ユビーは医療機関向けサービスと、toC向けサービスである症状検索エンジンを展開
Ubie(ユビー)株式会社は、症状検索エンジン「ユビー」を提供する企業だ。「質問に答えるだけで、気になる症状から病名・医療機関を調べられる」同サービスは、2020年4月から約2年で月間利用者数(UU)500万人を達成、累計利用回数が全国で3900万回を超えるなど、急速な普及を見せている。
現在同社は生活者向け(toC)の「ユビー」、医療機関向け(toB)の「ユビーAI問診」「ユビーリンク」という3種類を展開している。
toCサービス;症状検索エンジン「ユビー」
近年では、軽症者の救急受診、いわゆる「コンビニ受診」に対する批判も見られる一方、受診控えによる重症化例も少なくない。自己判断で適切な医療にかかるのが難しいという現状に対し、「ユビー」は “自分の症状を答えるだけで、参考病名や近くの医療機関など「受診の手がかり」がわかる” サービスを打ち出した。
なお、toBサービスの「ユビークリニック」は「ユビー」と連携している。「ユビー」で症状を検索した際の結果(病名)画面に表示される「近隣の医療機関」の中に、自分の医療機関を含められるというものだ。完全無料で近隣患者の認知アップを狙うことができる。
医療機関向けサービス;Web問診「ユビーAI問診」
「ユビーAI問診」は、患者ごとに最適な質問をAIが自動生成・聴取し、その問診結果を電子カルテに1クリックで転記できるオンライン問診システムである。
- AIの利用 → 患者ごとに最適な問診を自動生成
- ATMのような表示のタッチパネル → カンタン操作
- 電子カルテに1クリックで転記可能 → カルテの文字起こし作業の効率化
の3点が特徴だ。
ユビーAI問診の画面(https://intro.dr-ubie.com/)
特に、ウェブ問診を導入することによる作業効率の向上は著しい。一人当たりの初診問診時間が1/3になり、年間で約1000時間の業務時間削減ができるというデータも存在する。そのうえ、リンクを記載するだけで良いという紐づけの手軽さから全社の電子カルテと連携の相談が可能で、どの医療機関でも作業効率向上の恩恵を受けられる可能性がある。
症状検索エンジンのサービスの流れ
症状チェックの流れは以下の通りだ。まず、症状を持っているのが自分か他の人かを選択、年齢と性別を入力する。次に、気になる症状を端的に記述式で入力すると、それを細分化した表現がいくつか表示されるため、一番近いものを選択する。これを自分の持つ症状それぞれに対して行った後、適切な質問をAIが準備、その回答を受けて適切な質問をAIが準備、……という流れを繰り返し、10問前後の選択式問題に回答することとなる。最後のページに達すると、回答に関連する病気が関連度順に表示されるほか、症状自体の危険度や、症状に合った診療科や医療機関が紹介される。
症状検索エンジン「ユビー」の利用画面(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000048083.html)
オンライン診療とは異なる症状検索エンジンとしての位置付け
業界内で医療機器該当性が指摘されたり、メディア関係者などから「UbieのAI受診相談はオンライン診療なの?」という質問が出たりすることがあるようだが、結論から言えば、Ubie社の展開しているサービスはオンライン診療とは異なるものである。
医師以外による遠隔健康医療相談
平成30年3月に厚生労働省が発表した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」によると、情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為を総称して「遠隔医療」と呼ぶ中に、その中にオンライン診療、オンライン受診勧奨、遠隔健康医療相談があるとされる。このうちオンライン診療とオンライン受診勧奨に関しては診断等の医学的判断を含むため医師しか行えないが、遠隔健康医療相談に関しては医師以外が行ってもよいとされている。実際、医師以外による遠隔健康医療相談は「遠隔医療のうち、医師又は医師以外の者-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行うが、一般的な医学的な情報の提供や、一般的な受診勧奨に留まり、相談者の個別的な状態を踏まえた疾患のり患可能性の提示・診断等の医学的判断を伴わない行為」と定義されている。
遠隔医療の分類(https://www.mhlw.go.jp/content/000889114.pdf)
症状検索エンジン「ユビー」の位置付け
症状検索エンジン「ユビー」は、この分類に当てはめれば遠隔健康医療相談に該当すると考えられる。現在の同サービスのトップ画面にも、「入力された情報に基づき、関連する病気やその病気についての情報、関連する医療機関の情報を提供するサービスです。本サービスは、医療機器ではないため情報提供のみを行い、医学的アドバイス、診断、治療、予防などを目的としておりません。」という記載がある。医学的判断を含んでおらず、医療行為を行っているわけでも医療従事者を介在させているわけでもないため、オンライン診療ではない。
なお、2022年2月時点では「AI受診相談ユビー」という名称であったが、同年6月時点では「症状検索エンジンユビー」という名称に変更されていた。これも医療機器該当性を持たないことを明示するための策ではないかと考えられる。
類似の体験を提供するサービスにはどんなものがあるか?
