関する政府の指針

厚生労働省はPHRの基盤となるインフラを国・自治体・公的機関が整備するとしている。同時に日々の健康データを活用するために民間企業とも協調を図っており、マイナポータルAPIを主軸とした環境整備を進めている。令和3年4月には総務省、厚生労働省、経済産業省の3省合同で民間PHR業者の情報取り扱いに関する基本指針を発表した。指針では情報セキュリティ対策、個人情報の適切な取扱い、健診等情報の保存及び管理並びに相互運用性の確保の3つにおいて、PHR業者が遵守すべきルールを定めている。
さらに2022年6月16日には「PHRサービス事業協会(仮称)」の設立が宣言された。PHR事業者に加えて製薬、情報通信、保険など幅広い分野の全15社が揃う。大企業だけではなく、ベンチャーも参加し、今後2023年度早期の設立を目指す。PHRサービス事業協会は健康・医療に関する様々な主体が持つデータを効果的に利活用するための標準化や、PHRサービスの品質向上を促進するためのルール整備などについて検討するとしている。
現在のPHRは各々の業者が開発しているためフォーマットが異なり、情報共有が難しいという問題点を抱えている。各企業や機関が抱える情報を効率的に共有し、相互運用性を確保する施策に注目したい。

まとめ

予防医学や社会保障費の抑制の観点からPHRの重要性はますます高まっていくだろう。
PHRをマイナンバーと紐付けることで、①セキュリティ ②情報の相互運用性 が高まると考えられる。
そして、マイナンバーの持つ本人確認機能により企業の本人確認コストと利用者の入力の手間を減らすことができ、マイナポータルの連携とそれに付随した環境整備によって情報の連携も進む。
政府主導で大枠の仕組みを作っていくことでデベロッパーもユーザーも享受できるメリットは大きい。
マイナンバーカードの交付率は75%を超え(2023年3月5日現在)、課題だった普及率の低さは改善している。より効果的、効率的なサービスのためにマイナンバーを活用するPHRは増えていくのではないだろうか。

京都府立医科大学6年生。公衆衛生に興味があり、社会の健康問題を解決できるようなキャリアを目指す。趣味は旅行とF1観戦で、ソニーのミラーレスを愛用中。