今回はMove2Earnサービス”Aglet”に注目し、STEPNの現状や仕組みと比較することでこのMove2Earnサービスは本物なのか見極める。
STEPNの栄華とMove2Earnの構造の難しさ
STEPNは一時ユニコーン企業となったが、暴落し現在は低迷状態が続いている
2022年初めのアプリリリースより、「歩いて稼げる」と話題となりユーザーが拡大したMove2Earnサービス”STEPN”に関する記事を書いたのは、2022年3月。
STEPNはその後わずか1カ月間で、デイリーアクティブユーザー(DAU)が3万人から40万人に増え、評価額が10億ドル(約1300億円)を超えてweb3.0分野のユニコーン企業となった。
ただ、その後中国当局の規制への対処により、北京時間5月27日0時、中国本土ユーザーへのGPSおよびIP位置情報サービスの提供を2022年7月15日に停止するとTwitter公式アカウントで発表すると、1日で取引仮想通貨であるSolanaは30%急落し、現在も低迷が続いている。
Solanaの3月からの価格チャート
STEPNの構造的な欠陥が暴落につながった
STEPNでは構造として、走ることで稼げる仮想通貨の原資はコミュニティの構成員が払ったお金となっており、ポンジスキームに似ていると前回の記事でも指摘していた。この構造は、ユーザー数が伸び、お金の循環が盛んな段階では効果的である一方で、ユーザー数が減少したり、全員が揃って利確及び損切りなどで現金化しようとしたりするタイミングでは一斉に暴落する危険性を内包している。
成功しているweb3.0コミュニティではプロジェクトへの貢献が報酬に繋がる
web3.0関連プロジェクトで長期的に盛り上がっているコミュニティのほとんどでは、成果を獲得できるのは、技術的な指導やNFTの創作活動、法規制上のアドバイス、助成金獲得などコミュニティを運営していく上でプロジェクト全体に貢献することで報酬がもらえる構造となっていることが一般的である。
「歩くだけで稼げる」Move2Earnプロジェクトでは報酬づけの構造構築が課題である
それに対し、「歩くだけで稼げる」ことが売りであるMove2Earnは、プロジェクト自体に直接的には貢献していない歩くだけのユーザーが報酬を得る構造となっており、STEPNの低迷も考慮するといかにユーザーに報酬づけをするかの構造構築が難しく、大きな課題となる。
注目の集まるMove2Earnサービス「Aglet」とは
「スニーカー版のポケモンGO」とも言われるAgletは、スニーカーをデジタル上で収集し所有するサービスである。以下で、具体的にAgletとはどのようなサービスなのか紐解いていく。
Agletは2020年に元AdidasのディレクターであるRyan Mullins氏に設立された
Agletは、自宅に400ペア以上のスニーカーを所持・保管する生粋のスニーカーヘッズであり、adidasのフューチャー・トレンドの部署でディレクターも務めたRyan Mullins(ライアン・ムリンズ)氏により2020年に設立された。
*スニーカーヘッズ(sneakerhead)
熱狂的なスニーカーコレクター。特に希少性が高く、入手困難なスニーカーを所有、購入、販売する人などを呼ぶ。
Agletには実在するスニーカーがレアリティごとに分類されており、レアなスニーカーを履き歩くことで効率良くゲーム内通貨を稼ぐことができる
Agletでは、STEPNと同様スニーカーがレアリティにより分類されているが、Agletでは実在するブランドのスニーカーが登録されている。
レアリティは、TIER 0 からTIER 5まで6段階でランク付けされており、現実世界での入手困難性を踏まえ、ランク付けが決まっている。例えば、初期段階で手に入るTIER 5のスニーカーは、CONVERSEのCHUCK TAYLORやadidasのSTAN SMITHであり、最上級ランクのTIER 0 には、adidas YEEZY 350 V2などが含まれる。
レアリティが高いほど、歩く度に稼げる効率や耐久性が変動し、これはSTEPNと類似している。