Google検索
Google検索に自分の抱える症状を打ち込むと、より汎用的な語や医療現場で使われる表現への言い換えがわかる場合があるほか、「関連する質問」や「他のキーワード」に表示される質問・検索候補から、受診すべき診療科など、より自分の症状に親和性の高い情報にアクセスできる場合がある。
関連する質問(Google検索に「腹が痛い」と入力した結果)
健康相談サービス
症状についての情報が集まってもなお、自分がとるべき対応について悩ましい場合も多い。「この症状は、今すぐ病院に受診した方が良いのか」「安静にしておけば治るとして、何日くらいで治るのか」といった疑問を個別に解決できるサービスとして、健康相談サービスがある。
近年はオンラインの健康相談サービスも多い。一部にはなってしまうが、以下の通り企業名:サービス名の形で列挙しておく。ぜひご参照いただきたい。
- MRT株式会社:ポケットドクター
- エムスリー株式会社:アスクドクターズ
- 株式会社メディカルノート:Medical Note 医療相談
- 株式会社MEdiplat:first call
- 株式会社カラダメディカ:CARADA 健康相談
- LINEヘルスケア株式会社:LINEヘルスケア
病院検索
Google検索や健康相談サービスから得られた情報をもとに「医療機関を受診しよう」と思った場合、とりあえず近所の病院を訪れたり、事前にネットで検索して良さそうな医者に行ったりするだろう。Googleで直接的に検索する以外に、ホスピタ・病院なび・メフィックスなど、病院検索に特化したwebサービスも多数提供されている。
症状検索エンジン
Ubie社の提供する「症状検索エンジン」ユビーは、いわばこれまでの流れ(Google検索→健康相談サービス→病院検索)を一気通貫に提供しているサービスと言える。症状を医療現場に通じるような形へと言語化し、放置すると危険な症状かどうかを提示、適切な診療科・医療機関を提案する。今まで単一サービスでは不十分に終わっていた悩みの解消や、複数サービスの併用によって初めて実現できていた疑問の解決を、一つのサービス内で完結させようとする、まさに革新的な試みと言えるだろう。
さらに、Ubie社は医療機関向けのプロダクト「ユビーAI問診」も提供しているため、ドクターが対象患者を診察して最終的に医師が疑った病名をフィードバックするようになっており、症状検索エンジンのAIがそのデータを都度学習していく仕組みとなっている。つまり、常に最新のデータを反映したプロダクトとして提供できるという強みを備えている。
今後のユビーのビジネス展開について
症状検索エンジン「ユビー」とWeb問診システム「ユビーAI問診」の急速な普及により、唯一無二の地位を築きつつあるユビー株式会社。同社がこれらの知見を足掛かりとして新たに推進している事業から、以下の3つを取り上げる。
- 地域医療連携のリデザイン
- 製薬企業との協業
- 世界78億人の医療アクセス支援
順を追って、Ubie社の展望を紐解いてゆく。
ユビー・ユビーAI問診を活用した地域医療連携の再編
Ubie社は、ユビーとユビーAI問診により地域医療圏全体で以下3点の実現を目指している。
- 医療アウトカム向上
・ユビー:生活者がより適切な地域医療へとアクセスできるよう支援 → 疾患の早期発見・患者の早期受診を実現
・ユビーAI問診:クリニックから病院への適切な紹介を促進 → 患者一人一人に対する適切な治療を実現 - 医療資源の適正化
・ユビーAI問診:病院からクリニックへの適切な逆紹介を促進 → 医療リソースの適切な配分を実現 - 医療従事者の生産性向上
・ユビーAI問診:患者ごとにAIが自動生成した最適な質問を聴取し、その問診結果を電子カルテに1クリックで転記 → カルテ記載に充てる業務時間の削減
各自治体で、行政・医師会・医療機関と共同の実証実験を実施しており、2020年12月には神奈川県海老名市に対して両サービスの提供を開始、2022年3月には千葉県御宿町と、6月には広島県三原市と、地域医療のデジタル活用支援に関して連携する旨の協定を締結した。特にUbieと三原市の連携については、2022年に入ってコロナ禍が2年以上に及ぶ長期戦となる中、安全性と経済活動を両立させる新たなフェーズで各自治体の対応に注目が集まっているという背景を受け、デジタルを活用した新しい受診スタイルの確立と持続可能な医療体制の構築に関する取り組みを開始したという経緯がある。行政が市民に向けて、三原市公式HPでユビーを紹介、約2万人が登録する公式LINEでお知らせを配信するなどの働きかけを行うほか、かかりつけ医の役割を担うクリニック・診療所を対象として、説明会開催などによるデジタル業務効率化ツール導入の全面的な支援を行う予定である。
広島県三原市におけるユビー・ユビーAI問診の利用(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000048083.html)
製薬業界向けコンサルティング事業の強化
2021年10月に、UPC(Ubie Pharma Consulting)という組織が新たに設立された。UPCが目指すのは、ユビー・ユビーAI問診という医療機関・生活者との直接的な接点を活かした、製薬企業の薬剤とそれを必要とする患者の出会いの数を最大化する取り組みの支援である。
