視力に代わる感覚デバイス SYN+で拓けた未来: 株式会社Raise the Flagインタビュー

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視力に代わる感覚デバイス SYN+で拓けた未来: 株式会社Raise the Flagインタビュー

視力に代わる感覚デバイス「SYN+」で拓けた未来~“視覚障害の世界を変える”旅路の途中で~

これまで医療ヘルスケアの共創プラットフォームとして、様々な情報を発信してきた「Healthtech DB」。この度、より有益でアトラクティブなメディアをめざし、第一線で活躍する方々のインタビュー企画をスタート。今回インタビューさせて頂くのは、ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト 2022でグランプリを受賞された株式会社 Raise the Flag.の中村 猛CEOです。

社内外の熱いメンバーに支えられたRaise the Flag.

―はじめに株式会社 Raise the Flag.さんの体制やミッションについて教えてください。

私たちは2017年5月に創業した会社で、3名ほどの社員が中心となって事業を進めています。ミッションは「視覚障害の世界を変える」ということ。会社の規模に比べて壮大なミッションかもしれませんが、幸い社外にも熱い気持ちを持ったパートナーがいますので、ここまで来ることができているのかなといった印象です。

―社外にはどんな人たちが揃っているのでしょうか?

エンジニアやデザイナー、コピーライターなど様々です。特に創業期なんかは雇うお金が無いどころか、むしろ「私たちに投資してください」というスタンスに近かったわけですが、それでも「ぜひ俺にやらせてくれ」と言ってくださる方が多くて。ありがたいことに、気が付けば15名くらいのチームになりました。

―その中で、何か印象的だったエピソードはありましたか?

そうですね、後にも話しますが、私たちが開発した感覚デバイス「SYN+(シンプラス)」のネーミングには長いこと全員で悩み続けました。コピーライターの方にお願いして案出しをしてもらっていたのですが、毎週出てくる声はダメ出しばかりで。徐々に私としても申し訳なさが募ってきて、ある日そのコピーライターを飲みに誘って、正直に「何度も何度もやり直しばかりでごめんね」と謝りました。ただ、その時に「僕はコピーライターなので、言葉の部分でしかこの商品に力を課すことができません。ですから、何百回でも何千回でも納得いくまでやり直しますよ!」と言っていただいたんです。その熱さには本当に胸を打たれましたね。

なぜ視覚障害者支援に行き着いたのか

―少し話を巻き戻すようですが、そもそもなぜ中村さん達は視覚障害者支援を事業にしようと思ったのでしょうか?

会社を立ち上げる前の私は、高級品の営業職をしていました。そこから独立をするわけなのですが、「町の中で役立つものを作りたい」と思っていまして。最初は農業の世界に着目して、それはそれで大手企業さんとも手を取り合って順調に準備を進めていたんです。

ただちょうど会社組織への移行を考えていたタイミングでしょうか、たまたたま街中で視覚障害者の方を目にしたんです。その方は駐輪場に自転車を停めようとしていたのですが、いかんせん目が見えないわけですから並んだ自転車の列に突っ込んでしまって。瞬く間に自転車はなぎ倒しになるわけですが、それも目が見えないから戻すことができない…。結局自分が手を差し伸べる前に、近隣のお店の方などが手伝ってくれていたのですが、その光景が一つにはショッキングだったんです。

―なるほど確かに街中での不自由は未だ大きい現実がありますね。

はい、そうなんです。その夜にはたまたま「視覚障害を持った方が駅のホームに転落して亡くなった」というニュースを見て、私の中には「これはどうにかしないといけない」という思いが一気に強くなりました。だって、世の中を見渡せば車の自動運転が可能になってきたり、ロボットが自在に動いて宙返りしたり、要はそういう時代に来ているのに。視覚障害者を手助けするツールは、何十年も杖と盲導犬に頼るばかり。これはもうやらない理由が無いわけです。

「みずいろクリップ」そして「SYN+」の開発へ

―創業から5年になるわけですが、画期的な商品を世に出されていますね。

ありがとうございます。最初に発売したのは「みずいろクリップ」という商品で、視覚が不自由でも任意の量でお湯を注ぐことのできるツールです。目が不自由な方々は指を使って物の位置や温度を確認するのですが、お湯となると火傷をしてしまう。量もわからないから容器から溢れさせてしまうことだってあるわけです。実はこうした課題を解決する商品が世界中を見てもまだ無くて、それで私たちが開発するに至りました。 

―世界中を見ても無かったものを形にするってすごいことですよね。

弊社には“魔法使い”がいて、その人が全部形にしてくれます。

正体は弊社のCTOなのですが、彼は地元で見つけた素晴らしいエンジニアの一人でした。私自身は「視覚障害の世界を変えたい」という気合いこそあれども物を作ることができませんでしたから、彼のもとに行ってとにかく口説きました(笑)。結果として彼は自身が営んでいた事業を畳んで、この会社に来てくれました。今では「こんなものがあったらいいのに」といったアイデアを具現化してくれることもそうですし、エンジニアながらしっかりユーザーの方を見て仕事をしてくれている点に大いに助けられています。 

―そして今回、ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト 2022に出されたのは「SYN+」と。これはどういった商品なのでしょうか?