現状ではゲーム内の通貨を仮想通貨と交換できないが今後実装される予定である
現在のサービスでは、ゲーム内の通貨を仮想通貨と交換できないが、2022年Q3,4で実装される予定である。それゆえ、現状では歩いてゲーム内通貨を稼げるが現金化はできないことからMove2Earnと呼べるかは議論の余地がある一方で、将来的にはMove2Earnサービスになることに間違いない。
Move2Earnサービス「Aglet」と「STEPN」はどこが違うのか
ここでは、同じMove2Earnサービスである「Aglet」と「STEPN」のサービスがそれぞれどう違うか以下でまとめた。
Agletは無料で始めることが可能である
STEPNではレンタルサービスを用いることで無料で遊ぶことができるとはいえ、全体的な構造として、STEPNの市場マーケットの資金源は参入者がスニーカーを購入時に支払ったお金になっており、本格的に遊ぶためには初めのスニーカーを購入することが必要である。
一方で、Agletでは、現状でスニーカーを仮想通貨で売買するサービスが搭載されていないため一概に断定はできないが、無料のスニーカーが配布され、歩くことで様々なスニーカーを収集し売買できるモデルであるため、将来的にも無料で始めることが可能であると考えられる。
AgletはSTEPNに比べ、稼ぐためのツールというより、スニーカーコレクターに向けたサービス感が強い
AgletはSTEPNと同様にMove2Earnではあるものの、「歩いて稼げる」ことよりは、デジタル上でスニーカーを所有できることに重きを置いた、スニーカヘッズの為のサービスである。
登場するスニーカーは、現状では全て実在するスニーカーであり、スニーカーファンのためのコミュニティ・ビルディングを目指している。Healthtech DB編集部は、将来的にはデジタルスニーカーの「SNKRdunk」のようなプラットフォームの役割も担うようになるのではないかと考えている。
*SNKRdunk(リンク)
毎月40万人以上が利用する日本最大級のスニーカー・ストリートブランド情報メディア&コミュニティサービス
AgletとMove2Earnの将来性とその先のMove & Earnへ
Move2Earnは優れたシステムだが、持続可能になるためには3つの問題点がある
Move2Earnサービスは、ウォーキングやランニングなどの一部のフィットネス好きを除き、誰も望んでやりたがらない行為を報酬づけして行動変容を促すことで、健康増進やコミュニケーション・コミュニティの創出など副次的な効果を生み出す、優れたシステムであるといえる。
ただ、上記の通り、Move2Earnではプロジェクトへの貢献度に伴い報酬を支払う構造にはできないため、いかにユーザーに報酬づけをするかの構造構築が難しい。
現状のMove2Earnの具体的な問題点として、以下の3つが挙がる。
①収益源がユーザーがNFTを購入する際の売上とその二次流通の手数料の2つだけで構成されていること
②ユーザーの保有するNFTに報酬源以外の価値がないこと
③参入したユーザーが原資回収を真っ先に考えていること
稼ぐためにMoveするMove2Earnではなく、持続性のある"Move & Earn"への改革が必要である
上記の3つの問題点を解決することで、現状プロジェクトへの貢献度に伴い報酬を支払う構造でなくても、これまでのMove2Earnサービスは持続性のあるMove & Earnへ変容し、より大きな社会的な価値を生み出すのではないかと考えている。
Agletに集まるスニーカー・コレクターの存在がSTEPNの二の舞を回避し真のMove & Earnへコミュニティを進化させる鍵である
Agletにはスニーカーを収集するという報酬目的よりも大きなスニーカー・コレクター達のモチベーションがあり、上記の問題点の②と③が解決されている。
Agletが今後現金化できるようになっても、真のMove & Earnとなり持続性のあるコミュニティが構成されるためには、スニーカーヘッズ達の存在が鍵となることは間違いない。