同社は2020年末から少しずつ製薬企業とのコラボレーションを開始しており、過活動膀胱患者へのさらなる貢献を目指したファイザーとの協業や遺伝性血管性浮腫の早期発見を目指した武田薬品との協業などを行ってきた。
このように製薬業界との協業を試みている背景としては、「人々を適切な医療に案内する」ことを目指す中で、患者と医療関係者に「ユビー」「ユビーAI問診」を提供することで「医療の開始される瞬間」に対して積極的にアプローチをとってきたものの、「治療が開始される瞬間、治療の経過を見守る時期や予後」へのアプローチは不十分であったという認識があったという。後者へのアプローチを製薬業界との協働によって実現したいという思いから、UPCの立ち上げが決定された。
さらに2022年7月にはシリーズCファーストクローズにて35億円の資金調達を実施したことが発表されたが、ここで一番に挙げられている目的が「製薬企業向け事業の人員増強に充当」することであった。2021年末のUPC立ち上げから大手製薬企業20社以上と取引があったこと(後述)を背景に、事業開発およびグロースがより一層加速される見込みである。
Ubie株式会社と業務提携を行っている製薬企業一覧
2022年7月末時点でUbie株式会社との業務提携が明らかとなっている製薬企業をまとめたので、参考にしていただきたい。
まず、下記5社はいずれも症状検索エンジン「ユビー」と各社の情報提供サイト・LINE公式アカウントの連携によって疾患情報を提供することで、認知向上・早期受診/発見に繋げることを主な狙いとしている。
- ノバルティスファーマ株式会社、大塚製薬株式会社(2021.03.10~)
対象領域:心不全
LINEアカウント:ハーティーサポート(2022.07.30現在友だち追加不可能) - 武田薬品工業株式会社(2021.04.21~)
対象領域:希少疾患の一つ、遺伝性血管性浮腫(HAE)
情報サイト:腫れ・腹痛ナビ - ファイザー株式会社(2021.10.15~)
対象領域:切迫性尿失禁(UUI)などの過活動膀胱(OAB)
情報サイト:UUI相談室 - バイエル株式会社(2021.11.24~)
対象領域:子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症、機能性月経困難症などの婦人科疾患
情報サイト:生理のミカタ - 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社(2022.02.02~)
対象領域:肺線維症などの間質性肺疾患
情報サイト:わかる、つながる、肺線維症
続いて新たに業務提携が発表されたのが、アキュリスファーマ株式会社である。
- アキュリスファーマ株式会社(2022.06.29~)
「睡眠エコシステム」構想と銘打ち、睡眠不足や睡眠関連疾患など睡眠に関わる社会課題の解決を目指す中で、Ubie株式会社との提携を決定した。最初に取り組むのは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)とナルコレプシーの患者を対象とした実態調査・データ分析の予定。
このように、Ubieは上述6社とは疾患の認識向上・早期発見の促進などに主眼を置いた業務提携を行っていることがわかる。しかし、前述の通り「2021年末のUPC立ち上げから大手製薬企業20社以上と取引があった」ことがわかっているため、コンサルティングをはじめとする上述とは異なる類の活動も盛んだったものと考えられる。
海外進出への取り組み
Ubie株式会社は「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」という企業ミッションの実現を目指すにあたり、医療水準の高い日本の臨床現場のエッセンスを吸収した問診システムで世界の医療に貢献することを視野に入れている。
グローバル展開の第一歩として、同社は2020年10月にシンガポール法人を設立。第一回「日ASEANにおけるアジアDX促進事業*」に採択されるという後押しもあり、現在ではマレーシア、インドにも拠点を置き、APAC(アジア太平洋)領域における事業展開を目指して実証実験・サービス開発を行っている。シンガポールを含めたAsia-Pacific諸国では、高齢者比率の上昇、慢性疾患(高血圧・糖尿病など)有病率の上昇、死因に対して非感染性疾患の占める割合が高いことなど、多くの面で日本と類似性の高い医療背景を有することが知られている。最初は日本での知見を活かしやすいアジア太平洋地区での展開を加速させ、最終的には世界78億人の医療アクセスの向上を目指す方針だ。
(*令和元年度補正予算において措置された経済産業省からの拠出金に基づき日本貿易振興機構(JETRO)が実施する事業。日本企業がASEAN企業・機関と連携し、デジタル技術等のイノベーションを駆使しながら、日ASEANの経済・社会課題解決を目指す取り組みを支援する。)
まとめ
AI・医療に関して注目・関心がますます高まっている中、症状検索エンジン「ユビー」の急速な普及により新たな医療体験を世間に浸透させることに成功しつつあるUbie株式会社。検索システム・問診システムの開発・運営で得た知見をもとに、「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」というミッションに向け、どのような事業展開を見せるのか。地域医療連携、製薬企業支援、海外進出といった領域を中心に、引き続き注目していきたい。