私たちは“視力に代わる感覚デバイス”と呼んでいるのですが、視覚障害を持っている方が周囲の環境を認知するためのメガネ型のデバイスです。目の不自由な方から話を伺うと、日常生活の中にもたくさんの困りごとがあって、例えば「洋服の色がわからないから、お葬式にピンク色の服を着て行ってしまった」とか、「(従来のデバイスだと)目の前に改札などの障害物があると通知されても、結局どこをどうやったら自分が通れるかがわからず結局杖を使わざるを得ない」といったものです。私たちのSYN+では、こうした日常課題を解決すべく、「正確に」「感覚的に」周囲の環境を認知できる機能をコアとして実装しました。

―ちなみにSYN+という名称にはどういった由来が込められているのでしょう?

「SYN」はギリシャ語に由来しているのですが、「共に」とか「一緒に」「共有する」といった意味を持っています。ここから、音を共有する「シンフォニー」だったり、感情を共有する「シンパシー」だったり、美しい単語が多数生まれています。

私たちもぜひこの言葉を取り入れたいと思ったのですが、そこに“+”を加えた意図は「豊かな社会は一人では作れない」ということです。様々な人と手を取り合い、たくさんのプラスを積み重ねていくことで、生活が豊かになっていく。この先の未来もそういう世界が続くといいなという願いも込めて、「SYN+」と名付けました。 

ビジネスコンテストでグランプリを受賞して

―そのSYN+が見事グランプリを獲得しましたね、改めておめでとうございます!
―反響はやはり大きかったでしょうか?

ありがたいことに、多くの方々からご連絡をいただきました。私たちにとっては恐れ多いような大手企業の方からも「意見交換したい」といった声を頂いて。

元々、省庁レベルで話し合われているような課題感も私たちの技術があれば解決できる!という自負がありましたから、コンテストを通じてより多くの人に知っていただくことができたのは大きな一歩だったと感じています。 

―視覚障害を持った当事者の方たちにも知っていただけたのではないでしょうか?

はい、それも大きな収穫です。彼らから話を聞いて感じるのは「周囲が気遣ってくれないと日常生活すらうまくいかない。だけど、本当はサポートしてもらいたくない(自分だけでできるようでありたい)」といったジレンマを抱えています。また以前は見えていた方が疾患などで視力が失われてしまうと、そこから数年は失意のどん底を味わうケースも多いわけです。今回もビジネスコンテストでSYN+を発表した後、「まさに死のうとしていたけれど、こういった商品ができるなら希望が持てる」と電話をしてきてくださった方が数人いらっしゃいました。

 視覚障害者が確実に増えている現代にむけて

―コンテストでグランプリを取ったことには大きな意義がありますね。

はい、そうやって障害を持った方自身だけでなく、その診察をされている医師の方にももっと知っていただいて、患者さんに「こういう商品がありますよ」と伝えてほしいです。世の中の視覚障害者の中には、ハンデを持ちながら明るく生きている方もいらっしゃいますが、それはどん底を“乗り越えた姿”だと考えています。誰しもが最初から明るく振舞えるわけではありません。生活を便利にするツールがあることを知ってもらえれば、可能になる仕事も増えますし、前を向くきっかけになるのではと思うんです。

ちなみにSYN+を使った方の中には「今まで“乾杯”と言うと、周りの人たちが自分のグラスに当てに来てくれるものだったが、初めて自分から人のグラスに当てることができた!」と言ってくださった方がいました。そういう“何気ないことが楽しめる瞬間”って、実はすごく大事ですよね。

―需要はまだまだ大きそうですね。

実は視覚障害者ってこれから増えていくと予測しています。糖尿病に付随した網膜症で失明してしまう方も多いですし、そうした方々全員が障害者手帳を取得しているわけではありませんから、統計上の数値よりも困っている人は多いに違いありません。企業のなかでも障害者雇用は従来に比べて進んできましたが、いざ職場に来てもらってもできる仕事が限られていて…という話も耳にします。ですからこれから開発する商品も含め、広く知っていただく機会を作ることで、雇用の安定や豊かな暮らしにも貢献していけたらこの上ないですね。

Healthtech DB編集部です。Healthtech DBは国内のヘルステック領域に特化したビジネスDBです。日々のヘルステック業界の動向に関する記事作成やウェビナー運営、企業・サービスに関するビジネスDBの構築を行っています。