ウェアラブルデバイスを使った臨床研究はどれくらい広がっているか?

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ウェアラブルデバイスを使った臨床研究はどれくらい広がっているか?

ウェアラブルデバイスの普及によって変化を迎える臨床研究

ウェアラブルデバイスは年々普及しており、日本においてもその保有数は11.3%である。(注1)特にFitbit, Apple Watchをはじめとするスマートウォッチの販売台数は急増し、2021年度には343.2万台を売り上げ、前年度に比べ49.6%増加した。(注2)

ウェアラブルデバイスは手軽に心拍数、歩数、睡眠状態を計測することができ、健康管理(PHR)目的の利用が多い。実際にウェアラブル端末で最も利用されている機能は歩数計測機能であり、ヘルスケアへの活用が期待され、行われている。

そのような背景を受け、ウェアラブルデバイスを用いた臨床研究数も増加している。2018年までは1〜3件ほどであった医薬品臨床試験も、現在では14件にまでに増えた。(注3)

本記事ではウェアラブルデバイスの中でも腕時計型に焦点を当て、それを利用した臨床研究について実際の事例を見つつ今後の発展可能性について議論したいと思う。

注1:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000602.000000624.html
注2:https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=554
注3:https://www.jpma.or.jp/opir/news/063/05.html

臨床研究におけるウェアラブルデバイスの活用可能性

ウェアラブルデバイスを用いて主に得られるデータを以下に列挙する。

ウェアラブルデバイスには主に以下のようなメリットがある。

・対象者の負担を軽減することができる
・睡眠時も含め24時間行動評価することができる
・主観的なでなく客観的なデータを得ることができる
リアルタイムで更新される
・心拍数や血圧を同時に測定することでそれらの関連性を見ることができる

これらのメリットは従来の研究方法では得られなかったものであり、より幅広いデータを集めることができるようになった。

昨今では、RWDとして不特定多数からデータを集めることへの期待も高まっているが、対象を限定している臨床研究においても利用されている。

Fitbitの臨床研究における有用性に関する研究事例

ウェアラブル活動量計(FITBIT)を使用した尿路上皮がん患者の副作用モニタリング

  • FITBITの癌化学療法施行中の全身状態のモニタリングツールとしての有用性
  • 歩数・心拍数から有酸素運動時間を導き、非血液毒性との関連性が示されたためFITBITが有用であることがわかった

http://archive.jsco.or.jp/detail.php?session_unique_id=57-P050&sess_id=14628&strong=1

人工膝関節置換術後患者に対する身体活動量遠隔モニタリングー実施可能性調査

  • 人工膝関節置換術を受けた患者の遠隔モニタリングが可能か検証した研究。元々術後の体重増加によって症状が再度悪化することが問題となっていた。
  • Fitibitを用いて、患者の身体活動量のデータを得た理学療法士がフィードバックを患者に送信するプログラムを実施。
  • 結果としてFitbitの装着遵守率99.5%であり、モニタリング成功率は92.5%だった。よって身体活動量を遠隔で把握することが証明された。

山口英典、美﨑定也、山本尚史、大島理絵、田澤智央、杉本和隆(2020). 人工膝関節置換術後患者に対する身体活動量遠隔モニタリ ング―実施可能性調査. PTジャーナル, 54(7)., 850-854.

https://webview-isho-jp.kras.lib.keio.ac.jp/journal/detail/pdf/10.11477/mf.1551201985

Heart rate detection by Fitbit ChargeHR: A validation study versus portable polysomnography

  • Fitbit ChargeHR™を用いた睡眠時における心拍数測定の正確性を検証することで、睡眠の質をFitbit ChargeHR™で測定できるのかを検証している。
  • 携帯睡眠ポリグラフとFitbit ChargeHR™で得られたデータを比較したところ、その差は-0.66bpmでありFitbit ChargeHR™の心拍測定機能の信頼性が証明された。よって睡眠に関する研究に用いられるデバイスとして有用であることがわかった。

Benedetti, D., Olcese, U., Frumento, P., Bazzani, A., Bruno,S., Ascanio, P., Maestri,M., Bonanni,E., & Faraguna,U. (2021). Heart rate detection by Fitbit ChargeHR™: A validation study versus portable polysomnography. Journal of Sleep Research, 30(6).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9286609/

ウェアラブル端末データと欠測パターンからの行動リズムの考察

  • ウェアラブル端末で測定されたデータを研究に用いる際に、充電中以外の理由で欠測があった時補完することができるかを検討している。
  • 欠測の理由として、充電中以外にも入浴や運動、かぶれなどの有害事象が挙げられる。
  • 特定の分布を仮定しないランダムフォレストによる代入により解析目的に応じて適切な欠測補完は可能であることがわかった。

木口亮、藤田智紀、宮澤昇吾、吉田祐樹、北西由武. (2020). ウェアラブル端末データと欠測パターンからの行動リズムの考察. 人工知能学会全国大会(第34回).

Fitbitを用いた臨床研究例

母親のストレスマネジメントについての研究 -ウェアラブルデバイスを用いた試み-

  • ウエアラブルデバイスを用いて、心拍、睡眠データを収集し生理的なストレスチェックをしつつ、主観的なストレスレベルも測定することで、その相関と母親のストレスコーピングの特徴を明らかにすることを目的としている。
  • 67名中55名のデータに相関が確認されたが、一貫した傾向はなく各個人によることがわかった。また、ストレスを計測している事実がストレスとなり結果に影響を及ぼしたと考えられる。
  • ストレスを多く抱えている母親ほど「自己肯定型」コーピングを行うようになった。

田島真沙美. (2021). 母親のストレスマネジメントについての研究 -ウェアラブルデバイスを用いた試み-. 日本教育心理学会第63回総会発表論文集.

Sleep quality in cigarette smokers: Associations with smoking-related outcomes and exercise

  • 一般的に関連性のある運動と睡眠だが、喫煙者においても同様かFitbitを用いて各被験者の運動量を測定し検証した。
  • 喫煙者は全体的に睡眠の質が低かったが、運動により多少の質の向上は見られた。

Purani, H., Friedrichsen, S.,& Allen, A, M. (2018). Sleep quality in cigarette smokers: Associations with smoking-related outcomes and exercise. Addictive Behavior, 90, 71-76.

Probiotics, Anticipation Stress, and the Acute Immune Response to Night Shift

  • 夜間労働者の睡眠の質は、慢性的な疾患に影響を与えている。この病に対する治療として、プロバイオティクスの有効性を調べるため睡眠の質をFitbitで測定し検証した。
  • プロバイオティクスは夜間労働者の予測可能なストレスに対する免疫系に有用である可能性があることがわかった。

West, N, P., Hughes, L., Ramsey, R., Zhang, P., Martin, C, J., Leyer, G,J., Crisps, A, W., & Cox, A, J. (2021). Probiotics, Anticipation Stress, and the Acute Immune Response to Night Shift. Front Immunol.

まとめ

本記事ではFitbitを始めとしたウェアラブルデバイスの臨床研究ツールとしての可能性を実例を挙げ検討した。
その結果、ウェアラブルデバイスには特に睡眠・ストレス・運動評価の面において大いなる可能性を秘めていることがわかった。

利点は手軽さのみならず、24時間測定可能であることや客観的なデータによってストレス・睡眠を計測できることにあり、既に多くの臨床研究に用いられている。

しかしながら今後の課題点としては、
・充電等による欠測を減らすこと
・デバイス着用によるストレスに関する研究

が求められていると考える。

また、ウェアラブルデバイスの普及も年々進んでいる今、RWDとしての活用も注目されており期待が高まる。

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